シェア
チおびたQ
2020年4月16日 04:52
時々、耳を塞ぐ。冷え切った手で両耳を覆えば、ごごごごご、と血潮が忙しなく走る音がする。海底から全てを攫う津波のような音。あぁ、彼は此れを海の音だと言ったのか。この轟を生きる音だと。「ざああ」と形容したのか。故郷の海とはまるで違う潮鳴りに、彼との距離は永遠に遠いのだと思い知らされる。結局私は、彼を知った気になっているだけなのだ。誰とも結びつかず寂寞した彼の過去を、遠くから追想することしかできない。