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トルコでぼったくりに遭って有刺鉄線を乗り越え逃げた話

今でこそスリ、ぼったくり、強盗、ゲイ強姦未遂など一通りの犯罪は経験しているがこれはまだ僕が何も知らなかった頃のお話である。

当時の文章をそのまま掲載した方が臨場感は出る気がするが今読み返すと読みにくい事この上ないので加筆修正しつつここに記していきたい。

当時トルコではクーデター未遂事件が起こり市内は厳戒態勢だった

始まり

彼と出会ったのはイスタンブールの旧市街にある大通りでした。バザールを回ってお腹が空いたのでマックに向かう途中のことでした。突如話しかけられ「君日本人かい?」「そうだよ」といったやり取りから始まりテキトーにあしらっていたら、自分もマック行こうとしてたところなんだ、日本にいた時みんな優しかったしまた日本人と一緒にしゃべりたい。俺が奢るから話そうと言われました。

いくら親日国とは言え、道端で会った男にいきなり奢ると言うのは理解できません。どう見ても怪しいので適当に相槌を打ちながらやり過ごしているといつの間にか彼がトルコ語で会計を済ませていました。

スマートに奢られてしまったしこれが仮に後から請求されるとしてもせいぜいマックだしタカが知れてるしいいかとご馳走になり、話の続きをし始めました。

彼は日本に行った事があり大阪に日本人の友達がいるといいました。そして「なんでやねん!」だとか「おっぱい!」「おまんこ!」とか叫び始めるので思わず笑ってしまいました。

その後雑談しながらヨイショされていると途中で「あれ、日本と韓国の間にある島なんだっけ、t、竹島?あれ日本のものだと思うんだよね、俺は韓国が嫌いだ」と。保守系思想であった僕にはこの言葉は琴線に触れました。

トルコってやっぱ親日国なんだなぁと感心しました。それに加えて「トルコには騙してくる人いるから気をつけなきゃいけないよ。会ったやつは全員疑った方がいい」とアドバイスまでしてきました。

だいぶ打ち解けた後、彼は今日の夜の予定や他の人と何か約束あるかを聞いてきました。今晩は疲れてるしホテル帰って寝たいかなと答えました。その日の早朝ギリシャのアテネから14時間かけてバスに乗ってイスタンブールに着いたからです。そしたら夜に遊ばないなんて勿体無い、本当に何かしたいことはないのか?と聞いてきました。

この時まだシーシャを海外で吸ったことがなく体験してみたいなと考えていたのを思い出し、トルコに来たなら一回本場のシーシャに行ってみたい旨を伝えました。

するといい場所を知っているぞ、もしよかったら連れて行ってやるよ、今日は俺の奢りだからな、Hey, my brotherと。

彼はすぐにもタクシーに乗って出発しようとしました。その時バッテリーを持っていなったので一度ホテルに用事あるから戻っていい?と聞きました。そしたら「なんで?」「その必要ある?」と執拗に引き止められました。僕が充電がやばいから充電器を取りに行きたいんだと言うと、分かった、分かった、僕はこのホテルに泊まっているからと近くにある高級ホテルのカードを見せられ連絡先を交換しました。

ここで一旦彼とは別れました。待たせるのも悪いのでホテルにすぐ帰りました。ささっと色々準備を済ませホテルを出ると彼は待ち合わせの場所にいません。着いたと伝えると5分ほど経って現れました。彼は開口一番「我が兄弟よ!ハビービー」と言いチャイを奢ってくれました。

寒い中飲むチャイは本当に美味かった。この時はまだ飲み慣れてませんでしたが身体の芯から温まりました。飲み終わるとメインの飲みに行きますかと兄貴は言いました。あれ?シーシャ屋どこいったん?

顔に疑義の念を感じ取ったのか宥められながら夜は長いんだし俺がオススメのシーシャ屋連れてってやるから安心しろとの事。それもそうかと納得し案内されるがままタクシーに乗り込みました。

彼は行き先をトルコ語で伝えると車はぐんぐん西の方に向かい始めました。ムムッ?こんな方向にシーシャ屋なんかあるんか?旧市街でも新市街でもないしな〜、でも本場のシーシャ屋って言ってたし現地人が行くローカルな店なのかもな。

20〜30分ほど経ち店に着きました。彼曰く地元の人が行くナイトクラブでした。駆けつけ一杯、ビールを注文するとビールの他に女の子も付いてきました。聞いてみるとウクライナ人とルーマニア人でした。「Is this キャバクラ??」と日本被れの外国人がいかにも言いそうなセリフを口にすると「そう、それやねん!」と返ってきました。

連れて行かれた店内



クラブと言うよりキャバクラのようです。人生初キャバクラ、しかもトルコでです。悪くないでしょう。うん、めちゃくちゃいい。

ウクライナ人もルーマニア人もめちゃくちゃ綺麗で完全に浮かれてました。鼻の下がオスマン帝国の領土ぐらい伸びてました。

ちょうど2日前にウクライナに行っていたので話がしやすくて助かりました。彼女の出身やら働いた年数を聞いてる感じ彼女はただの出稼ぎ東欧移民といった感じの普通のウクライナ人の女の子でした。話は弾んだのでこの旅行前に色々図書館で勉強したことが役に立ちました。(そのおかげで単位を半分落として留年した。)


結局ビール5杯、ワイン4杯、カクテル2杯、ショット5~6杯を飲み出来上がりウクライナとルーマニアの綺麗なお姉さんとダンスして夢見心地になっていたのでだんだん気が緩んでいました。

飲んでは踊り飲んでは踊りを繰り返していたらいつの間にか真夜中を過ぎていました。十分楽しんだしそろそろ当初の目的であったシーシャ屋に行きたいなと思ったので連れに耳打ちしました。

会計するとのことで店員を呼びました。結構飲んだしこれだけ奢ってくれるのいいトルコ人やなぁと思っていると黒服の人が数字を書いた紙を持ってきました。8600トルコリラ。

後から撮った支払いのメモ書き


当時のレートは1トルコリラ=32円ほど。最初酔っ払って桁を間違えたので2万と5千円程度か、割と飲んだな。4時間いて飲んだ量も量だし女の子もついてるならこんなものかと考えていたら連れが半分払ってくれと言い出します。ん???こいつ何をいってるんだ?????

さっきまで俺が払ってやるから好きなだけ飲めと言ってたじゃないか……..。とここで気付きます。あれこれ1桁多いじゃん。請求額8600トルコリラは日本円にして27万円。ちゃんとしたロードバイクが買える値段です。

半分払えと言われても14万弱。結構酔っ払っていたので暗算が不安になりました。持っていたiPhoneとAndroidで検算すると何度やっても14万円です。え、14万円???マジで言ってる????

そうこうしているうちに別の強面のおっさんが怒鳴り始めました。「お前はマフィアか(Are you mafia???)」「いやマフィアの構成員ちゃうわ(I'm not a mafia member!!!!!!!!!)」いやなんでやねん。とりあえず言い返しました。

俺のクレカの上限額じゃ払えないよ〜。トルコでこの値段はふつうだよ。困った顔をして僕に半分の14万円を支払うように兄貴は要求してきます。どこにクレカ上限額で支払えないお店に普通に行くやつおんねん。

さっきまでWe are brothers!!!!イェーイ!!とかいってハイタッチしながら今日は俺が奢ってやると大口を叩いていた彼はどこに行ってしまったのでしょうか。

この時点で僕はぼったくりに会ったことを察しました。飲んでる時に頻繁に席を立ちどこかに行くのでバックれて無銭飲食するタイプの人間かと一瞬考えていました。ただそれも結局毎回席に戻ってはくるので電話しに行ってるのか頻尿なだけかと勝手に納得していました。

思い返せば最初話した時に彼が言った「会ったトルコ人は全員疑え」という言葉は本当でした。そう言ってきた本人自身も疑えという重大な暗示だったのです。他にもよくよく考えればおかしい点はいくつも思い浮かんできます。

おっさんがガンガン怒鳴りつけながら早く払うように急かしてきます。そこで小さな手提げカバンを開き財布を開きました。そこにあったのはたった35トルコリラ(当時のレートで大体1000円)。ぼったくった14万円分はおろか、さっきまで飲み食いした金額にすら到底足りません。(それにしてもこの時のレートかなり高いな、今なら35トルコリラは300円強の価値しかない)

クレカすら一枚も入ってないすっからかんの財布を見て相手も驚きを隠せません。金隠してるだろと机を叩きながら問い詰めてきたおっさんは僕の手から財布を奪い取り中身を検分します。でもわずかなお金のほか入っているのはせいぜい日本語が書かれたポイントカードだけ。あとはスッカスカのスカンピンです。

他に入ってたのは調味料の塩こしょうのボトル、あとはスプーンとフォークが一組。

こんな事もあろうかとバッテリーを取りに行きたいとホテルに戻った際に後々何があっても良いように貴重品は全部置いてきていたのです。財布の中には35トルコリラだけ残しクレカや持ってた外貨の大半は金庫の中でした。俺天才じゃん。

おっさんのボルテージはますます上がりこの連れのやつにホテル一緒に向かわせるからそいつに払えよと要求してきます。そこでまずそもそも値段自体が意味不明な事。そんなに言うならちゃんと内訳見せてみろやと怒号が飛び交う押し問答。

おっさんが突き飛ばしかけてきたので僕も頭に血が上りレジの前におしかけ内訳見せろとレジの従業員とつかみあいの大立ち回り。キレてたおっさんが後ろから掴みかかってきたので持ち上げて放り投げた。

ひっちゃかめっちゃかになりつつもそこは流石にプロのぼったくり集団。内訳はどうにもわかりません。先方もこの場で支払わせるのは無理と踏んだのか追い出すように外に待たせてあるタクシーの方に追い立てます。

この時点でもう踏み倒す気満々だったので外に出るとキレて不貞腐れたようにしながら店を離れました。連れのクソトルコ人が「ホテル遠いし、タクシー乗りなよ」と促してきますがガン無視します。

少し間合いがとれた瞬間ダッシュで走り出しました。カモが遁走した事に気づいた従業員やクソ兄貴も追いかけてきました。ただ逃げた方向を間違えました。左も右も完全に壁、突き当たり奥にアパートの階段があるのみで他に逃げ道がありません。一か八か上るしかねぇ!と駆け上がりました。

だが階段登ろうとそこから先も結局は行き止まり。周りは有刺鉄線に囲まれた塀。詰んだ気がする。あれ?有刺鉄線??有刺鉄線って乗り越える方法あったよな。脱獄囚や兵士が手近にワイヤーカッター等の工具がない時にどうするか。

そう服をかけるのです。咄嗟にパーカー二枚を急いで脱いで有刺鉄線にかけました。こうすれば肌に裂傷を負わずに乗り越えれます。ディスカバリーチャンネルで見た。アド街で見たみたいな。

後ろで接近する音がしたのでさっさと乗り越え服を回収しました。セキュリティ意識がすこぶる高いのか2階の高さほどあるブロック塀から逃げ切るには飛び降りるしかありません。

元々パルクールをやっていたのでこの程度の高さはへっちゃらでした。がしかし薄い月あかりで見る限り下には建材と思しきH鋼が乱雑に積んであります。一瞬逡巡しましたが退路は既に立たれていたのでえいやと飛び降りました。野生の勘が冴え渡っていたおかげで綺麗に着地できました。

ここまできたらもう彼らは追って来れないでしょう。脱いだパーカーを急いで羽織り、他人の敷地をササッと横切り反対側の大通りの塀に近づいた時、闇夜の中何かが猛スピードで駆け寄ってきました。けたたましい咆哮と共に現れたのは二匹のドーベルマン。

一難去ってまた一難。いやマジかよ勘弁してくれよ〜。この時ユーゴスラビアやここトルコで野犬に何回も追いかけられているので犬の怖さは十分理解しています。

とりあえず殴りましたがなかなか当たりません。犬って体高が絶妙に低いのでパンチって全然当たらないんですよね。そしてこの頃はまだこしょう攻撃を発見していません。(犬は鼻が効く生き物なので殴ったりナイフで応戦するよりこしょうをぶっかけた方が確実に撃退できる。)

流石番犬、野犬に比べるとめちゃくちゃにしつこい、ヒラヒラしていた上着の一部を噛まれて衣類が裂けます。おっとこれ冬じゃなかったら皮膚に穴空いてんな。

番犬に噛まれて開いた穴

無我夢中で殴ったり蹴ったりしていても埒があきません。2匹別々に攻撃されるのはどうにもやり辛い。1匹の攻勢逃れてももう1匹が食い付いてくるから塀に登る余裕がありません。

作戦変更して1回パッと攻撃をやめ上体を引きました。目論見通り彼らはその隙を逃すまいと同時に攻撃してきます。2匹が並んだ瞬間乾坤一擲の回し蹴り。

一瞬怯んだ彼らに隙が出来ました。このチャンスを逃すわけには行きません。なんとか塀をよじ登り脱出することに成功しました。不法侵入したのは僕の方です。犬さん殴ってごめんなさい。

ここからは追っ手に追い付かれないように来た道と逆方向の西を目指しながらランダムに右にいったり左にいったりしました。どうやら最初の有刺鉄線乗り越えたあたりから追跡されてる気配はありません。

交通量の多い大通りに達した時時計を見たら夜中の2時でした。さてここから帰りどうしたものか。不幸中の幸、オフラインマップを広範囲にダウンロードしておいたおかげでギリギリ自分のいた位置を把握できました。当時はまだsimロック解除のハードルが高かったので半日前の自分の判断に拍手です。

どうやらホテルまでは15kmほど。荷物はほぼないので軽いジョギング程度で行けば2時間程度でつきそうな距離です。思ったより遠くなくてよかった〜。春先のトルコはまだまだ寒かったけど酔い覚ましにはちょうどいい気温でした。

そして僕は親日か反日かなどと言う善悪二元論など所詮幻想だと悟り、海外旅行中会った外国人は全員潜在敵として認識、行動するようになりました。

あゝトルコのシーシャ吸いたかったなぁ。



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