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【オリジナル小説】金の麦、銀の月

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【金曜日更新】オリジナル小説「金の麦、銀の月」のまとめです。 地道に連載していく予定です。
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2021年8月の記事一覧

金の麦、銀の月(4)

金の麦、銀の月(4)

第三話 さりげない瞬間に

私の物語が世に出て二ヶ月。その間に、家族や友人、大学時代の先輩方など、多くの人から祝福のメッセージをもらった。大学時代の親友なんかは、私のデビューを自分のことの様に喜んだ様子で電話をくれた。

穂高の方にも共通の友人などから度々メッセージが送られてくるらしく、私たちの食卓には大学時代の思い出話に花が咲いた。

私が大学に入学した当時、穂高は演劇サークルで脚本担当兼役者を

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金の麦、銀の月(3)

金の麦、銀の月(3)


第二話 大きな流れの中で

このメールが届いてからの二ヶ月間は、本当に目まぐるしく時が過ぎていった。

メールが届いた次の日、出版者宛に「本を出版したい」と返事をすると驚くべき速さで返答があった。一週間後に、担当者と今後について話し合いましょうという内容だった。

私は次の日の仕事終わりに実家へ帰り、押し入れの奥に眠っていた文芸冊子を引っ張り出してきた。少し色あせた表紙をめくり、自分の作品を読み

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金の麦、銀の月(2)

金の麦、銀の月(2)


第一話 月が満ちる夜

穂高とラーメン屋に出かけた日から数日後の夜のことだった。晩御飯もお風呂も終わり、私は密かにネットサーフィンをしていた。穂高の誕生日が二ヶ月後に迫っていたからだ。

ブブッとスマホが震え、通知音と共に一件のメールが届いた。

ショップか何かの配信メールだろうと、私は無視しかけたが、通知欄を見てふと手が止まった。そのメールの宛先がずいぶん前に使っていたメアドだということに気づ

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