粘膜接触
見てはいけないものを見た。
という意識は、恥ずかしがっている彼女の姿とともにずっと脳にこびりついてしまった。
どうにも発散できないような熱い液体みたいなものが、お腹のあたりで留まっていく感じがする。
顔が、見たい。
ゆっくりと彼女の方へと身体を向けた。彼女の顔をみるということは、私の顔も見られてしまうという事だった。
私は絶対に、ぜったいに今、淫らな顔をしているに決まっているのに。
そんなことよりも、もっと、彼女が今どんな顔で私に擦り寄ってきたのか、確かめずには居られない。
彼女は潤ませた目でしっかりと私を捉えた。湿った手は私の手に縋り付こうとする。
汗ばんで、息も熱く、彼女自身でも持て余したような興奮の波に耐えているみたいだった。
彼女はそれを、欲情だと自覚しているのだろうか。
顔は、困ったような、泣き出しそうな、それでいて苦しげな表情をしている。
ゆっくりと開いた彼女の口の中、舌と口蓋の間には、唾液の糸引く様が微かに覗いた。
あぁ、口の中なんて、みちゃいけない、
「さっきの、こと、」
「う、ん」
「はずかしくて、嫌だった、」
「、、うん、」
「なのに、なんか、、、」
彼女の涙声は、とうとう涙へと変わってしまった。自分で言いながら堪えられなくなってしまったのだ。
きっと、自分が言葉を発する振動すら快楽へと変わってしまっている。
発散できない欲求は、身体中を駆け巡り、様々な感情を通過したあと、涙として外に溢れている。私はそんな状態のことを、知っている。
私が彼女に抱く劣情は、今彼女のなかに駆け巡るそれとおんなじだからだ。
彼女の興奮が私にも伝染する、ただでさえ爆ぜそうだった何かが、苦しいくらいに張り詰めていく感じがする。
心配するようなことはないよということを伝えてあげたいのに、口では到底うまくできなくて、私は、彼女をぎゅっと抱きしめた。
熱い身体は、小さく震えながら悩ましげな声をあげる。抱きしめた手で背中をさする度、小さく反応をした。
どうしていいかわからないのは、私だって同じだ。
お互いの欲求がこんなにもぶつかっているのに、どうすればこの熱を逃がせるのか、
私たちはしらない。
「、、だめに、なる、」
泣きながら私を見つめる彼女を見ていると、なぜだかそうしないといけない気持ちになって、彼女の唇を少しだけ舐めた。
驚きながらも気持ち良さそうに表情を溶かした、彼女の疼きが、私をさらに求めているのだと知る。
熱い吐息を漏らす彼女の唇の間からも、真似をするように舌が出てきた。
粘膜は皮膚よりももっと熱いのだ。舌と舌が触れ合う瞬間、小さく快楽の弾けるのを覚えた。
一度、舌が触れ合うのを許された私たちは、それから必死になってお互いの舌を追いかけ合った。
口の端からは涎が垂れて布団を濡らす。喉からは甘い声が溢れて止まらなかった。
抱きしめる腕にはだんだんと力がこもっていく。隙間なくぴったりと身体をくっつけて、涙と涎でぐちゃぐちゃなこれが、どうしようもなくきもちがいい、なんて。
身体中を甘い快楽が巡って積もる、発散したいのにどんどん溜まっていってしまう。
もうこれ以上は、、と思った瞬間、
一気に身体中に波が押し寄せて何かが溢れる感じがした。身体は勝手にびくびくと震える。
彼女も腕の中で、同じように身体を震わせている。
何にも触れていないつま先までが、ビリビリときもちよくて、私は声を我慢できない。
聞かれちゃうかもしれないとか、そんなことも一瞬どこかへいってしまった。
甘い声の連続が静まって、部屋には私たちの呼吸の音だけになる。
息を荒くしたままの彼女が、顔を真っ赤にしながら、
「ごめんね、」
と言ったので、焦って私も「ごめん、」と言ったけれど、なんだか違うよな、と思い直して彼女の頬に手を伸ばした。涎と涙に濡れた彼女の頬を指で拭う。
また涙を溢れさせそうになっている彼女を見ていると、
「すき、」
と、口から言葉が勝手に出ていってしまった。
私は、また少し焦って、次の言葉を言おうとしたけど何にも出ては来なかった。
彼女は一瞬驚いた顔をして、溢れそうだった涙を少しこぼしたけれど、私に向かって小さく微笑んでくれた。
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