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パーソンズ美術大学留学記シーズン3 Week10 #256

暑くもなく寒くもなく、秋らしい一週間でした。道端には落ち葉が溢れていて、ブロワーで掃除をする人を近所でよく見かけます。どの授業も約6週間後に控えた最終発表に向けて忙しくなってきていて、そろそろこの留学記の更新が怪しくなってくる頃でもあります。

Professional Communication

今週は、これまでに作ったポスターを誰かと交換して、そのポスターを編集・再構築するという課題でした。これまでと違って自分で内容のアイデアを考えなくていいという点では楽ですが、すでに完成している作品に手を加えるというのは別の難しさがあります。原作がある作品のアニメ化、実写化を任される人の苦労を体験できたような気がします。

一方で、自分のメッセージは他人だからこそ上手く伝えられるという側面があることも学びました。というのも、自分の伝えたいことを自分の言葉・作品で伝えようとすると、あれもこれも伝えたくなって結局何が言いたいのかが分からなくなってしまうことがあります。

岡目八目とはよく言ったもので、むしろ他人から見れば「こうすれば分かりやすくなる」というのが一目瞭然だったりします。田中泰延さんの『読みたいことを、書けばいい。』の中で、広告代理店は自分では気づけない見せ方を代わりに見つけるのが仕事だと書かれていたことを思い出しました。

さて、今回の課題で感じたのは、意識的か無意識的かは曖昧ですが、どうやら自分は相手のことにあまり関心を持たないようにしているということ。勝手な偏見を持たないためか、相手と仲良くなってもいつか疎遠になると思っているからか、情報過多になるのを避けるためか。いずれにせよ、自分はいかに他人のことを知らないのかを自覚するきっかけになりました。

あと、デザインが上手い人というのはそもそも対人関係が上手い。日頃からしているコミュニケーションの媒体が作品に置き換わっただけで、やっていることは普段と変わらないのでしょう。ポスターをつくる度に自分の至らなさ、人間力の乏しさを突きつけられるような気がしています。

Anthropology and Design

今週はTransdisciplinary Designの講師陣の一人でもあるJohn Bruceをゲストに招き、彼が2012年から続けている「End of Life」というプロジェクトをテーマにデザインやエスノグラフィーについて話しました。

印象的だったのは彼のプロジェクトへの向き合い方について。彼はFilmmakerでありプロジェクトを"End of Life"という映像作品にまとめてはいるのですが、カメラを回していない時の経験やカメラを回しているけれど使わない映像素材も彼にとっては大切なのだと語っていました。

より良い映像作品をつくるという観点で言えば、常にカメラを回すor必要な場面だけ撮影してさっさと撤収した方が効率は良さそうです。でも、彼は最終的な映像のために撮影をしているわけではないとのことでした。

この話を聞いて、彼にとって映像制作は誰かと共にいるための口実にすぎないのではないかと思いました。たとえば、「一緒にお茶でもしませんか?」と尋ねる時、お茶を飲むこと自体は目的ではありません。お茶を飲むという手段によって、話をして仲良くなることが目的です。同様に、デザインだって「デザインをします」という名目で相手と一緒に過ごして仲良くなることが本当の目的なのかもしれないと思うようになってきました。

となると、解決策を提示することがゴールでなくなります。Transdisciplinary Designが問題解決型のデザインを好まないのは、こうした考え方に由来するのかもしれません。「こうすればあなたの問題が解決しますね。では、さようなら」というスタンスではなく、「あなたのことをもっと知りたい。あなたと同じように悩んだり喜んだりしたい」という姿勢が求められているのでしょう。

「一緒にお茶でもいかが?」と誘われて「このあたりで一番美味しいお店はここだよ」と答えるのが問題解決型のデザインならば、「いいね。あなたと過ごせるならどこでもいいよ」と返すのがTransdisciplinary Designらしいのかもしれません。

SuperstudioとThesis1はプロジェクトのフィードバックが中心だったので、お休みします

まとめ

「デザインを何のために使うのか?」を考える一週間でした。Transdisciplinary Designが「デザイン=問題解決」という図式を疑うことで何を目指しているのか疑問だったのですが、「デザインをすること」を口実・建前にして他者と共に時間を過ごそうとしているのではないかというのは大きなヒントになる予感。最近は「他者性」というキーワードも気になってもいます。

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