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その夜、猛烈な腹痛と吐き気に襲われていた。携帯を見ると深夜3時だった。画面が暗く見えたので明るさ最大限にした。あれれ今日食った屋台メシハズレ引いたかな?

症状はさらに悪化する。取り敢えずトイレに駆け込み嘔吐する。元々逆流性食道炎だったので綺麗に吐けた。これですっきりして二度寝できるかな?と楽観した瞬間もう一回強烈な吐き気がきた。まぁ2回連続で波来ることもあるよな。

問題はそれだけで終わらなかった。吐き気が止まらない。3回目からもう吐くものがなくなって胃酸が直接出てくる。あの特有のほんのりと苦い強烈な酸味だ。

4〜5回吐いた後でトイレの手洗い場所から水を飲む。生水に当たることなどどうでもよかった。喉が焼けていた。意識が混濁しながらまた便器に顔を突っ伏した。おぇぇぇぇぇぇ。

 その時点で 何回目か分からなくなっていたが取り敢えずはマシになった。吐きすぎて体がフラフラしたのでもう一度ベッドに戻る。疲労と睡魔であっという間に意識はなくなった。

 パッと目が覚める。時計の針は7時半を指していた。まだ外は暗いな.....。時計の画面を見る。また強烈な吐き気を催した。慌ててトイレに駆け込み一発戻す。

 おぇぇぇぇぇ。また複数回の吐き気がくる。手洗い場に駆け寄り水をがぶ飲みしそのまま便器へと走って吐き出す。その繰り返しだった。10回、20回と吐いていると口の中も食道もタダれて激痛が走る。食道癌にでもなりそうだった。

 これが摂食障害の人の辛さなんだろうか?それにしてもこんなに吐くなんてカンボジアの食中毒は強烈だな.......。などと色々な事が頭を駆け巡る。

 僕は胃が強かった。非常に強い自信があった。賞味期限切れの食品を食べても特に問題なかったし、鳥やジビエの生肉を食っても腹を下さない。発展途上国で水道水を飲んでもへっちゃら。今まで食あたりを起こしたのは中国の田舎のスーパーで買ったトマトを洗わずに齧った時ぐらいである。それも多分残留農薬だったと思う。

 カンボジア入って一日目にしては強烈な洗礼だった。流石下から数えても貧しい国である。ポルポトってすげえな。ここまで国を荒廃させられるなんて。あれこれ考えながら吐いていると隣の個室からも吐く声が聞こえた。

 俺だけじゃないんだ。同じ旅行者としてこの国の熱い歓迎を楽しもうぜ。ゲロゲロゲロ。牛蛙のような激しい嘔吐音が響いた。

 その日は結局そんな感じでベッドとトイレを往復した。常に吐き気がするし何十回と吐いたせいで身体はフラフラ。外にご飯を買いに行く余裕などなかった。

 カンボジアの陽気な太陽が心なしか暗い。気分が優れないからだろう。正直寝過ぎて寝れなかったが目を瞑ってひたすら耐え忍ぶ。そうすればいつの間にか意識は飛んでいる。

 結局丸二日間と半ぐらいはその調子だった。これほど強い食中毒ってあるんだ。あまりに辛すぎて一周回って感心していた。

 3日目に突入すると流石に栄養失調で死にかけてくる。飯をロクに食えてない上に食べた物も数十回の嘔吐の際に全部便器へと吸い込まれていっている。そろそろきついけど流石に飯を胃に叩き込まないと別の意味で死ぬ。以前、ハンストをした時3日目に突入すると低血糖で体が動かなくなり飯を確保する体力がなくなるという経験があったのでこれ以上はまずいと思った。

 手すりに捕まってどうにか階段を降り外に出てスーパーでなんちゃっておにぎりとコアラのマーチを頬張った。東南アジアのおにぎりは大して美味くはないんだけれどこの時は幸福感に満ち溢れていた。空腹は最高のスパイスって本当なんだな。

 飯を食うと元気になる。吐き気は相変わらずあったが栄養を確保して体調が戻ってきたのでコントロールできる範囲に落ち着いた。ふ〜飯って美味いな〜。感嘆しながらホテルに戻る。

 ホテルに戻った際、受付付近で昨日トイレで見かけた件の男性が話していた。何話してるんだろう。ちょっと聞き耳を立てていると衝撃の事実を知った。

 昨日、一昨日に吐いてたのは食中毒が原因ではなかった。それは南京虫の駆除剤であった。

 南京虫、別名トコジラミ、昔の日本や東南アジアの旅行者がよく泊まるホテルのベッドにたまに発生する奴。刺されるとめちゃくちゃ痒い。

聞くところによるとホテルの一室で南京虫が発生したらしい。そこでホテル側はそこの部屋を閉め切って南京虫駆除剤を散布して放置した。ただカンボジアみたいな熱帯地域の密閉空間など信用にならない。

 散布した駆除剤は部屋の扉の隙間を通って各部屋に流れ込んだ。そしてそこで寝ていた宿泊者が次々と中毒症状を呈したわけである。その被害者の一人が僕であった。

 南京虫駆除剤の主成分は有機リン酸系の物質である。悪名高きサリンや農薬と同系統の物質であり中毒症状として吐き気や腹痛、瞳孔の縮小などがある。

 吐いたり腹が痛かった原因は食中毒ではなかった。いつもと違った縮瞳という特緒的な症状もそうである。食中毒にあたって視界がぼやけるなど良く考えてみればおかしい話であった。

 この縮瞳という症状は地下鉄サリン事件などに見られる症状でもある。被害者で目の異常を主張する人は全体の8割にも上る。

 いや、まじか。流石に想像していなかった展開であった。そして思い出す。確かサリンは加水分解するし水飲みまくった方がいいな。症状はだいぶ落ち着いてきていたので簡単にできる対症療法を試みた。 

 午後になると消化も順調に進み体調も良くなってきた。ただ数日間食べ物を口にしてなかったのもまた事実であり目下大事なのは飯を食うことだと確信した。

 異国の地にいるのに数日間無駄に時間を潰してしまったので悶々としていた。時間がもったいない。フラフラしながら電話をを取りある場所にかける。

 電話の相手は予約したいなら時間指定してくれるならその時間にタクシー出すから教えてくれといった。その日はだいぶ過ぎていたので次の日を指定した。

 次の日タクシーが迎えにくる。雑談すること数十分そこでは戦車が出迎えてくれた。

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カンボジアは大体の事は金で出来る。ポルポトがこの国を破壊してから数十年、今もその爪痕が色んなところに残る。その一つが軍である。

ここカンボジアの軍隊は金がないので民間人や観光客でも金を払えば戦車に乗ったりロケランを撃ったり出来る。

相手がメニュー表を見せてくる。この銃は強くていいとかなんだかんだ勧めてくるがどれも興味がない。僕はここにロケットランチャーを撃ちに来たのだ。

ロケラン撃たせろと言うと在庫がそこにないみたいで責任者らしき人に電話をかけ始めた。数十分待つ事になるが大丈夫か?いやこちらは数日間ベッドで待たされたようなものである。二つ返事で承諾した。

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これでいいのか?カッコいいだろ?おじさんはニコニコしながら話しかける。初めて見る巨大な弾頭にワクワクが止まらない。カッコいい!!僕は叫んでいた。

その後的はどうする?ガスボンベがいい?それか牛とか動物撃ちたい?銃は撃たなくていいのか?幾つか追加オプションを投げかけてきた。銃は要らん、的はガスボンベかな〜、牛だと動いて当たらなさそう。


オプション選定したところでまたタクシーに乗せられ演習場みたいな所に連れて行かれた。目の前で弾頭をセッティングしてもらう。早く撃ちたくて撃ちたくてたまらなかった。まぁそう焦るな。おじさんはニコニコ微笑んだ。

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そしてロケットランチャーをぶっ放す。ドーンという発射音と共に数日間の苦痛が嘘だったかのようにスッキリどこかへ行ってしまった。

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カンボジアの太陽はこの上なく眩しかった。

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