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【海外小売DX事例】THE COLORIST ー中国ニューリテールを体現する先鋭コスメショップ

1. はじめに:ニューリテールとは?

「ニューリテール」とは、中国のアリババグループが最初に提唱した戦略で、小売業のDXを実現し、オンラインとオフラインを融合させた(OMO:Online Merges with Offline)新しい顧客体験を提供することです。

中国ではすでに様々な企業が試行錯誤しながら、このニューリテール戦略を実践しています。少しでも日本企業のDX化のヒントになるように、これから数回に分けて、幾つかの事例を取り上げていきたいと考えます。

2. THE COLORISTの紹介

 2.1. 「フォトジェニック」×「ハイテク」×「ファースト」のコスメセレクトショップ

今回紹介するTHE COLORISTは、中国国内で初めての業態として、手頃な価格とプチラグジュアリーなグローバルコスメブランドを集合させたコスメセレクトショップです。

2019年にブランドが設立されて以来、広州、深セン、北京、上海、南京、成都などの大都市で次々と店舗がオープンし、現在では300を超える直営の実店舗があります。THE COLORISTは1店舗当たり、1日平均14,000人以上の来客数を達成し、平均販売実績は20万元/日を超えています。

THE COLORISTは百貨店でよく見かける黒色で重厚感のある高級コスメブランドの店舗イメージを覆して、レインボーやグラデーションの色使いで”フォトジェニック”&”ハイテク”の空間を作り出しました。ターゲットであるZ世代の若者を中心に、SNSで莫大な人気を得ることができました。

また、THE COLORISTはグローバルの最新トレンドを取り入れたコスメを、いかに早く中国の消費者に届けるかにこだわっており、新商品の企画からわずか30日で店舗に並べています。

 2.2. IT人材の割合は35%以上、小売業なのにテクノロジーのDNAが強い

THE COLORISTを運営しているのは、2015年に設立されたKKグループです。「KK館」や「KKV」などのライフスタイル系セレクトショップもKKグループの傘下にあります。

KKグループは唯一の実店舗を持つユニコーン企業として、2020年に CB Insightsの「State Of Retail Tech: Ahead In 2020」レポートにも取り上げられました。THE COLORISTのターゲットは15~35歳の女性、つまり90年代や00年代生まれの若者です。彼女たちを飽きさせずに惹きつけるためには、常に遊び心があって、”鮮度”の高い商品を提供する必要があります。KKグループはそれをデータドリブンと効率化を徹底した商品開発とオペレーション、マーケティングによって実現させました。実はKKグループは小売業にもかかわらず、創業初期から莫大なIT投資を行い、IT人材の割合は35%以上を占めるほど、テクノロジーのDNAが強い会社なのです。

3. 店舗/チャネルに関する施策:

 3.1. 「ハイテク」&「フォトジェニック」のリアル体験こそ、Z世代の心を掴む

インターネットの台頭を見届けてきたミレニアム世代にとっては、オンラインショッピングは斬新な体験ですが、デジタルの世界で生きるZ世代にとっては、当たり前な日常でしかありません。むしろ、新しい社交場と面白い体験を提供するリアルの空間こそ、Z世代の彼女たちの心を掴めるのです。

THE COLORISTも、緻密に計算されたレインボーやグラデーションの色使いや巧みな照明で、”ハイテク”&”フォトジェニック”の雰囲気を醸し出すことで、若い女性を虜にしています。新店舗がオープンする度に、SNSで写真が瞬く間に拡散され話題を呼び、集客の大きな源泉になっています。

 3.2. OMOチャネル構築、1時間で自宅まで配送

THE COLORISTはOMOチャネルの構築にも注力しています。JD.COM,美团,饿了么(中国版Uber Eats)との提携により、現在約200の実店舗がデリバリーサービスに対応しており、消費者はワンクリックで商品を購入し、1時間以内にコスメが自宅まで届くのです。

4. 商品に関する施策:

 4.1. グローバル「網紅」コスメブランドを集結、ブランドの人気に乗じる

THE COLORISTの商品セレクトに関しては、中国若者の間に”網紅”のグローバルコスメブランドを集結させており、おおよそ3種類に分けられます:

①中国国内の新進気鋭のコスメブランド:Judydoll橘朵、flowerknows花知晓、ZEESEA滋色、Little Ondine小奥汀等

②海外のサブカルチャー的な人気ブランド:Canmake(日本)、FOCALLURE(日本)、Erno Laszlo(米国)、Kiss me、Mistine、Morphe(米国)、RED EARTH(オーストラリア)、PONY EFFECT(韓国)、KIKO(イタリア)、Mistine(タイ)等

③国際的高級コスメブランドのトライアル品:DE LA MER(米国)、エスティ ローダー(米国)等

各コスメブランド自体もすでにRedbookやWeiboなどの中国SNSで広く拡散され人気が確立されているため、THE COLORISTもその人気に乗じてファンを店舗まで呼び寄せています。また、商品の価格帯も100~200元(2000~3500円)がメインのため、大学生や社会人になったばかりの若者のお財布にも優しくなっています。

 4.2. 仕入れは完全買取型で、複数ブランドとのCo-operate to Consumerを実現

THE COLORISTは中国伝統的なサプライチェーンと大きく異なる点として、全ての商品は完全買取型で直接仕入れていること。それゆえに、複数ブランドとのCo-operate to Consumerを実現できました。お店の陳列も工夫がなされていて、多くの商品はブランド別ではなく、顔・眼・口紅のように機能別に並べられています。

従来のビジネスモデルであれば、ブランド側は店舗で取り扱ってもらうために、入場料、管理費や様々なマーケティング費用を支払う必要がありました。しかし、完全買取によって、ブランド側は棚どりなどを気にせずに、顧客が欲しい商品の開発に専念できるようになりました。また、THE COLORISTもデータに基づく消費者インサイトをブランド側に開示し、商品の共同開発に取り組んでいます。

THE COLORIST側としては、完全買取によって価格交渉で優位に立ち、安値で仕入れて顧客に販売でき、同時に仕入れオペレーションの効率化も図ることもできます。

顧客側の視点に立つと、THE COLORISTにさえ来れば、全世界人気ブランドの数千種類の商品を、ワンストップで一気に無料試用できて購入できるので、自分が欲しい商品に手軽に出会えて、顧客体験と満足度は非常に高くなっています。

 4.3. 30日間で新商品リリース!「鮮度」と「データドリブン」の商品開発へのこだわり

THE COLORISTがターゲットにしている90年代と00年代生まれの若い女性は、トレンドと個性を追求するため、彼女たちにいかに鮮度が高い人気商品を提供し続けるかが大事。従来の小売業は新商品の開発サイクルが約90日間だが、THE COLORISTはそれを30日間まで短縮しています。毎週新商品をリリースし続けることで、顧客に来店する度に新しい体験を提供しています。

また、完全買取によって商品の売れ残りリスクはTHE COLORIST側にあるため、必然的に商品仕入れの精度と、在庫回転率の速さがシビアに求められます。それを可能にした秘密は、データドリブンに徹底した商品開発にあります。THE COLORISTの関係者によると、新商品が店舗の棚に並ぶまでに、消費者の需給分析とリサーチ、商品選考会、ユーザー投票といった様々な評価プロセスを高速に回し続けています。商品リリース後も最初の2週間~1か月はテスト販売期間としていて、消費者の口コミと実績データの分析によって正式販売の可否が決定されます。既存商品の販売終了も同じく厳格で効率化されたフローが存在しています。商品の選定と淘汰はバイヤーの属人的な好みと経験によらずに、CEOでさえ決定権限を持たないほど、データドリブン至上となっています。

5. 接客とマーケティング施策:

 5.1. One to One接客は無し、KOLがお店でライブ配信してレッスンを提供

昔は中国で化粧品やコスメブランドと言えば、デパートの1階に店舗やカウンターがり、そこでメイクアップアーティストが丁寧に接客することが多くありました。しかし、THE COLORISTはあえてOne to One接客を撤廃したことで、顧客がスタッフに気を遣うことなく、全ての商品を気軽に試用できるようになりました。この接客スタイルは、日本のドラッグストアからヒントを得たのかもしれません。本質的には、Z世代の若者達はゴリ押し的な売り方を敬遠し、自分達が本当に欲しいモノだけ、自由に選べることを望んでいると考えます。

One to One接客の代わりに、THE COLORISTの店に入ると、カラフルな背景に面して撮影用の照明が設置され、バーカウンターのようなスペースが目に入ります。実は業界内で初めてKOLによる実店舗でのライブ配信を企画しました。コスメ領域のKOL(インフルエンサー)たちを招待して、お店でメイクアップレッスンを開催し、同時にライブ配信も実施。そうすることで、KOLの発信力を借りてSNSでの拡散を狙うと同時に、実店舗に訪ねてきた顧客にファンイベントのような特別体験も提供できるため、まさに一石二鳥の施策なのです。

 5.2. JDとの提携により、全チャネルを融合した顧客管理・マーケティングを実現

デジタルマーケティングに関して、THE COLORISTはJD.COMと提携しています。JD.COMのECプラットフォーム上でただ商品を販売するのみならず、JD.COMが提供する顧客管理・マーケティングツールを活用することで、全チャネルにおける顧客データを統合して、顧客属性・行動データ分析に基づいてパーソナライズされた広告配信を実現しました。例えば、JD.COMのLocation Based Serviceを利用すると、位置情報をベースに顧客のAPPにプッシュ通知を送信し、JD.COMのEC会員をTHE COLORISTの実店舗に呼び込むこともできます。

6. 最後に

今回は小売業のDX事例ということで、中国初のコスメセレクトショップ—THE COLORISTを紹介しました。デジタルネイティブのブランドが主流になってきている中でも、THE COLORISTは実店舗で顧客に特別な体験を提供できていることが大きな強みです。

中国は近年急速なデジタル化により、ECなどのオンライン事業が大きく成長してきました。しかし、レッドオーシャン化してきている現在、オンラインで1顧客当たりの収益は高止まりしている状況です。その中で、顧客とオフラインの接点を持つことが、再び重要視されるようになってきた。

日本の小売業はこれからDX化を進めていく中で、数歩先にある中国を参考すると、DX化の行きつく先は決して実店舗の切り捨てではなく、オフラインとオンラインの融合であると信じています。

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