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小さくても勝てるD2Cブランドの秘密 #3

新宿ルミネエストにPOP UP SHOPをオープン、「Yahoo!ニュース」でも取り上げられて大きな反響を呼んでいる、アパレルブランド「neam」──そうやって実績を文字で表すと、とても大きなプロジェクトを大勢で立ち上げたような印象を受けませんか?

ところが、じつは「neam」の立ち上げメンバーは、プロデューサーである私のほかはたったの3人。しかもその3人のうちのひとりは吉田南歩本人ですから、「neam」がいかに小さなチームでスタートしたか、おわかりいただけるのではないでしょうか。

アパレル業界では素人級のメンバーが集まった小さなチームでも、プロデュース次第で大きな成果を手にすることができるのがD2Cビジネスの面白さでもあります。

大手アパレルブランドが「編集者」を採用する理由

「neam」というブランド名にこめられたコンセプトについては前回お話ししたとおりです。

コンセプトの「FULFILL MY DREAM~今日の私が夢を叶える~」も、私のプロデュース業のなかの、大事な作業のひとつです。

インフルエンサーが立ち上げた小さなアパレルブランドが乱立する中で、コンセプトが明確になってないブランドは長続きしていません。

コンセプトはもちろん、私が一方的に決めているわけではありません。今は、つくり手の思いがそのままダイレクトに消費者に伝わることで「応援しよう」という気持ちが生まれ、モノが売れる時代。クリエイターである南歩が持っている熱い思いをヒアリングしながら形にしていくプロセスが必須です。

そこで、「南歩はどういうブランドにしたいの?」と「neam」への思いを聞くと、彼女はキラキラと語りはじめました。

「neamのお洋服を着ていると、自分で自分の夢を叶えられるような、自分の足で立てる女の子になれる。そんなふうに思えるようなブランドにしたいんです」

こうして「neam」のコンセプトは「FULFILL MY DREAM」、タグラインは「今日の私が夢を叶える」に決まりました。

タグライン(tag line)とは、顧客や潜在顧客に対して、ブランドが持つ感情面と機能面のベネフィットをわかりやすく伝えるための表現のこと。

タグラインを設定することにより、お客様はもちろん、neamに関わってくださる企業やチームメンバーにもneamの目指す方向性を示すことになります。

ストーリーを形にするのは、私たちアンノーンブックスの得意とするところでもあります。編集者は、商品やサービスをどういった切り口で世に打ち出すかを考えるプロだからです。

いま、ユニクロなどの大手アパレルがこぞって編集者を採用している理由はこの「編集思考」が必要だと理解されてきているからです。


成功の鍵は「日本人の繊細さ」を理解できるパートナー

「アパレルD2Cブランドが成功するかどうかは、どのエージェントと組むかにかかっている」

これは、今回「neam」のプロデュースを通じて、私が学んだことです。

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数多く存在するエージェントのなかで、自分たちの目指すブランドをディテールまで丁寧に理解し、満足できるクオリティに仕上げてくれる、ベストワンのエージェントを探すのは至難の業といえます。

ましてや、文化も商慣習も言葉も異なる国との取引において、南歩のこだわりや微妙なニュアンスを日本人の感覚で現地の職人さんに伝えることができるエージェントは、とても少ないのが現状です。

じつは、その点において、私はとても恵まれています。というのも、プロデューサーとして絶大な信頼のおける最高のエージェントと、強いパートナーシップを結んでいるからです。

成功の鍵を握っているのは、ちえみさんという女性です。ちえみさんは、韓国アパレル業界を牽引しているエージェント会社の経営者。「韓国の東大門市場と南大門市場を仕切っている女ボス」と言ったら、ちえみさんの敏腕ぶりが伝わるでしょうか。

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韓国アパレル業界に精通している彼女のエージェント会社は、その仕事ぶりからもクライアントが増えすぎている状況で、現在は新規のブランドの依頼は受けていないとのこと。

ところが、親友でもありビジネスパートナーでもある私の話を聞き、「薫さんのお願いならよろこんで!」と「neam」の立ち上げに力を貸してくれることになったのでした。

D2Cを支えるキーワード──「共感」と「信頼」

アパレルD2Cブランドには、なぜクオリティの高いエージェントとの信頼関係が必要なのか?

それは、どのエージェントに依頼するかによって、結果に相当な格差が生まれるからにほかなりません。細かな連絡のやりとりにはじまり、テクスチャーの質や縫製の仕方まで、「こんなにも違うの?」と驚くほどです。

だからこそ、どのエージェントに依頼するかは、その後の運命を左右する大きな決断です。信頼関係のあるエージェントを知っているということは、プロデューサーにとって大きな強みになるのです。

たとえば「色」の問題ひとつとっても、信頼関係のあるエージェントだととてもスムーズです。

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商品の色を決める際のやりとりをする場合、私のほうで「ミルクティの色で」と指定しても、相手が信頼関係のないエージェントだと、様々な色合いのベージュの商品が仕上がってくるのは当たり前。

クレームをつけても、
「almost beige!(ほとんどベージュだよ!)」
の一言で片付けられてしまいます。

これはあくまでも私の感覚ですが、アジア諸国の問屋街のスタンダードは、ミルクティの色もテラコッタに近い黄土色も、すべてが「ベージュ」で表現されます。

色に対する概念や価値観、「こっくりした素敵な色ね」「ちょっと渋すぎるかな」といった判断基準も、私たち日本人とはまったく違うように感じます。

となると、南歩のリクエストするミルクティの色を、適格に表現した製品に仕上げ、細やかな検品まで済ませてくれるエージェントにめぐりあえるのがどれだけ大変なことか想像していただけるはず。

意思疎通ができないエージェントに当たると色のやり取りだけでも、莫大な時間とお金を費やすことになるのです。

ちえみさんのエージェントが抜群に優秀なのは、彼女の的確な指示のおかげで「ミルクティの色で」と指定すると一発で希望どおりに仕上げてくれるところです。

ちえみさんは、ビジネスはもちろんプライベートでも私が心を許す数少ない友人。全面的に信頼できる人がビジネスパートナーになってくれることほど心強いことはありません。

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今回の「neam」でも、商品の製作や仕入れまで本当にお世話になっています。現地に行けなくても、ZOOMやLINEでストレスなくやり取りできているのはちえみさん率いるチームだからこそ。

D2Cのビジネスは小さくはじめても成功する、と今回の書き出しでお伝えしましたが、その背景には多くの協力企業やチームが関わっていて、誰と組むかにより結果は大きく変わるのです。

最初は要領が掴めなくて当然。どんなエージェントさんがいるかも分からないでしょうから現地に足を運んで自分の目で確かめるしか方法はありません。
コロナ禍で海外の渡航が難しい今は、国内のエージェント会社を探すしかないので手数料のことなどを考えると私たちは良い時期に始められたと思います。

次回は少人数でインフラを回す仕組みについてお話しようと思います。

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