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Moon Wood Dialy

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その名の通り、月曜日と木曜日に更新される約500文字の雑文。都内に住むある四十代会社員の虚実入り乱れた日常生活の記録。
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2021年9月の記事一覧

Pale Blue

Pale Blue

 米津玄師さんのヒット曲の数々と稀有な才能のことは以前から知ってはいたが、なぜか今までハマらなかった。それは米津さんが悪いのではなく私の感覚が古いせいだ。しかし今年、ついにきた。Pale Blue。紛れもない名曲です。この歌はどうも道ならぬ恋の顛末を描いているようなのだが、そういうことに縁遠い私は身近な人との死別の歌と解釈した。

 その女性は辛い別れが来ることを予期していた。だが現実が突きつけら

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GARI GARI KUN

GARI GARI KUN

 この夏、妻がガリガリ君を当てた。結婚生活15年にして2回目の珍事である。

 最初は結婚して2,3年経った頃だった。まだ二十代だった僕達はテンションが上り、すぐに近所のファミマでガリガリ君ソーダ味と交換した。その晩もパンクロッカー風の無表情な店員がいて、事務的に対応してくれた。家に着くまでに溶けそうで、2人で1本のガリガリ君を歩きながら食べた。生暖かい夏の夜だった。

 しかし今回はまだ交換でき

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気まずいランチ

気まずいランチ

課長と駅前のファミレスに入る。大きなガラス窓から秋とは思えない強い日差しが入ってきて、暑い。課長は野菜炒め定食、私は日替り定食を頼んだ。

先に野菜炒め定食が来た。しかしそれはどう見ても、もやし炒め定食だった。課長は動揺して無暗にコショウをかけた。私はそれを見てなぜか独身時代を過ごしたアパートの台所を思い出した。

もやしはれっきとした野菜である。しかし、動物園に犬しかいなければ犬園と称するべきだ

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予言

予言

私はかなり前に「チョコプラは売れる」と予言した。しかし誰にも言わなかったから今更言ったところで「後出しジャンケンなら誰でも勝てるわな」と嘲笑されるだけである。それで今回は早めに書いておく。男性ブランコはブレイクする、かも知れない。

先日、TVで初めて彼らのコントを見た後どうしても気になってYouTubeも見た。どこかで見たような場面設定。しかしその後の展開は予想を遥かに超えてくる。流麗で文学的で

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おんがくのちから

おんがくのちから

「油そばお待ち!」それと同時に店内のスピーカーからスカパラのルパン三世が流れ出した。私は十日ぶりに獲物を仕留めたライオンの気持ちになり、油そばを猛烈に混ぜ、喰った。状況と音楽がマッチすると気持ちが高ぶる。

さて、二回目のワクチン接種に先立って心ある皆さんから沢山の忠告を頂いた。接種した晩に40度の高熱が出て寝込んだとか、接種直後、具合が悪くて電車に乗れず歩いて帰ったとか(歩く方が大変では?)。顔

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きしめん

きしめん

 初日に逃したきしめんを目指し、私は再び名古屋駅の地下を彷徨うこととなった。今回は上司も一緒だ。そのきしめん屋には3回行ったが迷わず辿り着いた試しが無い。しかし今度は自信があった。なぜならきしめん屋は地下鉄の改札の近くにある、という重要な事実に気づいたからだ。私は名鉄の改札を出て地下鉄の表示を頼りに進んだ。失敗は許されない、、、いやそれは言い過ぎだが、あまり上司に迷惑をかけたくなかった。階段を降り

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長良川鉄道

長良川鉄道

 水道水はまずいと思わされているが場所によって違うものである。私はその朝ビジネスホテルの蛇口を捻って水を飲み、独り「うまい」と呟いた。
 長良川鉄道をどうしても見たいと思い、朝の散歩に出かける。遠くで踏切が鳴り出し慌てて走る。ワイシャツ姿のおっさんが朝から疾走する姿は周りにどう見えるだろう。結局、汽車は遥か先を一瞬で通り過ぎた。
 しばらく線路沿いの農道を歩いているとまた踏切の音が聞こえてきた。カ

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犬山城

犬山城

また名古屋駅の地下で迷子になり、辿り着いたきしめん屋は準備中だった。早めの昼飯をとり待合せまで自由時間を満喫しようとの目論見だったが、さすがに九時は早すぎた。とりあえず今日の第一目標、犬山城を目指す。いや仕事で来たのだった。

駅から十分程歩き観光地らしい古い街並みに入る。その先に品の良い天守が見えた。やはり城はいい。しかし近づくほどに木に隠れて見えなくなっていく。我慢のしどころだ。山上の風景を思

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