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タリバン政権下のアフガニスタンVISA取得奮闘記


先日アフガニスタン・イスラーム首長国を旅行してきた。ご存知の通りタリバンの作った国である。去年2021年の8月、アフガニスタン・イスラーム共和国は瓦解しタリバンが全土を掌握しアフガニスタンには新生国家が樹立された。

日本語は勿論のこと新体制での観光ビザ取得の記録は英語でも執筆時点では見つからなかった。多分このnoteは初めての新アフガニスタン国家の観光ビザ取得のレポートになるだろう。

最初のアフガニスタン渡航計画

さて、アフガニスタンに関して少し思い出話をさせていただきたい。アフガニスタンへの渡航計画自体は今回が初めてではなかった。時は2021年の夏、私はイギリスに来ていた。理由は過去に書いているので暇があったら読んでほしい。




イギリスはこの時ワクチン接種ペースが日本より早く、不法移民や観光客でも無料で打つことができ、ノービザで入国した僕でも1回目を打つことができていた。

日本を発った4月の半ばごろには米国のバイデン大統領はアフガニスタンの完全撤退期限を9/11と宣言し、ワクチンを2回接種し、ワクチンパスポートを手に入れて移動の自由を手に入れられる頃にはまだ米軍撤退はしていないだろうし、ギリギリ駆け込み入国できるだろうと考えていた。

それがあの顛末である。ワクチン2回目を打つ前にあっさりカブールは陥落した。

カブール陥落の報がでた翌日在英アフガニスタン大使館に行くと大使館は通常営業していた。しかしアフガン人達の業務連絡程度に止まっておりビザ発給はできないと言われた。

これが第1回目のアフガニスタン渡航計画である。

そして話は今回へと移る。カブールが陥落しアフガニスタンのほぼ全土がタリバン政権の支配下となりアフガニスタンイスラム共和国からアフガニスタンイスラム首長国へと政体が変わったのである。

全ての外交関係は白紙と化した。これが旅行者にとってどう言う事を意味するかと言うと在外公館の存在意義である。基本的に国家は「永続的な国民」「政府」「明確な支配領域」の要件を満たしそれに加えて諸外国から政府の承認を得る事で国際法上、存在意義や外交関係を担っている。

今回の場合、国家の枠組み自体は変わっていないが内部を支配する政府自体が内戦を勝ち抜いたタリバンによって入れ替わった訳である。



旅行の最初に問題になったのがVISAであった。最強の日本パスポートを持ってしてもVISAがないと入れない国は存在しその中でもアフガニスタンはトップレベルに取得難易度が高く何より情報が少ない。あるにはあったがそれはあくまで2021/08/15まで存在した共和国政府の話である。

そもそも共和国時代からVISA取得は難しいとされていた。 ネットにもあまり情報がなく百戦錬磨の旅行者の内輪で「カザフスタンの大使がVISA代に加えて200ドル賄賂を渡せば発行してくれる」だとか「イギリスにいけば2万払えば出る」「クアラルンプールのアフガニスタン大使館で抗議者に渡航中止勧告受けながら取得する動画を見た」「パキスタンの領事が発行していたらしいが別の都市に移動したらしい」みたいな話を聞いていた。

それも全て過去の話となった。政府が変わってしまったしどこの国も未だに政府承認をしていないのでアフガニスタンと公式な外交関係のある国は存在していないのである。


日本にも大使館は存在しているがレターが必要であり非現実的である。なんらかのツテがないかNPOとかで働いていない限り取得は難しいだろう。

さて、それも全て昔話である。現在はどうなっているのか?旧共和国政府は打倒されタリバンが政権を担っている。大使館を含む在外公館は旧政権の在外公館であって現政権の傘下とは言えない。

と言うわけで片っ端から質問メールを送りつけてみた。航空会社3社と各国のアフガニスタン大使館7つほどに送りつけたところ在ロンドンアフガニスタン大使館からのみ返信が返ってきた。それがこちらである。

添付されてきたリンクを開くと1年前にも見たアフガニスタン大使館の公式HPである。


在ロンドン・アフガニスタン大使館公式HPの査証ページ

どうやら今まで通りのシステムでビザ申請が可能と言いたいらしい。他の旧政権時代の大使館もHP自体は残っているがあのカブール陥落以降更新が途絶えており上記のように旧共和国政府の大使館が機能していることに驚いた。

他のメールは返ってこないな……と思って別日にたまたまメールのゴミ箱を確認したところ驚きの事実が発覚した。

大使館職員が返信しなかったのではなくそもそもメール自体遅れていなかったのである。各国にある大使館によって独自ドメインを取得しているところもあればGmailを使っているところもあり在英アフガニスタン大使館以外は全て何らかの理由で送信自体できていなかった。

そもそもメール受信先が消滅しているものもあれば受信トレイが満杯になって受信拒否されるようになっていた。

ここからは推察になるがタリバン政権が誕生して以降の各国にいる外交使節団はあくまで消滅した旧政権のものでありほとんどが業務を停止したのだと思われる。その結果、上記のようなメールの受信トレイが溢れるまで放置されるに至ったと思われる。

イギリスへ

さて、これにてようやく手がかりを得たわけである。そもそも旧政権の大使館が業務を継続しているとは思っても見なかったのでダメもとで大量の怪文書を送りつけた甲斐があったわけである。

ちょうど旅行欲も復活しており、またロンドンに友達がきて会う約束がタイミングよくできたので意気揚揚とジョージアからロンドン行きの航空券を買った。

とは言え友達の会うタイミングに合わせて出入国したり会ってシーシャ吸ったり遊んでいたらなんだかんだ1ヶ月ぐらい経過していた。

あまりに時間が空きすぎると情勢が変わりすぎてビザの確認メールを送った意味がなくなってしまう。コロナでただでさえ情勢が流動的なのに政府承認するかしないかの立ち位置にいるので下手すると変わってるかもしれない。
と言うわけで大使館に突撃することにした。

大使館のHPが生きているようなのでビザの手続きの予約を入れ大使館に向かった。予約時間通りに大使館に着くと相変わらず掲げられてる国旗は旧政権のアフガニスタンイスラーム共和国のものであった。

在英国アフガニスタン大使館

階段を降り地下の領事部エリアへと入っていくとアフガン人らしき男性が1人いるだけでガラガラであった。カブール陥落時は満席でごった返してたのに。

これは時間きっかしに頑張る必要ないな、予約しなくても何も問題ないやつだなと考えながら大使館職員に話しかけた。

ビザを取りたい旨を伝えるととりあえずパスポートを見せろと言われる。そこで日本のパスポートを見せると「いや君はUK市民権持っていないでしょ。僕らには発行権限がないんだ」と突き返される。

は???いや前にメールで確認して返信きたからわざわざジョージアから遠路はるばるイギリスまで来たんだ!!と件のメールを見せながら強弁する。

しかし同じ台詞を繰り返し鮸膠も無く断られてしまった。まぁ、マイナー国家の大使館てこう言うてきとーなところあるよな。


ただここで簡単に引き下がる僕ではない。とりあえず埒が開かなかったのでこの日は一旦引き下がりまた日を改めて出向くことにした。

数日後の晴れた日にリベンジするとまた来たのかよと若干飽きられた顔をされたがニコニコ笑ってまた同じように交渉スタート。先日と同じようにメールを見せながら絶叫。

The reason why I came here, London is to get this Afghan visa!!That's all!!That's  the only reason I came from Georgia to come here, embassy in London. I bought the ticket, I spent money, I spent time, just to get the visa. Can you imagine??
(ここロンドンに来た理由はこのアフガニスタンビザを取るため。たったそれだけ。その為にわざわざジョージアからここの大使館来たの。チケットを買い、お金を使い、時間をかけた。想像できる???)


大演説をぶちかますと大使館職員は笑ってた。「とは言われてもなぁ、俺たちに権限ないんだよなwww旅行会社とかからインビテーションレター発行してもらえれば発行可能なんだが…….」

当然のごとくツアー会社のアフガニスタンツアーは全部昨年のカブール陥落以降音沙汰なしである。そもそもそれが可能ならもっと別の方法を取っていたはずである。こんな回りくどい面倒な方法は取らない。

インビテーションレター

彼が上司やらと話し始めたりどこかに電話をかけ始めた。その間にさっきの大演説を聞いていた別の職員が面白がって色々話しかけてくる。行きたい場所や口座の残高証明や婚姻しているか否かなどである。

ここらへんの質問はイスラム圏あるあるなのでパパッと書類を見せたりして納得させると「問題なさそう」と先ほどの彼に告げた。

電話を終えた職員が電話番号を書いた紙を渡しながら「事情はわかった。とりあえずこの電話番号にかけて、彼に旅程相談してインビテーションレターを発給してもらってくれ。レターがあればビザ発給可能だ」


うおおおおおお!!!!!!。どうやら一旦失敗したかと思ったが光明が差した。ただこの時点ではメモに書かれてる人がまた別のツアー会社の人間なのか現地とのコネクションを持つ人間なのかが判別できなかった。

しかし、ここまで来たらアフガニスタン自体へ行くことはできるだろうと楽観的な気分になっていた。時間とお金がどれほどかかるかは分からないが。ひとまず次の活路を見出したので早速塩梅を見計らって電話をかけてみた。

応対した彼に大使館職員から紹介された旨を伝えると「あーインビテーションレターね。ちょっと別の人に問い合わせなきゃいけないからI'll call back you soon.」とのこと。外国人のsoonって3分後なのか3日後なのか分かんねえよなと思いながら電話はあっさり終わった。

少なくとも3日ぐらいは待たされるかなとハードル下げておいたら次の日には折り返しの電話かかってきた。

「インビテーションレター発行できるよ!!ただし£150(2.5万日本円)かかるけど大丈夫かい?」

いやはや拍子抜けであった。最悪ツアー斡旋されて情勢が情勢だしふっかけられてタリバン兵士の監視がついた不自由旅行で£5000(80万円)とか言われたらどうしようか勝手に悩んでいたぐらいだ。

「いや全然問題ないです。それはつまりインビテ発行費用を払ってビザが通れば普通に自由に旅行できるって認識でいいんですよね?」「いや、もちろん、ビザ発行した後は自由だよ!」

はい大勝利。完全に勝ちを確信した瞬間だった。ビザ費用と合わせて£290、日本円換算で5万円弱かかり、観光ビザの中では世界最高額に近いだろうと思われる値段であったが航空券代や待機時間の宿泊費・生活費を考えたら20万ぐらいはつぎ込んでいることに比べたら大したことでもない。

いやはや英語やフランス語など主要国際公用語で検索しても一切ビザ取得した記録はなかったし、海外のYoutuberやブロガーですら昨年の8/15以降カブールに入ったと言う人は誰もいなかった。これが記録に残る初タリバン政権ビザチャレンジの成功になると思うと脳汁がドバドバ出た。


インビテーションレターを発行するにあたって必要な書類をWhatsAppで送ってくれと言われる。求められたのは以下の通りである

  • パスポートのコピー

  • イギリス国内の住所

この時点で婚姻歴や父性が必要かどうか聞いたところ必要ないとのことであった(イスラム教圏やあの地域的一帯は婚姻歴(Martial Status)を聞いてきたり、部族社会なので父性Father's nameや祖父性が書類上必要になることが多々ある。)

所定の書類を送りつけるとインビテ発行されたらまた連絡するとのこと。支払いもその時に払えばいいらしい。待ちの時間である。

一週間過ぎたが連絡はない。まぁでも電話自体は即折り返してきてくれたしVIsa関係の申請は営業日換算で計算されることが多いしイスラームの祝日である金曜日を考慮してプラス3日ぐらいかかるかな。

10日が経過し流石にこれ以上遅くなると色々見通しが読めなくなるのでいつ頃取得できそうか聞いたら明日の午前中に送るとのこと。あ、こいつ忘れてやがったなw

まぁこのいい加減さは慣れっこである。忘れられてたとしても10日間で発行されるなら上出来だろう。

次の日、また忘れられてたようなのでリマインドの催促電話を入れると口座を指定された。上記の通り£150を送金すると以下のようなPDFが送られてきた。

想像以上にちゃんとしたインビテーションレターでビックリであった。個人でインビテ発行できるコネがある人なのかと勝手に思っていたがちゃんとした旅行代理店らしい。

昨年のカブール陥落以降あれだけ色んな関係各所にメールを送り付けて一才反応がなかったしサイトの更新が途絶えてたので旅行代理店は全部活動停止したと思っていた。

中身を見ているとこれまた面白かった。僕が提出したのはパスポートとイギリス内の住所だけである。航空券の購入証明書や宿泊予約証明書などは一切出してない。なんならパキスタンから陸路で入国しようとしているぐらいである。

書類や手続きはクソめんどくさい仕様なのに内容はいい加減なの途上国あるあるだなぁと思いながら、自由行動出来るのは間違いないなと確信が出来た瞬間であった。

VISA取得へ

インビテが手に入ったところでビザ申請に必要な書類を改めて確認した。ビザ申請用紙等は最初に大使館に向かった日には手に入れていたがまだ言及していなかったのでここで触れていきたい。

まずメインであるビザ申請用紙は下のようである。

前述したビザ申請要件からもダウンロード可能ではあるらしい。がしかし最初サイトで見た時、共和国って普通に書いてあるけど大丈夫なの???と心配になったため大使館にて確認したらそのまま使い回している模様。旧政権を打倒して新政権作ったから名前ぐらい変えればいいのにと思ってしまった。

内容自体は父性や配偶者の有無を聞いてくるあたり普通のイスラム教国家の様式である。アフガニスタン内の住所欄があるがテキトーにBooking.comでヒットしたホテルの住所書いておいたら特に何か言われることはない。

特筆すべきは次の書類である

これぞアフガニスタン。情勢を理解しつつ全て自己責任と心得よってか、流石である。有無を言わせない誓約書。限界旅行する際は毎度腹を括っているのでササっと記入して署名を済ませた。


次の日意気揚々と在ロンドンアフガニスタン大使館へと向かう。2週間ぶりに大使館職員とご対面となると「あ、またきやがったなこいつ…」みたいな視線を向けられた。

得意げにインビテーションと共にVisa申請用紙を提出すると「あれ、インビテ出した旅行代理店のライセンス番号とパスポートの写しは???」

「はい?????そんなの聞いてないぞ」また更に時間食われるやつか??と身構える。「インビテ発行してもらった彼に送ってもらってくれ。」

とりあえずこのままでは埒が明かないので外に出て電話をかける。イギリスは電波が悪過ぎて屋内だと回線が不安定なので繋がらない。イライラに拍車をかけた。

電話をかけて出た彼に先ほどの書類を大使館側に送りつけてもらうように頼む。あーすぐ繋がってくれてよかった。ここで音信不通だったら心折れてた。

大使館へ戻ると無事ライセンス番号の書かれた書類らは印刷されたようである。


兎にも角にもこれで終わりだろう。誓約書とVISA用写真、申請費用の£140を支払う。

「おっけー、これで書類全部揃ったからVISA発行できるわ、一週間後に取りにきてね」毎度毎度すったもんだの大騒ぎであったので肩をすくめながら礼を述べると職員も苦笑していた。


 

言われた通り、一週間後に大使館を訪れる。この日は在外アフガン国籍者と思しき人が多かったが少し待っていると呼ばれた。

名前を告げると隣の人がバックヤードへと向かう。数分後戻ってきた彼がパスポートをペラペラめくった後神妙な顔で言う「The Visa was rejected」


え?????????????????????????????????????????????????????????????????????????頭の中が真っ白になる。


すると大使館職員は「冗談だよwwwwww旅行楽しんでwwwww」とゲラゲラ爆笑している。隣の職員もニヤニヤしている。

いやほんと勘弁してくれよ。マジで心臓止まるかと思った。タヒね。大好き。嫌い。本当にありがとう。

手に入れたVISAは旧共和国政権の時の様式そのままだった。

取得したアフガニスタンビザ、旧共和国政権の仕様そのままである

それにしてもVISAの国名がAfghanistanだけだしデザインも国の形を縁取っただけである。スタンプはアフガニスタン共和国の時のまんまだがこれだと政府が打倒されたとしてもスタンプ変えれば全然使い回せるなと思ってしまった。

イギリス行きの航空券やら滞在費2ヶ月も含むと30万近くつぎ込んだ自分市場最高額のVisaだった。

事前情報が一切ないアフガニスタン・イルラーム首長国Visa取得奮闘記であったがこのアタックの掛け方はその他情報が一切ない国の入国方法として応用が効きそうだあった。

それでは次回はいざタリバン国家への潜入である。





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