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パーソンズ美術大学留学記シーズン3 Week2 #234

Week2に入り、ほとんどの授業の初回が終わりました。まだ一週間の過ごし方のルーティンが定まらず、「今の時間は何をするべきか?」と考え続けています。Week3が過ぎれば全ての授業を一通り受け終わって、どの授業の課題をいつするのかのペースが掴めるはず。

Professional Communication

「Professional Communication」という授業では、主に卒業後の進路に備えるために、自分の活動を他人にどうやって伝えるのかを考えていきます。 特にTransdisciplinary Designは多様なプロジェクトをしているし、卒業後も「UXデザイナー」のように決まった職種に就職するわけではないので、自分のことをどうアピールするかを考える授業は必須と言えます。

といっても、ひたすら履歴書やポートフォリオを改善して見栄えをよくするための実践的なコツを教わるというよりも、もっと長期的なスケールで自分のことを説明できるようになろうというコンセプトです。PracticalとVisionという言葉で対比されていました。

学期全体のスケジュールとしては大きく「Voice」「Audience」「Platform」という3つのフェイズに分かれています。「Voice」では自分がやりたいことを見つめ直し、「Audience」では社会が求めていることを分析し、「Platform」でこの二つを結びつける手段を決めるといった流れのようです。個人的には「自分と世界の接点を探る」ことをテーマに最近考えることが多く、この授業のコンセプトがまさに自分の問いと共鳴していると感じます。

印象的だったのは、「What is your style?」という問い。何か仕事をする、仕事でなくても何かのコミュニティに所属する場合、自分に仕事を依頼したらどんな結果が返ってくるのかを相手に予め知らせておく必要があります。仕事の依頼主にとっての「アウトプットの予測可能性」がStyleです。

また、自分のスタイルを見つけていくたとえとして「星座」の話が印象的でした。夜空にある無数の星の中からいくつかの星を選んで結び、星座にする。自分の経歴を人に伝えるときもこれと同じで、自分の人生で起きた無数のイベントの中から、自分が将来やりたいことと関係しそうなものだけピックアップしていくことになります。自分のスタイルとは流れ星のように流れてくるのを待つものではなく、星座のように自ら描いていくものなのかもしれません。


Anthropology and Design

今週は先週の人数からほぼ倍増した約20人ほどが出席していて、あらためて自己紹介から始まることに。その後、「Community Agreement(クラス内の決まりごと)」をみんなで話し合いました。「asking questions without fear(恐れずに質問しよう)」や「open to sharing(どんどん共有しよう)」など、心理的安全性を確保するためのアイデアが複数出ました。初対面の人が集まってお互いに学び合う場では、アイスブレイクやラポールの形成が重要です。

今回のメインテーマは、デザインと人類学が社会で果たす役割について。この議論の中で印象的だったのが、"Designed by Apple in California Assembled in China"という言葉がアップルの製品に印字されているということ。「デザインしたのはアップルだけど、組み立てたのは中国(だから、動作不良があってもデザインしたアップルのせいじゃないよ)」と言っているようにも見えます。「デザインは設計のことだけだから」と責任逃れをしないようにすべきという話でした。

また、授業内のアクティビティとして「エスノグラフィック・インタビュー」を学生同士で行いました。特にJames Spradleyが提唱する方法を学び、①雑談ベースで会話をしながら、②相手の価値観ではなくて事実をきくということを意識しました。

“It is best to think of ethnographic interviews as a series of friendly conversations into which the researcher slowly introduces new elements to assist informants to respond as informants.”

James Spradley

アクティビティの後のディスカッションでは、「どんなインタビューが良いインタビューか? 良いインタビューをするためのコツはあるか?」という話が中心でした。学生としては、手っ取り早くインタビューが上手くなる方法が知りたいところ。

ただ、先生からは「料理のレシピを渡したとしても、そのレシピを見る人、使える食材や料理器具によって完成する料理は変わる」というたとえ話がありました。美味しい料理を作る方法をシェアするには、レシピをより詳細にした方がいいのか、はたまた料理の本質を伝える方がいいのかも悩むところ。

ちなみに、私は『料理の四面体』という本を思い出していました。この本によると、全ての料理は火、油、水、空気をどのように使うかで分類できるそうです。たとえば、火からの距離が離れる(空気が増える)につれて、グリル、ロースト、スモーク、天日干しとなります。油の量が増えるにつれて、煎る、炒める、揚げるとなったり、水の量が多くなるほど、蒸す、煮る(茹でる)となったりします。

話をインタビューのコツに戻すと、インタビューのコツを細かく列挙してマニュアル化することもできるかもしれませんが、そうすると自然な会話でなくなったりその人らしさがなくなってしまう恐れがあるということでした。

また、「Decolonization(脱植民地化)」という言葉の意味についても議論しました。たとえば、アメリカではヨーロッパによる入植や奴隷制度にまつわる文脈で使われますが、他の地域では異なる意味になるのではないかという問題提起です。もしも日本でDecolonizationを考えるならば、黒船来航以降の西洋化の歴史を考えることになるのでしょうか? 日本ではあまり語られることのないDecolonizationの概念を日本にも輸入すべきかどうかを考えることは、アメリカに留学した身としては避けられない気がします。


Mindfulness and Engagement

選択科目として、「Mindfulness and Engagement」という授業も受けています。来週は二日間の”Retreat”と呼ばれる集まりがありますが、それ以外は同じ時間に集まる機会はなく、レクチャー動画を見たり、論文を読んだり、実際に瞑想をしてみたりを一人ひとり自由なペースでできるスタイルです。

先週は、マインドフルネスの概要を教わりました。マインドフルネスの定義の一つとして、”awareness of present experience with acceptance(現在の体験に気づいて受け入れる)”というのが、個人的には分かりやすかったです。また、マインドフルネスは仏教などの東洋思想を起源としているにもかかわらず、”Mindfulness”という言葉に訳されて西洋的・資本主義的文脈で消費されていることをどう考えるべきかというテーマもありました。

今週は、”Awe(オー)”と思うことが、自分のエゴを抑えて向社会的な行動を促すという研究があることを学びました。”Awe”とはこれまでの自分の常識とは違うことに気づいて鳥肌がたつような体験などを指します。心理学の実験で、人工的に”Awe“を体験させた後にゲーム理論などのテストをすると、有意に利他的な行動を取る傾向があったそうです。

仏教でも、瞑想などを通して縁起や無常などを悟ることによって無我の境地に至ったり慈悲の気持ちが養われたりするとされています。東洋思想で提唱されていることが、科学によって証明されているというのも興味深いです。

仏教を科学の言葉で語り直すというムーブメントは個人的にホットなテーマです。仏教の視点だけだと「言葉では説明できないから、とにかく実践しなさい」となりやすく、初心者にはとっつきにくい。でも、仏教の教えを現代人が慣れ親しんだ科学によって「証明」することで、仏教を宗教としてではなく哲学として万人に伝わるようにできるはずです。


Thesis 1

Transdisciplinary Designの2年目では、修士論文に着手することになります。今学期では主に研究テーマを決めていくことを目標にした「Thesis 1」という授業があります。

この授業でも初回は自己紹介からで、「何か動物が絡んだエピソードを紹介する」というお題でした。私は「実家では亀をペットとして飼っています。私もペットの亀もほとんど話さないけれど、ノンバーバルな感情表現をしたり、なついたりします」と自己紹介しました。

さて、Transdisciplinary Designで修士論文を進めるにあたって困るのは、論文を進めるための方法論がないということ。特定の学問内での研究であれば、その学問に特有の方法論に倣っていれば研究は進みます。しかし、Transdisciplinary Designの場合は多様な学問領域をまたぐという性質上、学問同士の方法論が矛盾する場合などもあり、特定の方法論をそのまま採用するわけにはいきません。むしろ、つくり方をつくるということから始めなければならないのです。

なので、方法論がない中でも研究を進めていく必要があり、そのためには自分の興味を軸にすることや、調べたことをこまめに記録(Research Journal)に残しておくことが重要なのだそうです。最終的なゴールが見えないまま突き進んでいくのは不安ですが、それもTransdisciplinary Designらしさと思うしかなさそうです。


カフェで一休み

あるクラスメートから「今学期は今まであまり話す機会のなかった人と話そうと思ってるんだけど、今度一緒にコーヒーでも飲みにいかない?」と誘われました。パーティー系のお誘いにあまり参加しない私ですが、直々のご指名だったことと、大人数ではなく一対一での会話ならということで一緒にキャンパス近くのカフェに行くことにしました。

カフェでの注文を終えて飲み物が出てくるのを待っている時に「なんで私と話そうと思ったの?」と聞いてみると、「感謝の言葉を伝えてくれたから」とのこと。というのも、先日の「TD convening」の運営にボランティアで参加していたクラスメートにお礼のコメントをSlackで送ったのですが、ボランティアだった彼女はそのことを嬉しく思ってくれたのだそうです。「感謝の気持ちはできるだけ伝えよう」という日々の行いが、思わぬ形で報われました。

夏休みに何をしたか、選択授業は何にしたか、修士論文はどんなテーマを予定しているか、卒業後はどうする予定か、などのたわいのない話をしました。それでも、まったく違う国に住んでいた二人がニューヨークという場所で出会い、同じ時期に同じ学部に所属することになっているという奇妙な縁を感じていました。

また、「さっきの自己紹介だけど、あなたと亀が似てるっていうのはまさにその通りだね」と言われました。「もっと話した方がいいのかな?」と返すと、「別に今のままでいいんじゃない? あなたが何かを話す時はじっくり考えた後だということを感じるし、いつもinspiringなことを言ってるとも思ってる」と言ってくれました。

ある人にも「あなたはthoughtfulな人だ。多くを語らないからこそ、発言した時に重みがある」と言われたことを思い出しました。あまり積極的に発言しないことを引け目に感じているのは自分だけで、他人は何とも思っていないのかもしれないと思わせてくれました。

「アメリカでは自己主張しなければ」というのは私の勝手な思い込みだったようです。自分のペースでコミュニケーションをしても聞いてくれる人は聞いてくれるということに気づけたのは、大きな収穫でした。


まとめ

修士論文や卒業後の進路に備えるために、自分のしたいことを問い続ける日々を過ごしています。Why are you here? What is your style? What are you curious about? ここまで自分のことに目を向けているのは、人生で初めてかもしれません。自らを問うことは面白くもあり、苦しくもあり。たとえ亀のように遅くとも、着実に一歩ずつ前に進んでいくだけです。

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