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2024年5月28日 芍薬を買いに


朝、掃除をしているときに、とてもいい記事のネタを思いついて
これはいいぞ、と思っていたのですが、
雨の中歩いていたら、跡形もなく消えていました。
雨は全てを洗い流す…というやつです。
体が濡れるとそちらに気持ちがいってしまって、
思考がショートしたようです。
屋根を発明した人、防水加工の靴を発明した人は実に偉いということくらいしか
頭に浮かびません。

昨夜遅く、某国からロケットが発射されたり
轟音を響かせて雨が降ったりしていて
5月の終わりは穏やかには済みそうにないようです。
何となく不穏です。
今日も何が起こるのやら。
不穏なのは、ここ数年ずっとといえば、ずっとですね。
気づけばあらゆることが不穏な時代です。

しかし、現在、家には芍薬の花が生けてあります。
「うちにはでっかい芍薬の花があるんだぞ」と思うと、
ひどい天気でも、ニュースが不穏でも、
少し勇気付けられます。
先日、奮発して三輪買ったのです。
すでに大輪の花を咲かせたもの二輪とつぼみが一輪という内訳です。
不穏な状況を完全に忘れ去るつもりはありませんが
盛大に派手で豪華な芍薬を楽しむことはできます。
そして、それを邪魔する権利は誰にもないのです。
外がひどい雨でも、部屋にある芍薬は、美しく咲き誇っています。
花は良いものです。
眺めたり、触れたり、水を入れ替えたりすることで
気持ちが変わります。
ごちゃごちゃと繰り返す不安から
花の美しさに浸り、
花を少しでも長く生かすための方策を考えることになります。
美と共に、現実があるのが花です。
造花にでは決してあり得ない、美しさと現実感が混ざり合ったもの、それが生花だと思います。

手のひらよりも大きな芍薬の花は見飽きることがありません。
その幾重にも柔らかに重なった花弁、
どんなフリルも打ち勝てない、美しい波のようです。
淡い桃から白へうつる色のグラデーション、
カバンの奥にのぞくつつましい黄色の花芯、
花に比して堅実な葉など
いくらでも楽しむことができます。

真っ赤な花もあったのですが、
その時の気分は桃色と白だったのでその色で統一しました。
どうしてまあ、これほど美しいものが
存在するのかというような花なのです。
とても大きいのです。

少し高い花を思い切って買う時、
大人になれてよかったと思います。
どんな花を選ぼうと止められることはないし、
好きな花を好きなだけ、買おうと思えば、買えるのです。
「似合わない」とか「柄じゃない」などといってくる外野は
もはやどこにもおらず、
自分が本当に欲しいものを自分のお金で購入できるという素晴らしさ、
その幸福を味わうことができました。

芍薬を買い求めた花屋には男性客も数名おり、皆、大きな花束を購入していました。
綺麗に整えられたブーケになっていましたから、
あれはきっと誰かへのプレゼントでしょう。
日本の男性も、店先で見かけた美しい花を購入して誰かに贈るということが、
当たり前になってきているのかもしれません。
若い男性だけでなく、年配の男性もお行儀よく会計を待っていましたから
そうなって久しいのかもしれませんが。
あれだけの芍薬の花束を受け取る人はどういう方々で、どう反応するだろうと想像するのも楽しいものでした。
それでは、花はいつでも誰かから送ってもらいたいものか?と問われれば、
それには即座に「否」と答えたいと思います。

人からもらう花は素晴らしいものですが、
それはそれ。
自ら、自分のために好きな花を購入するのはまた全く別の喜びです。
誰の機嫌をとることもない花、
自分の欲望に基づいた花なのです。
そういえば、と芍薬を購入した花屋の光景をさらに、思い出します。
女性たちは、嬉しそうに、花を選び
大事そうに抱えて並んでいました。
支払いが終わるまで待ちきれないといった様子で、抱えた花を覗き込んでいる人ばかりです。
並んでいる人同士、話し合うわけではありません。
それぞれが自分の選んだ花のことを考えています。
ブーケにするほどの数を購入する人もいれば、
数本の人もいますが
皆、簡易な包装を選んでいたので、ほとんどの人が自分のための花を購入していたのでしょう。
人の目など気にすることなく、それぞれが、うきうきとしている様子が素晴らしく心地よいものでした。
美しいと思うものを自分で入手できること、
美しいと思うものを自分で選べることは人を幸福にさせるのです。

芍薬の花は派手で華麗です。
控えめな美しさなどではない、勢いと質量のある美しさがある花です。
わきまえた美しさの花ではない、ということです。
そういう花を、好きに選べるという喜びを噛み締めたいと思いました。
花と同様に、
自分の人生を自分で選ぶという
100年前ならほとんどの人ができなかった人生をやれています。
今、この手にあるそれを奪われないように、投げ出さないように生きていきたいです。
世界が不穏だからこそ、そういう気持ちを忘れないようにしなくては、と感じています。
今後も、好きな花を買いに行ける人生でありますように。


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