デジタル銀行の整理と新興国での役割#1【アフリカや中南米の新潮流、新興市場でのチャレンジャーバンク成功要因を考察する】
こんにちはアンカバードファンドの佐々木です。私たちアンカバードファンドはアフリカのスタートアップ企業への投資を行うベンチャーキャピタルです。2010年代以降、世界各地でチャレンジャーバンクやネオバンクと言われるデジタル専業銀行の設立が相次いでいます。
私たちは今後、アフリカでもデジタル銀行が成長していくのではないか?と考え、世界中のチャレンジャーバンクに関するリサーチを行いました。これから全4回に分けて、リサーチ内容の一部をご紹介したいと思います。
1.チャレンジャーバンクとネオバンク
チャレンジャーバンクとは、自ら銀行免許を取得し、従来の銀行と同じサービス※を主にモバイルで提供する事業者のことです。FinTechの進展や規制緩和を受けて、2010年台以降、急速に拡大しています。
※口座への預金・出金、送金(振込)、デビットカード発行、融資など
「ネオバンク」と呼ばれるチャレンジャーバンクとよく似たビジネスモデルも存在します。ネオバンクは、モバイルアプリ上で銀行サービスを提供する点でチャレンジャーバンクとよく似ていますが、ネオバンクは銀行免許を取得せず、既存の銀行と提携してそのサービスを提供します。
また、既存の銀行との提携ではなく、電子マネー業者として口座を提供しているケースがありますが、この場合は「銀行口座」ではないため預金保険制度の保護対象外なので注意が必要です。
(例えば、多国籍展開するRevolutはEUでは銀行免許を取得していますが、日本では「資金移動業者」イギリスでは「電子マネー業者」であるため、預金保険の対象外となります。)
チャレンジャーバンクとネオバンクの定義は定まっておらず、伝統的な銀行の子会社を含む場合や含まない場合、銀行免許の有無を問わず一括りにネオバンクと総称するケースなど様々ですが、おおむね
・「モバイルベース」「銀行免許あり」→チャレンジャーバンク
・「モバイルベース」「銀行免許なし」→ネオバンク
とする場合が一般的なようです。ともに、リアルな支店を持たないことからひっくるめて「デジタルバンク」と呼ばれることもあります。
急速に成長するチャレンジャーバンク/ネオバンクは、伝統的な銀行がアプローチできなかった層を中心に順調にユーザー数を伸ばしています。スタートアップやもともと金融機関ではなかった企業の参入が相次いでおり、銀行業界の変革者ともいえる存在です。
ブラジルのNubankは、コロナ禍で人々が非対面を重視するようになった影響もありユーザー数が急増しています。2019年に1200万人だった顧客数を2020年度末までに3,300万、2021年6月までに4,000万まで伸ばしています。同社の発表によれば2021年の当初5か月間は1日あたり4万5,000人以上のペースで顧客を増やしており、勢いはとどまるところを知りません。
2.チャレンジャーバンクの強み
各チャレンジャーバンク/ネオバンクに共通する強みは以下の概ね以下の通りです。
・スマホ1つで短時間で口座開設が可能(ドイツのN26の場合は約8分)
・必要書類が少ない ※1
・基本的なサービスは無料 ※2
・スマホに最適化された優れたUIとUX
つまり、無料で、気軽に、簡単に使えるスマホベースの銀行です。
これらの強みがスマホネイティブな若年層や既存の銀行のサービスに不満のある人々を惹きつけています。
伝統的な銀行が誕生した時代はもちろんネットもスマホもなく、サービスは銀行支店で対面で行うことが当たり前でした。したがって、支店網を張り巡らし、人々の生活に近い場所にリアルな拠点を置いていることが重要でした。
一方、主に新興国では、銀行の支店数も少なく、自宅から銀行までの道のりも長い上についてからも大行列で待たされる…といったことが往々にしてあります。こうした事情から、口座開設の負担が大きすぎるため、あえて銀行口座を作らないという人々もいます。
また、先進国であっても、これまでは銀行口座を開設するには支店へ訪問し、窓口の順番待ちをしたうえで手続きを行うことが一般的でした。カードを受け取るまで数日から1週間程度かかることもあります。
その点、スマホ1つで即時口座開設可能で、すべてのサービスがスマホで利用出来るチャレンジャーバンクはとても使いやすいのです。
※1口座開設に必要な書類の例
イギリスで銀行口座を開設する場合を例にして、伝統的な銀行(ロイズの場合)とチャレンジャーバンク(Monzo)が必要とする書類の違いを比べてみました。
住所証明書類とは、”イギリスにおける住所”を証明する書類です。生来イギリスに住んでいる人であれば問題ないと思いますが、イギリスに来たばかりの移民や留学生にとってはすぐに用意することが難しい書類だと思います。
一方、イギリスで生活する以上、給与の受け取りや母国からの送金を受けたりするために銀行口座は必要ですよね。チャレンジャーバンクが登場する以前は、住所を証明することが可能な書類が整うまで、銀行を開設することは出来なかったのです。移民や出稼ぎ労働者、留学生の多いヨーロッパでは、住所を証明する書面が必要がないことも重要な点です。
※2銀行利用手数料
欧米の銀行では、口座を持つだけで「口座維持手数料」(Monthly Maintenance fee)と呼ばれる費用が生じる場合がありますが、チャレンジャーバンクやネオバンクは、基本的な利用料金はほとんど無料です。
3.アンバンクドな人々を包摂
また、日本では珍しいですが、銀行が近所になかったり、所得が低すぎる等様々な事情でそもそも銀行口座を持っていない人々(Unbanked)が新興国を中心に多数存在しています。
チャレンジャーバンクはこうした人々にもリーチしています。
たとえばブラジルのNubank利用者の20%は、もともと銀行口座やクレジットカードを所有していなかった人々だそうです。ブラジルでは15歳以上の人口の30%がUnbankedですが、Nubankは彼らを包摂しようとしているのです。
新興国のUnbankedな人々でも、実はスマートフォンや携帯電話を持っている人は多いため、新興国にもデジタル金融が波及する土壌があるのです。むしろ、既存の金融機関が不十分であるからこそ大きく飛躍する可能性があります。
たとえば、ブラジルNubankのユーザー数は約4,000万、一方で先進国を中心に展開するRevolutは1,500万、アメリカのChimeは1,200万です。既存の金融機関が浸透している成熟マーケットよりも不十分な新興国でこそ、チャレンジャーバンクは伸びるのではないか?私たちはそう考えています。
私たちアンカバードファンドの投資先であるアフリカ各国も、Nubankのブラジルと同様にUnbankedな人々が多く、銀行支店数はブラジルよりもはるかに少ない状況です(下表参照)。
金融機関口座保有率56%(2017年)のケニアでは銀行口座を持たないがスマートフォンを持つ人々がこぞってM-PESAと呼ばれるモバイルマネーを利用(ユーザー数4,800万)するようになりましたが、チャレンジャーバンクはアフリカで同様、またはそれ以上の成長を遂げるかもしれません。
4.まとめ
スマホさえ持っていれば誰でも無料で気軽に作れて、使ってみると優れたユーザーエクスペリエンスでますます使いたくなるモバイル銀行、それがチャレンジャーバンクです。
ではチャレンジャーバンクはどのようにして収益を上げているのでしょうか?
基本的には、無料のサービスで顧客を集め、クレジットカードの取引手数料(ユーザーは無料で店舗が負担します。)や有料のプレミアムプラン、融資した際の金利などで収益を上げる「フリーミアム」型のビジネスモデルを構築しています。
もちろん、チャレンジャーバンクごとに主なターゲットやビジネスモデルは異なっています。代表的なチャレンジャーバンクのビジネスモデルについては第4回で共有したいと思います。
いかがでしたでしょうか?お金は人の暮らしに欠かせないものです。私たちはアフリカをはじめとする新興国の人々がさらに豊かになっていくためにもチャレンジャーバンクの様な誰でも気軽に使える金融サービスが大きな役割を果たしていくことを期待をしています。第2回と第3回では、チャレンジャーバンクが急増した背景について共有します。
シリーズ 【デジタル金融包括】アフリカや中南米の新潮流、新興市場でのチャレンジャーバンク成功要因を考察する
■#1 デジタル銀行の整理と新興国での役割
■#2 チャレンジャーバンク急増の背景(ヨーロッパ・アメリカ編)
■#3 チャレンジャーバンク急増の背景(インド/南米/アフリカ編)
■#4 世界各国チャレンジャーバンクの戦略を外観
■#5 アフリカにおける代表的チャレンジャーバンクと注目のスタートアップ
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UNCOVERED FUNDはアフリカ大陸はじめ新興国の産業創りをリードするベンチャーキャピタルです。2050年に向けて新興国の人口増加と経済成長はここから急加速し、世界経済の中で重要な役割を担っていくことは間違いありません。特にその中でもラストフロンティアと呼ばれるアフリカ大陸は、2050年には世界人口の25%を占める25億人の巨大市場になります。その成長を牽引する最先端のデジタル技術を活用し、既存の枠組みに捉われることなく産業・社会基盤を一から構築していく新興国には、 日本が学ぶべきイノベーションの発想が多く存在します。UNCOVERED FUNDは、まだ十分な起業家支援が行き届いていない『アンカバード(un covered)』な世界で 未開の才能を発掘し、事業を作り、雇用を生み出し、世界100億人が共存する未来へ大きな価値を共創します。
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