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開かずの扉を開けたい

タイトル:開かずの扉を開けたい

▼登場人物
●伊羅旅 明人(いらたび あけと):男性。40歳。独身サラリーマン。両親は他界。人生に挫折していた。
●戸口裕子(とぐち ゆうこ):女性。35歳。明人の元フィアンセ。明人と同じ会社で働く。
●上司:男性。50代。明人の会社の上司。一般的なイメージでOKです。
●野曹美 苗華(のぞみ なえか):女性。年齢は若く見える。明人の夢と欲望から生まれた生霊。

▼場所設定
●会社:明人たちが働いている。一般的な商社のイメージで。
●街中:カクテルバーを含めこちらも一般的なイメージでOK。
●明人の自宅:両親と過していた戸建てのイメージで。

▼アイテム
●Unopened Door:苗華が明人に勧める特製のカクテル。これを飲むと夢が叶う。

NAは伊羅旅 明人でよろしくお願いします。

イントロ〜

あなたは子供の頃に、開かずの扉という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
「この扉だけは絶対に開けちゃだめだよ」
そんなふうに祖父母や親から言われ、その約束事をしばらくでも守ったことがある…
そんな思い出はなかったでしょうか?
田舎などではこんな話がよくあるもので、おそらくそんな開かずの扉なんて言葉を聞いたのも、祖父母のもとでだったかもしれませんね。
今回はその開かずの扉にまつわる、不思議なお話。

メインシナリオ〜

ト書き(現実)

俺の名前は伊羅旅 明人(いらたび あけと)。
今年で40歳になる独身サラリーマン。
今俺は、やや人生に絶望しかけている。

会社で大きなミスをしてしまい、俺はおそらく今度の人事でリストラされるだろう。

それまで片想いし続け、その人とやっと接点を持ちそれなりのタイミングを見計らえるようになり、
恋愛し、もしかするとこの歳になって本当に結婚できるかも?…そんなふうに思っていたこの矢先、
彼女も会社の人で、俺の今度の失態を受けてなんだか遠ざかってしまったようだ。

明人「はぁ…。何のために生きてるんだか…」

俺の両親は既に他界しており、身一つでこれからの人生を生きていかなきゃならない。
でもそんな折、俺は多額の借金をしてしまった。
会社を辞めさせられるなら自分で事業を始めてやろうと
似合わない投資の世界に足を踏み入れたのが大きな間違いの元。

かなりの借金を抱え、人生に失敗し、当然婚期も逃し、この先は何寸先も闇…そんな結末が待っているんだろうと思うと、もう今からやり切れない。

自らこの世を去ることも考えた。

ト書き(空を見上げながら)

明人「フフ…父さん、母さん。そして爺ちゃんと婆ちゃん。みんな、あの空にいるんだよなぁ。…俺もそっちへ行きたいよ。…行っていいかなぁ…」

そんな事を思いつつ、何日かを過ごしたこともある。
その時ふと子供の頃、田舎で爺ちゃん婆ちゃんから聞かされた「開かずの扉」の事を思い出していた。

なんで思い出したのかよくわからなかったが
ノスタルジーに浸ろうとする正直な思いが、俺にそんな幼少の記憶を呼び寄せたのだろうか。

明人「『開かずの扉』かぁ。何だか懐かしいなぁ」

そんな事を思っていると、今の自分のこの悲惨な人生をどうしても思わされ、やっぱりふと昔に戻りたい…みんなのいる所に自分も行きたい、そんな気持ちになってくる。でも…

明人「…いやいや、親からもらった大事な命。絶対、粗末にしちゃいけない…!最後のあがき、あがけるだけあがいてやろう。もがけるだけもがいて、行けるところまで行ってみよう」

そんな葛藤の連日だったのだ。

俺のフィアンセになってくれるかもしれなかった
裕子からはもう何の連絡もない。連絡が途絶えてしまった。

明人「ふぅ。今日は飲みにでも行くか」

ト書き(飲み屋街)

そうして昨日も来ていたいつもの飲み屋街を歩いていると…

明人「…あれ?新装かな?」

と思える新しい店が建っていた。
ちょっとお洒落なカクテルバー。
こんな所で飲んでる場合でもないのに、どうしても気が晴れず、なけなしの金を持ってそこに入った。
そしてカウンターについて1人飲んでいた時…

苗華「フフ、お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」

と1人の女性が声をかけてきた。
見ると結構な美人だ。
彼女の名前は野曹美 苗華(のぞみ なえか)さんと言い、
都内でライフヒーラーや恋愛コーチ、またスピリチュアルヒーラーのような仕事をしていたと言う。

そのせいか何となく不思議な雰囲気が漂っており、
まず思ったのが「昔どこかでいちど会ったことのある人?」と言うもので、
次に来たのが「自分が今抱えている悩みを無性に打ち明けたくなる」と言う強烈な衝動。

そして談笑しながら思った事は、かなり美しい彼女なのに恋愛感情が全くわかないと言うこと。

俺はその人に、今のこの悩みを全部打ち明けてしまっていた。

苗華「まぁ、大変ですねぇ」

明人「ハハwまぁね。でもこんな事、初対面のあなたにお話しするような事でもないんですけど」

苗華「いえいえ、先ほどもお話ししました通り私はヒーラーの仕事をしておりますので、そんなお話を聴かせて頂くことも心の糧になり、今後の人生経験においても一つ一つが大事な話になります」

苗華「でもそうですか。今のその人生に何とか張り合いを持たせたい、今のこの現実を何とか華やかなものにしてみたい、あなたは今そう思ってらっしゃるんですね?」

明人「え?」

苗華「良いでしょう。私が少しその夢のお手伝いをして差し上げましょうか?」

そう言って彼女は指をパチンと鳴らし、
ここのマスターにカクテルを1杯オーダーして
それを俺に勧めてこう言ってきた。

苗華「実はこのお店、私の行きつけでして、以前に作ってもらったカクテルがあるんです。それがこれ。名前を『Unopened Door』と言いまして、これを飲めばきっとあなたの夢はいっときでも、あるいはその生涯ずっと叶うでしょう」

明人「…は?」

苗華「世の中を幸せに生きて行こうとするためには、人間だれでも1つのルールと言うものを守るものです。まぁそのルールは約束事と置き換えて良いかもしれません」

何の事を言ってるのかよくわからなかった。

苗華「明人さん。あなた昔、お爺さんやお婆さん、またご両親から『これだけはしちゃいけないよ』なんて、何かの約束事を守らされた事はありませんでしたか?」

明人「え?…何のことです?」

苗華「まぁ子供の時によくあると言えば、例えば『戸棚のおやつは食べちゃいけないよ』『遅くならないようにちゃんと家に帰ってくるんだよ』とか、また『あの場所は絶対行っちゃいけない』『これはしちゃダメ』『この戸は開かずの扉だから絶対開けてはならぬぞ?』なんてちょっと怖がらせるように言われたりなんか、そんな経験はありませんでしたか?」

訳の解らない事を言う。
でも「開かずの扉」と聞いて、爺ちゃん婆ちゃんから言われていたあの幼少の時の記憶が甦ってきた。

明人「…『開かずの扉』ですか。まぁ、そんな事は確かに子供の時あったような…気はしますけどね」

苗華「やっぱりそうでしたか。実は私もそんな記憶がありますよ?『開かずの扉』なんて誰が何で決めたのかわからないけど、子供の時ってそんな事まで信じちゃって、結構、思い出に残ってたりするんですよね」

苗華「例えばそういう事です。子供の時に言われた約束事、それをちゃんと守ってさえいれば怪我したりもせず、危ない所にも行ったりせず、穏便に生活できると言うもの」

苗華「これは大人になって社会に出ても同じことで、世間で決められている物事をきちんと守り、共存のルールを守って初めてその人に幸せが訪れる…そんなふうに人の世の中と言うのは出来ているんでしょうね」

明人「…あの、さっきから何の事を…?」

苗華「どうぞそのカクテルをお飲み下さい。そうすれば全てが解るでしょう、今私が言ってる事も」

ここで益々不思議な気がした。
他の人に言われたって無視する事でも、
彼女に言われると結局、信じてしまう。
気がつくと俺はそのカクテルを飲み干していた。

苗華「それで良いのです。さて、今あなたはご両親が住んでらっしゃった実家に住まわれている、とおっしゃってましたね?そしてご両親からも『押し入れの隣にある小さな引き違い戸を開けないように』…なんて、まるで開かずの扉がそこにあるかのように言われた事があるとおっしゃってましたね」

確かにさっき開かずの扉のくだりで
そんな話を少ししてしまっていた俺。

明人「え、ええ。でもそれが何だって言うんです?」

苗華「ここで改めてあなたに1つの約束事、ルールを与えましょうか」

明人「え?」

そこでクルッとこちらを振り向き、彼女は冷静にこう話す。

苗華「その引き違い戸を開けてはなりません。今のあなたにとってその戸は『開かずの扉』。絶対に開けてはなりません。その約束だけを守ってくだされば、あなたの人生はこれから見違えるように挽回し、とても華やかなものになるでしょう」

また訳の解らない事を言ってきたが、俺はそれを信じてしまう。

苗華「良いですね?絶対開けないように…」

ト書き(人生の挽回)

それからわずか数日後。このとき彼女が言った事が本当に成ったのだ。

(会社)

裕子「あの、ごめんなさい!私、こんな時にあなたを支えないで、自分の人生だけを守ろうなんて思っちゃってたの。私やっぱりあなたを愛してる。あなたから絶対離れないわ」

まず信じられない事だが、裕子との関係が元に戻ったのだ。
そしてそれを皮切りに…

上司「ん?君をリストラ?なんだ、誰がそんな事を言った?君にはこれからもどんどん働いてもらうよ♪君の仕事ぶりは確かにミスもあるけど、これまで会社に尽くしてきてくれた事を思えばそんなの小さい。それに誰だってミスはあるもんだよ」

明人「えぇ!?じゃ、じゃあ…」

リストラは俺のただの思い込み。
確かに大きなミスをして、責任を取らされ辞めさせられるのが普通だと思っていたのに、現実は全く違った。

会社が尻拭いをしてくれた上、これまでの俺の働きのほうをさらに評価してくれ、
なんと今度の人事で俺は逆に昇進するかもしれない…そんな噂まで立っていたのだ。

明人「ハ…ハハwど、どうしてこんな、急に」

確かに驚きばかりだが、俺の心はもう万々歳。
さらに莫大な喜びとともに、この前、やけくそで買った宝くじが前後賞を当て、それまで積み重なっていた借金を全て返すことができた。

(婚約)

明人「裕子、本当にありがとう。君が戻ってきてくれて、俺の人生にもまた幸せが戻ってきたよ。これからはずっと2人で幸せに向かって歩いていこう」

裕子「うん。私とっても嬉しい」

もう諦めかけていたと裕子との婚約、結婚。
それが叶い、俺たちは今結婚に向けて足並み揃え、幸せなスピードで歩いている。

ト書き(カクテルバー)

そして数日後の事。
俺はまた1人であのカクテルバーへ行き、
そこでもし会えたらあの苗華さんに今のこの喜びを伝え、
同時に心の底からこのチャンスをくれた事に感謝しようと思った。

明人「あ、居た!苗華さん♪」

店に入ると彼女はまた前と同じ席に座ってお酒を飲んでいた。俺は彼女の元へ一足飛びで走り寄り、本当に心の底から彼女に何度もお礼を言った。

苗華「そうでしたか♪それは本当によかったです。おめでとうございます♪」

明人「ありがとうございます!全て苗華さん、あなたのお陰ですよ!」

そしてまたしばらく談笑。

苗華「まぁ、宝くじが当たったんですか♪」

明人「ええそうなんです♪まぁ前後賞ですけどね。でも今の僕にとっては本当に莫大な財産ですよ」

そう言ったとき彼女も…

苗華「それはよかったです♪実は私もなんですよ?」

明人「え?」

苗華「普段は買わないのになんだか無性に買いたくなっちゃって、宝くじ、200万円当たっちゃいました♪」

明人「ええ!?凄いじゃないですか〜♪」

俺たちは喜びを分かち合い、彼女は俺と裕子の門出を心の底から祝ってくれた。

ト書き(トラブルからオチ)

そして裕子と結婚式を挙げる式場と日取りも決まり、
仕事が休みの日、部屋で1人掃除をしていた時だった。

明人「ふぅ。だいぶ片付いたなぁ♪…でもまた俺の人生に、こんな華やかな幸せがやって来てくれるなんて…。父さん母さん、見守っててくれよな」

これまでの事を思い出しながら、俺は密かに感謝していた。
そして押し入れの中の隅々まで掃除をした後、ふと横を見ると、あの引き違い戸…開かずの扉に目がいった。

苗華さんに「開けてはならない」と言われたこの開かずの扉。
確かに父さん母さんもふざけてそんな事を俺に言った事がある。まだ子供の頃。

でも、爺ちゃん婆ちゃんが言ってたあの田舎の開かずの扉を開けた時、
中に入っていたのは瓶詰めにされた唯の蛇の抜け殻。

婆ちゃんは実はマムシ酒を作るのが得意だったようで、その材料になる物をそこに収納していただけの事だった。

まぁ蛇だけに子供にはショックが強いだろうと、
爺ちゃん婆ちゃんなりに俺の事を考え、そう言ってくれてたんだろう。開かずの扉なんて。

明人「…ハハw別にこんな戸、開けたって何がどうなるわけじゃないのに」

俺は純粋に、何の他意も無くその扉を開けてしまった。
それまでは苗華さんに言われた通り、この扉には一切手も触れず、開けてこなかったのに。

でもその扉を開けた途端…

明人「う…!うおあぁわあぁ!!?!」

扉の中からけたたましい程の光が溢れるように
轟音を放ち、俺の全身を取り巻いた。

明人「な!なんだ、なんだよ、なんだよこれえ!!」

扉の中は目がやられてしまうほどの凄まじい光があって、その真ん中に暗闇があり、その暗闇が少しずつ大きくなったかと思うと、俺の存在全てがその闇の中に吸い込まれてゆく。

明人「ああわぁああ…!!!!!」

扉の閉まる音「パタン」

ト書き(現実に戻された明人を見ながら)

苗華「だから開けるなって言っといたのに。結局、明人は成功した人生から現実に引き戻された。自分で引き戻ったのよ。裕子との結婚はもう無い。宝くじで当たったお金も消えた。会社は文字通りにリストラされて、借金は残り、今後の彼の人生はお先真っ暗…かもしれない」

苗華「また地面を見ながらうつむいて歩いているわね、明人。私は明人の夢と欲望から生まれた生霊。その夢のほうだけを叶えてあげたかったけど、彼の欲望がその夢を消してしまった」

苗華「あのカクテル『Unopened Door』はね、開かずの扉の向こうの世界…つまり明人から見れば理想の世界へ誘(いざな)うための架け橋だったの。飲んだ瞬間から夢を見て、その夢が彼にとっては現実のものに成っていたのに」

苗華「思えばアダムとエバの世界でも、あの中央の木から取って食べるなと言われたら、それを取って食べる衝動が生まれ、2人はその通りにしてしまった。たった1つの約束すら守れない人間。そんなもろい生き物がずっと自分の夢を持続しようなんて、どだい、そっちのほうに無理があるのかも」

苗華「一瞬の夢を見ただけで終わっちゃったわね。…開かずの扉なんてただのキッカケ。1つの約束事・ルールを守れなかったあなたの心の中に、悔い改めなきゃならない罪があったの。得てして『エバは蛇に誘惑された』なんて在るけど、あの蛇は、エバとアダムの心の中に居たのかも」

ト書き(現実での明人の部屋で)

俺はあれから何度も開かずの扉を開けた。苗華に言われていたあの開かずの扉。

明人「またあの世界へ俺を連れて行ってくれ!!頼む!」

何度も何度も開けては閉め、開けては閉め、あの世界に戻れないか、それだけを考えていた。
今日も部屋を出る前、30回から40回、いやもしかすると100回近く開けていたかもしれない。
開ける、閉める、開ける、閉める。

でも、棚の中には何にも無い。光も無ければ蛇も無い。蛇は当たり前だが、いつか必ずこの棚の暗闇から光が差し込んでこないかと、俺は今でも期待している。

あの扉を…開かずの扉を開けたい…どうしても開けたい!!

(就活帰り)

そんなある日、また就活から戻ってみると、部屋のテーブルの上に封筒が置いてあった。茶封筒。中には…

明人「…なんだこの封筒…え、ええ!?な、なんだよこの大金…」

200万円入っていた。

(明人の実家を外から眺めながら)

苗華「そのお金はあなたにあげる。使い方次第で、生活を挽回できるかも。最後の人生の軍資金。出来るだけ、人生を挽回してみなさい」

動画はこちら(^^♪
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