見出し画像

「Unity=ゲーム開発」だけじゃない!建築、製造業、自動車……リアル産業の「デジタルツイン」を後押しするUnityの拡張性

〈近い将来、現実世界(リアルワールド)にあるすべての場所やモノ──すべての道路、街灯、建物、部屋──の実物大のデジタルツインがミラーワールドに存在するようになる〉

『WIRED』創刊編集長のケヴィン・ケリーは、「デジタルツイン」の可能性をこう指摘しました。デジタルツインとは、リアル空間にある情報をIoTなどで集め、そのデータをもとにサイバー(仮想)空間に再現する技術のことです

現実世界をサイバー空間へコピーした、言わば「鏡の中の世界(ミラーワールド)」であり、この相似性から「デジタルの双子(デジタルツイン)」とも表現します。実は、このデジタルツインの実現を、Unityが後押ししています。

ゲーム開発になくてはならないUnity。しかし、そのポテンシャルはゲームだけにとどまりません。Unityを用いてデジタルツインを実現することで、リアル空間では実施が難しいシミュレーションを行えるようになるため、さまざまな産業において活用されているのです。

この記事では、産業領域で実際にどのようにUnityが活用されているのかを紹介していきます。Unityが生み出すデジタルならではの体験とは、一体どのようなものなのでしょうか? 建築、ロボティクス/製造業、自動車の各分野を担当するUnity Japanスタッフ3名に、それぞれの産業でUnityがどのように役立っているかを語ってもらいました。


リアルな建設現場情報を再現! 建築業を変革するUnityとデジタルツイン

まず紹介するのは、建築における活用事例です。Developer Advocate - AECの竹内一生は、建築業におけるUnityの活用を推進しています。

竹内はCGコンテンツの制作会社でBIM(「Building Information Modeling」の略)をベースとしたVR/ARコンテンツの制作やプロジェクトマネジメント業務に従事する中で、 建築とUnityの可能性を模索し、世の中に実装していきました。

Unityへ変換するだけでも大変であったBIMデータ。テクスチャやメタ情報を欠落させずにUnityへ変換しやすくするため、BIMを簡単に扱えるプラグイン 「BIM Importer」をDIX様らと開発しました。

竹内は、「Unityは汎用的な課題解決に寄与できる」と魅了されています。

画像1

「一口に『建築業界』と言っても、設計・施工・営業・管理と様々な領域を抱える大きな業界であるため、それぞれの領域間ごとに異なる課題があります。また、それらへの解決策は領域間での汎用性・共通性が現状は乏しいのが実情です。そういう業界において、Unityならそれらの課題に領域間をまたいで柔軟に対応できると考えています。その一例を、私がUnity入社1年目に手がけた『Unity Japan Office Project』という、銀座にある当社オフィスをUnity上で再現したデモプロジェクトで概念実証しました。Unity Japan Office Projectでは点群データ・BIMデータの活用方法や、HDRPを活用したフォトリアルな美しさの再現方法、床や壁の部材を変更する方法など、各領域で必要とされる見本的な課題の解決策を実現でき、Unityが領域間をまたいで一つのプラットフォームで解決できる魅力を示せたと思っています」

中でもUnityが特に力を発揮するのが、「デジタルツイン」の実装です。たとえば、「Cyber Physical System」というプロジェクトでは、Unityのサイバー空間上に建設現場を再現・構築。重機情報や人の動きまで、施工現場のあらゆる情報を可視化し、シミュレーションすることで、大幅な生産性向上を実現しました。

そして、国土交通省は、日本全国の3D都市モデルを整備・オープンデータ化するプロジェクト「PLATEAU」を公開しました。それに伴い、森ビル株式会社の「屋内外をシームレスにつなぐ避難訓練シミュレーション」では、このPLATEAUのデータを活用し、火災が発生したときの避難シミュレーションをUnityで制作。建物を築年数ごとに色分けして倒壊危機の予測をしたり、目的地への避難ルートを確認したりすることが可能になりました。

このように、Unityプラットフォームに建築データを合成し、可視化やシミュレーションを行う事例が増えてきています。「点群データも簡単に活用でき、VRでもARでもアウトプットできるので、BIMなどの既存データを持つ方たちにに有用です」と竹内は語ります。

「新しい技術と既存の技術をつなぐ存在がUnityなんです。設計事務所からゼネコンまで、建築業界のさまざまな企業で業務改善のソリューションを実現するための土台が、Unityには揃っています。地震や雷、感染症など、世の中にはまだ数値上でしかシミュレーション結果が表現できていないものがたくさんあるので、そうしたデータをどんどん3D空間上で再現できるようにしていきたいですね」


「現実世界のことならほぼ再現できる」ロボティクス/製造業におけるシミュレーションでも活躍

ロボティクス/製造業においても、現実では難しいシミュレーションを可能にするために、Unityが活用されています。

Untiy Japanの産業分野でプロジェクトマネージャーを務める小森顕博は、ソニー系列の会社でのリアルタイム3Gを応用したプログラム開発を経て、14年間、ソニーとソニー・コンピュータエンタテイメントで研究開発に従事していました。

特に力を入れていたのが、今携わっているロボティクス分野の一部もである、人と機械の間のインタラクションです。。当初は実証実験のためのプラットフォームとして自作3Dエンジンを使っていましたが、デザインデータのやりとりや、触り心地のような感覚的な部分を数値化に落として調整する作業に時間がかさむのが課題でした。

ヒトの感性をダイレクトに反映出来る手段を探してる最中にUnityと出会い、編集画面からすぐに実行画面へ移れて、さらにその実行状態のまま調整作業が出来るという、あたかも楽器のような操作性の高さに感動。「これは機械と人の界面の研究開発に間違いなく役立つ」と一気にUnityに惚れ込み、2019年には製造業分野でのUnity活用を推進する役割で入社しました。

画像2

ロボティクス/製造業においては、たとえば産業用ロボット向けのAI開発でUnityが役立っています。バラバラに積まれたものを正しくつかみ分けて器用に運ぶ、うまくつかめたときはどう持っていたかを機械学習させる、ものに応じてつかみ方を変えていく……さまざまな挙動について、Unity上で高精度のシミュレーションが可能です。

「Unityを使うことで、現実世界では実現の難しいことができるようになります。実物で行おうとするとコストに見合わないシミュレーションでも、Unity上なら効率的に行えますし、物体の動きについても、現実世界と近しい挙動を再現できます」

自動運転技術の開発においても、Unity上でのシミュレーションが価値を発揮します。現実の道路ではできない実験や、機材や人の制約によって一度に一回ずつしか再現出来ないようなプロセスでも、Unity上なら無数の組み合わせを同時並行で実現できるからです。たとえば、人や他の車両や路面の破損箇所、といった障害物を回避しながら、安全かつ快適に移動するためのプロセスを機械に学習させることができます

「およそ現実で行なわれていることは何でも解決の糸口になる手伝いができると思っている」と小森は力強く語ります。

「非効率さを感じる分野であれば、どこにでもUnityが使えるのではないでしょうか。産業領域に限らず、医療、教育など、さまざまな分野でUnityを活用して課題解決を進めていきたい。生産ラインの設計のように、これまで職人の勘に頼って調整することでなんとかうまくいかせていたプロセスも、Unityでシミュレーションすることで効率化できるはずです」

小森は今後、専門知識がない人でもUnityを使って課題解決ができるようになるための知見をわかりやすく伝えたり、ユーザー同士のコミュニティ作りに注力したりしていきたいとのことです。また、どうしても出てしまう現実とシミュレーションの差分、「sim2real gap」と呼ばれる領域の課題をなるべく解消できるような技術開発にも取り組んでいくと語ります。


エクスペリエンスの創造に欠かせないUnity──自動車業界が求めるリアルタイム3Dの価値

自動車業界においてUnityの活用を進める、産業分野の事業開発統括マネージャー・中嶋雅浩は、「エクスペリエンス」というキーワードを挙げます。エクスペリエンスとは文字通り「体験」のことで、21世紀に消費トレンドが「モノ消費」から「コト消費」へと移り変わる中で、ビジネスにおいて設計・考慮すべきポイントとして注目を浴びるようになりました。

20年以上、CG業界で仕事をしてきた中嶋。自動車業界を中心に携わりつつ、傍らでゲームエンジン業界の変化も見てきました。2010年代後半には「リアルタイム技術が産業領域でも使える」と考えるようになり、製造CADの会社へ転職。

時を同じくしてエクスペリエンスはビジネスのキーワードとして注目を浴び、ゲームエンジンを用いて企業がアプリケーションを自作する動きも出てきました。さらにはUnityがBMWとレイトレーシングの共同技術開発を行った事例を知り、「この価値を皆に伝えたい」と衝動にかられた中嶋は、Unityへの入社を決めました。

「リアルタイム技術は、ものづくりのサイクルの中のあらゆるプロセスで必要ですが、とりわけエクスペリエンスの追求にUnityが役立つと考えています。昨今は自動車のデザインにおいて、形だけでなく、体験も考慮しなければいけない時代になっています」

画像3

「もともと数億円かけて超大型スクリーンに実寸台の車の映像を出していたのが、VRの到来によって、バーチャル世界の中でも車の所有体験を、リアリティを伴ってシミュレートできるようになりました。『車の中でどうやって過ごすか』が次なる課題となり、既存のツールでは事足りなくなったからこそ、必要なツールを自分で容易に開発できるUnityが価値を発揮するのです」

エクスペリエンスの追求は、自動車業界にとどまらず、あらゆる産業の共通事項となりつつあります。モノとアプリケーションは密接に関わるようになり、ものづくりのプロセスがデジタルと融合して変わりつつあります。そうした時代だからこそ、「リアルタイム性を持つテクノロジーは新しい価値を与える」と中嶋は語ります。

たとえば、スマートシティの開発を進めるうえでも、Unityによるデジタルツインの実現が大きな価値を発揮します。リアル空間では人の生死や安全にかかわるために安易に行えないシミュレーションも、ヴァーチャル空間でなら何度でも実施できるのです。

「Unityを活用することで、プロセスの最適化が行われ、大きなコスト削減が実現するでしょう。しかし日本はこれまで、デジタル化の波には労働集約モデルで対抗し、結果的にデジタル技術の活用が遅れました。現実に準ずるデジタル技術の価値創造では、、未だこの傾向は続くかもしれません。しかし、現実を超える価値を持つデジタル技術が出てきたら、投資は加速するでしょう。これにはデジタルツインが不可欠で、Unityが期待される理由の一つです」


「ヴァーチャル→リアル」から「リアル→ヴァーチャル」へ

建築、ロボティクス/製造業、自動車の他にも、さまざまな産業領域でUnityの活用事例は増えています。

Unityはもともとゲーム開発用のプラットフォームとして、ヴァーチャル世界をリアル世界に近づける技術を磨いてきました。それゆえに、リアル世界をヴァーチャル世界にデジタルツインとして落とし込むことにも、価値を発揮しているのでしょう。

昨今は「DX(デジタルフォーメーション)」という標語を耳にすることも増えましたが、あらゆる産業領域に変革が求められる昨今、Unityが活躍できるフィールドはますます広がっていくと私たちは信じています。



併せてこちらのマガジンもぜひご覧ください。


こちらは2020年10月開催のアーカイブ情報です。



みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

最後までお読みいただきありがとうございます。ぜひTwitterもフォローしてください。