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詩ことばの森㊷「わたしの家は」

海辺の町を歩いていて、もしかしたら、昔ここに住んでいたのかもしれないと、思うことがあります。根拠はありません。そういう気持ちになるのは、脳の異常かもしれない、そんなことを考えながら歩きました。不確かな自分という存在。そんなものを抱えながら、私は旅を続けているのかもしれません。

わたしの家は

 
わたしの家は
丘のうえにありました

窓辺には
ひっそりと たたずむ影
ひなたを慕う人たちが
秋の庭を歩く
夢をみています

わたしの家は
海のそばにありました

鳥たちは
白い翼を はぎれよく
澄んだ空を はなばなしく
羽ばたきつづけていました

わたしの家は
どこにもありません

故郷の二文字を
栞にして旅に出たきり
曲がりくねる路上を
さまよいつづけるのですから

ふるあとから
あとからふりそそぐ
雨が
わたしをこの場所に
立ち止まらせても
やがて来る 
流離の予感

見知らぬ町には
だれもいません
       森 雪拾
 

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