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だれかのことを強く思ってみたかった

角田光代 だれかのことを強く思ってみたかった

「東京」という風景から見えてくる、
封印していたはずの遠い記憶。

「私たちはどのくらいの強度でここに立っているのか」。16篇の短編小説と厳選された約100点の写真が織りなす「東京」をめぐるコラボレーション。なにげない日常風景、空虚な生活をたんたんと描写する小説との連続に、心の奥底にしまったはずの“記憶”が熱を帯びて甦ってくる。

とても大切にしている本が何冊かある。
この本はその中の一冊で、装丁も小説も写真も大好き。
私にとって東京という街はやっぱりどこか特別で、憧れであり夢であり孤独であり寂しさだった。
東京に住んだのはたった一年半だったけど、あの短くて濃い日々はいまだに特別で大切な記憶。

この本には些末な出来事が溢れているけど、そんな日々こそ美しい。
私の記憶であり、誰かの記憶でもある。
そんな本です。

この世界はどのくらいの強度でなりたっているんだろう?
私たちはどのくらいの強度でそこに立っているんだろう?
手をつないだまま走る二人の先で、空にはりついたような巨大な観覧車がゆっくり回転している。
すべては静止し、次の瞬間かろやかに消え去る。

P18

見たものより見なかったもの。
会えた人より会えなかった人。
口に出せたことより出せなかったこと。
食べたものより、食べることのかなわなかったもの。
関係をもった人よりもたなかった人。
いった場所よりいくのを断念した場所。
手に入れたものより、どうしても手に入らなかったもの。
それらは空白としてではなく、ある確固とした記憶として私のなかにある。

P226

私自身がいったい何を所有しているのかといえば、見たものではなくて見なかったものであったりする。
みず色の門の向こうの動物園。
ガラス屋根の水族館。
恋人ではなかった男。
すべて、私の、私だけのものとして、失うことが永遠にない。

P226

タイトルがまた印象的で、その時その時は強く確かなものだと思っていたけれど、私の人を想う気持ちなんぞ不確かで自分勝手で、誰かを強く思えたことなんてないのではと本を読むたびに自問自答します。

角田光代さんの文章は少し寂しくて美しい。
佐内正史さんの写真もとても良いので本当におすすめの本です。
あなたの記憶も探してみませんか?

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