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【映画感想】「男はつらいよ 寅次郎紅の花 (1995)」満男と泉の話

寅さんシリーズの実質的な最終作で、及川泉が出演する最後の作品でもある「寅次郎紅の花」(1995)は前回に泉が登場した「男はつらいよ 寅次郎の青春」(1992)から3年が経過している。名古屋に住む泉が満男を訪ねて彼の勤務する会社にやって来るところから話が始まる。そして例によって満男の家に泊まり、夜ファミレスに一緒に行き実はお見合いで結婚するかもしれないと打ち明ける。

泉が旧家で医者の一族という好条件の男性とのお見合いを受け入れたのは、あのダメ母親の意志が大きく働いている。きちんとした家族もなく心理的安全な場所もない泉にとって、娘に依存して束縛する母親の意志には逆らえない。自分は誰からも必要とされていない、結局は母親に言われるままに生きるしかないと思ったのだろうか。

泉がわざわざ名古屋から満男に会いに来てお見合いの話をしたのは何らかの言葉で止めて欲しいと思ったからではないだろうか。だから「結婚しようと思うの」と言って決断前であることを示唆していた。泉が大好きなはずである満男が「やめろよ、結婚なんか。俺がいるじゃないか」とかの言葉で止めれば泉は喜んでやめていたはずである。しかし自分に自信がなくヘタレの満男はそんな勇気もなく、笑ってごまかして「いいんじゃないの」のようなことを言ってしまう。満男が止めてくれるほど自分に好意を持っているわけではないと感じた泉は深く失望して名古屋に戻ることにする。その際、桜の言った「ダメね、あの子は」という言葉はまさしくその時はその通りである。

しかし満男は行動を起こす。結婚式の行われる津山まで行き、レンタカーを借りて車の花嫁行列の行く道を妨害して泉に「結婚するな」と叫ぶ。いつも受け身で大好きな泉にはっきりとした意思表示もできなかったヘタレの満男が初めて強い意思表示を示した場面で個人的にはすごく感動した。(やっぱり男はこうでなくちゃと言う感じ)

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満男のやり方は確かに無様で不器用だけれども、その時泉は白馬に乗った王子様が来たのではないかと思ったのではないだろうか。満男は自分のことを本当に好きだからこそ行動を起こして結婚式をやめさせようとしてくれた(実際中止になった)。その後泉は見合いを続行する気はなくなり、ダメ母親を振り切って満男の口から直にその気持ちを確かめるためにすぐに満男を探して会いに行くことに決める。

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海岸で満男に再会して大声で問い詰めるのは、無論彼を非難するためではなく満男の口からその気持ちを聞きたかったから。好きな満男の口から愛しているという言葉を聞いて泉が顔を輝かせる場面はすごく感動的。リリーさんの言うとおり、やはり女の子は言葉できちんと表現して欲しいのである。

山田監督は若者も含めた人情の機微が理解できる本当に素晴らしい映画監督であると改めて思った。満男が半ば主役となった7作品(そのうち特に及川泉がマドンナの5作品)はダメなあの頃の自分を彷彿とさせてくれる大好きな映画である。

(2021年3月10日)

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