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2024年7月24日 夕立

今年の夏は、昨年より、夕立が降ることが多い気がします。
犬は雷が苦手だそうですが、
私は雷雨、夏の夕立がとても好きです。

夕暮れ前から、空に雲が広がり始め、
薄暗くなり、
遠くから、ごろごろと大きな音が聞こえてくると
ワクワクしてしまいます。
もちろん、土砂降りに振られて靴下の先までずぶ濡れになりたいとか
雷に打たれたいわけではありません。

夕立が、夏の夕方を一変させる、あの魔法のような瞬間が
好きなのです。
それはたいてい、
明るい陽射しが遮られ、雲が広がるところから始まります。
鼠色の綺麗とは言えない雲が広がると、
しばらくは、むっとした熱気があたりに立ち込めます。
暑さと湿度があがり、
空の様子はホラー映画のワンシーンのように
不穏になります。
風がぴたりと止まって、無風になることもあります。
人間にとっては、一番不快指数が高い時間でしょう。

でも、私はワクワクしています。
もちろん、雷を楽しみにしているなんて、
とっても不穏ですから、
言葉には出さずに、
仕事をしながら、こっそり横目で外の様子を確認するのです。
いいぞいいぞ、と思っていることは、ひた隠しにして、
仕事に励みながら、
時折、窓の外を眺めます。
遠くの空の雲が黒っぽくなってくると、よい傾向です。
空はますます暗さを増し、
そのうち、
遠くから、低く転がるような音が響きます。
雷の音を聞きながら、
気持ちが高まってきます。
私には、怖がりのくせに、不謹慎なことを楽しむ不穏な癖があり、
雷鳴はそのスイッチを押す1つです。
「さぁ、もっと鳴れ!」「じゃんじゃん落ちろ!」と思ってしまうのです。
雷鳴のとどろきに心が高鳴ります。
もちろん、そんな気持ちは、
社会人の仮面の下に沈めているつもりですが、
もしかすると、漏れ出ているかもしれません。

いよいよ、となると
一粒の雨が屋根や街路樹の葉を叩き、
ドラムロールはドラムベースへと変わります。
世界を満たしていたふつふつとした熱気は
臨界点を迎えて、液体へと変わり、
空気には潤いが満ちます。
ついさっきまで吹き寄せていた熱風の温度も下がっていきます。
冷たい、新鮮な風が吹き始めるのです。
その頃には、空を覆っていた雲は、少しずつ流れ、
空は夜の濃紺に衣替えをして、涼しさだけを、たたえて横たわっています。
濃紺の空を渡る風はなめらかで、
日中の暑さを投げ出し、
力を抜いて横たわる夜をやさしくなでているようです。
髪をきゅっとまとめて、スポーツのユニフォームを着用していた女性が、
シャワーを浴びて、髪をほどき、
濃紺のナイトドレスに着替えたようだ、と思ったりします。
その女性は日中のように、緊迫したり、熱くなったりしてはおらず、
今は、長い髪を垂らして、ゆっくりと眠りにつこうとしています。
女性はうつぶせで、長いまつげをしています。
そのまつ毛を描く稜線が見える気がします。
空だって、きっとシャワーを浴びて、さっぱりしてから、眠りたいだろう、
と思うのです。

明るい日中よりも、この瞬間にこそ、夏らしさを感じます。
夏は生き物が栄えて死にゆく季節です。
張りつめて、上り詰めて、弛緩する、
そして明日にゆだねてしまう、
この瞬間がとても好きです。
雷鳴がとどろく時、
「もうどうなったっていいじゃないか」と思っている気がします。
それこそが、真夏らしい気分だと思うのです。

夕立の後、町を歩くのも楽しいものです。
水たまりを少し蹴飛ばしたり、
街路樹から落ちる水滴を頭で受けたり、
子どもじみた行動も、
洗い清められた空に輝く月や星も
すべて新鮮な、二度と起きない魔法のように思えます。
空が、世界が、一度洗濯されて
さっぱりとしたからでしょうか。
自分まで、また新しく始められるような、そんな気分になるのです。

朝いちばんに今日の天気を確認し、
夕立が来そうならば、傘と靴を準備します。
そして、
暑い日中は、できるだけ涼しい部屋で過ごすか
涼しい場所で、仕事をして体力を温存し、
夕立を安全なところから眺めて
夕立が上がって、少し温度が下がった中、
帰宅したり、買い物へ出かけたり、
散歩したり、
これが猛暑の一番良い過ごし方ではないかと思います。
(もちろん、
この猛暑の中でそういった過ごし方が
できるひとばかりではないのですが。)

今日は、帰宅直前に雨が降り出し
何とか濡れないで帰ったところ、
窓から大きな虹を見ることができました。
やっぱり夕立は素敵、としみじみ眺めました。
猛暑だからこそ、夕立を楽しみにしています。

#猛暑の過ごし方

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