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アフリカにおける代表的チャレンジャーバンクと注目のスタートアップ#5 【アフリカや中南米の新潮流、新興市場でのチャレンジャーバンク成功要因を考察する】

本稿は新興国の産業創りをリードするベンチャーキャピタル、UNCOVERED FUND(アンカバードファンド)が投資先発掘・検討のために行ったリサーチ結果の一部をご紹介するチャレンジャーバンク考察シリーズの第5回です。
前回は今回は世界各地の代表的なチャレンジャーバンクについてご紹介し、収益構造について簡単にご説明しましした。今回は私たちアンカバードファンドがフォーカスするアフリカにおける代表的なチャレンジャーバンクをご紹介し、アフリカの今後について考察します。

前回までの記事はこちら
シリーズ 【デジタル金融包括】アフリカや中南米の新潮流、新興市場でのチャレンジャーバンク成功要因を考察する
■#1 デジタル銀行の整理と新興国での役割
■#2 チャレンジャーバンク急増の背景(ヨーロッパ・アメリカ編)
■#3 チャレンジャーバンク急増の背景(インド/南米/アフリカ編)
■#4 世界各国チャレンジャーバンクの戦略を外観

◆アフリカの代表的なチャレンジャーバンク

1.Kuda bank(ナイジェリア)

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ナイジェリアはアフリカの他国に比べると銀行口座保有率が高いのですが、それでも銀行口座を持つのは成人の約40%に過ぎず、口座を持たない成人が約6,000万人いると言われています。近年では、デジタルバンクの設立が相次いでおり、そのうち最大規模の顧客数を持ち、急成長を遂げているのが2018年創業のKudaです。
Kudaは2019年11月に創業したばかりですが、2021年8月に5,500万ドルをシリーズBで調達(Prevaluationは5億ドル)、個人と企業を合わせて140万以上の顧客を保有(2021年8月時点)しています。2021年3月時点では65万だったところから、急激な成長を遂げています。取引量も順調に増えており、2020年11月の単月取引量は5億ドルでしたが、2021年2月には22億ドルであったと発表しています。

主なサービスは、デビットカードの発行、送金、貯蓄、財務管理で他の地域のデジタルバンクと同様です。なお、ローンの開始も予定しています。
やはり、他と同様にアカウント開設、デビットカード利用、送金(月間25回まで)は無料で、カード利用手数料やairtimeの購入手数料から収益を得ています。

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出典:Kuda

Kudaは「マイクロファイナンス銀行」と呼ばれるライセンスで営業しており、基本的なサービスは自社で賄っていますが、リアルな支店を持たないため、Guaranty Trust Bank(GTB)、Access Bank、ZenithBankと提携し、これらの銀行を介して現金を引き出すことを出来るようにしています。また、Kudaの口座への入金は、Kudaアプリ上でこれらのパートナー銀行の口座から送金する仕組みです。(ほかに、クレジットカードからの入金や送金受け取りも可能です。)

ナイジェリアでも、企業に雇用される人の多くは、銀行の給与口座で賃金を受け取ります。CEOのOgundeyiによれば、Kudaへの入金のほとんどは、この給与口座からの預け入れによるものとのことです。彼らがあえて従来銀行の給与口座からKudaへと預金を移動させるのは、Kudaが提供するモバイルチャージの購入や請求書への支払い、貯蓄と家計管理の機能などが魅力となっているからだそうです。

Ogundeyiは将来的には、アフリカ全土へ拡大し、アフリカ外に住むアフリカ人が海外でも利用できるようにしたいと考えています。

2.Carbon

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Carbonは2012年にモバイルローンサービス事業者として創業しました。2021年にマイクロファイナンス銀行のライセンスを取得し、チャレンジャーバンクとなりました。直近ではiOSアプリのリリース、ソーシャルチャット機能を導入したほか、Buy Now Pay Later(BNPL)にも参入するなど、新たなサービスを相次いで始めています。

■USSDバンキング

加えて、Carbonは低所得の顧客を対象とした新しいUSSDバンキングも導入しました。USSD (Unstructured Supplementary Service Data)とは、日本ではなじみがありませんが、他の国では広く使われているSMSに似たサービスです。低スペックの端末や、インターネットがつながらない環境でも、単純なメッセージなどを送受信できるサービスです。CarbonはUSSDを利用して、ウォレットへの入金、airtimeの購入や送金を可能にしました。

ナイジェリアでは地方部を中心にネット回線がカバーされていなかったり、品質が不十分であるほか、低所得者層は低スペックのスマートフォンしか保有していないので、アプリの利用等インターネット通信が必要なサービスを十分に利用することが出来ません。通信量が多いと利用料金にも跳ね返ります。
一方、USSDであれば、携帯電話さえつながればスペックや通信環境を問わず利用できるため、アプリベースのサービスよりも更に広いユーザーにリーチすることが可能です。

3.TymeBank(南アフリカ)

南アフリカのTymeBankは2012年に国のデジタル送金サービスとしてローンチしました。2017年に銀行ライセンスを取得し、チャレンジャーバンクとなりました。2021年8月現在のユーザー数350万人で、南アフリカでは最大の顧客数を抱えています。

■海外へも展開するデジタル+アナログのハイブリッドモデル

Tymebankで特徴的なのはデジタルとアナログのハイブリッドモデルを採用している点です。

TymeBankの口座開設はオンラインに加えて、スーパーマーケットチェーンのPick 'n PayストアとディスカウントストアのBoxerストアに設置されたTymeBankキオスクというATMの様な端末で行うことが可能です。TymeBankキオスクは南アフリカ全国に1,400器を配備。TymeBankアカウントの実に85%がキオスクで開設されています。
さらにキオスクにはアンバサダー(サービスアシスタント)が常駐しており、サポートを受けることが可能です。
加えて、TymePayというサービスにより提携する1,400以上の小売店で現金引き出しが可能であり、TymeBankキオスクとTymePayの2本立てでリアルなサービス提供ポイントを構築しています。

まとめると以下の通りです。
・従来型の銀行支店をATM的な端末で自動化
・アンバサダーを常駐させることでサービス品質を向上
・人流の多いスーパーマーケットの敷地を借りることで、ユーザー獲得のための広告効果と利便性を獲得
・小売店と提携し、全国的な利便性を実現

TymeBankキオスク端末

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出典:TymeBank

CEOのKeraanは、すべての南アフリカ人が利用しやすいようにデジタルバンキングを再考した結果、このモデルを構築したといいます。

また、このキオスクによる口座開設の仕組がヒットし、2017年にインドネシア、ニュージーランドにも「TymeKiosk」として進出。銀行としてではなく、現地の銀行の口座開設サービスを引き受けるインフラとして、インドネシアでは150、ニュージーランドに130のTymeKioskが配備されており、顧客数の増加に寄与しています。加えて、2021年にはフィリピンでデジタルバンクライセンスを申請。ついに銀行業として東南アジアへの進出を図ろうとしています。

銀行インフラの未発達なアフリカで誕生したTymeBankは金融包摂を高め、デジタルデバイドも乗り越えています。その優れた方法論は他の地域でも脚光を浴びつつあるのです。

◆注目のチャレンジャーバンク、モバイルマネー(ナイジェリア編)

現状では上記でご紹介したナイジェリアのKudabank(140万人)、Carbon(200万人)、南アフリカのTymeBank(300万人)が比較的多くのユーザーを獲得しているチャレンジャーバンクです。
アフリカでは、これらの以外にも多数のデジタルバンクが出現していますが、アフリカのキャパシティを考えるとまだまだ獲得ユーザー数は少数です。
アフリカ各国はアンバンクドが多い一方で、少し前のブラジルのようにモバイルインターネットが利用出来る人々は急増しており、今後のチャレンジャーバンクの飛躍が期待できるフィールドです。むしろ、既存銀行のインフラがもっとも不十分な地域であり、私たちはチャレンジャーバンクが最も伸びうる地域と考えています。

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ナイジェリアのチャレンジャーバンク、CarbonのCEO Chijioke Dozie
の言葉は、そのような状況を象徴しています。

“I think that people don’t require banks but they require banking services”
「人々は銀行は求めていないが、銀行サービスは求めている」

出典:Carbon Youtubeチャンネル

アフリカの人々は、未発達な銀行インフラに期待はしていませんが、銀行サービスは必要だと感じているのです。これがCarbonのOpportunityなのです。つまり、手軽に使えるインフラで銀行サービスを提供すれば普及する土壌があるということです。

最後に、今後のリープフロッグへの期待も込めて、私たちアンカバードファンドが注目するスタートアップを簡単にご紹介します。

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都市部では先にご紹介したKudaやCarbonのようなチャレンジャーバンクが活躍し、地方部では「エージェントバンキング」を武器にPagaやOpayといったモバイルマネー事業者が金融包摂を広げています。

1.Opay

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Opayは2018年創業のモバイルマネー事業者です。サービス内容自体はデジタルバンクに近く、貯蓄、送金、請求書の支払、店舗での決済などが可能です。Carbonと同様にUSSDによるオフライン取引も可能です。
Opayの特徴は「エージェントバンキング」という仕組を採用していることです。エージェントバンキングとは、金融機関に代わり、エージェント(代理店)が顧客に金融サービスを提供する仕組で、金融機関が存在しない、進出が難しい地方部で金融包摂を進める仕組の一つです。

地域の小売店や住民をエージェントとして登録し、エージェントを通じて口座の開設や入金、現金引き出しなどの手続きが可能です。基本的にはデジタルバンクや他のモバイルマネーと同様にスマホ上でお金の管理や決済が出来るのですが、その入り口としてエージェントがいるのです。

Kudaが提携する銀行やクレジットカードから入金する先進国のチャレンジャーバンクと同様の仕組みであり、基本的には既に銀行口座を持っているか銀行支店へのアクセスが可能な人が主な対象であるのに対し、Opay等のエージェントバンキングは、銀行口座を持っていない人でも、僻地などで銀行支店に行きづらい人であっても現金さえ持っていればエージェントを通じて入金することが出来ます。

OpayはOpay Marchantと呼ばれる加盟店で利用が可能です。店舗はPos端末を導入することで、Opay決済が利用可能となります。Opayは希望する小売店等へ無料でPos端末を配布することで急速に加盟店を拡大。同時にOpayアプリで加盟店向けサービスも提供することで、さらにOpay経済圏を拡大しています。

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なお、Opayは2020年にエジプトへ進出。2021年8月にソフトバンクビジョンファンド2がリードする4億ドルの新規資金調達を行い、時価総額20億ドルと評価されるなど、注目のFintechの一つです。

2.Paga

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PagaもOpayと同様にエージェントバンキングによるモバイルマネー事業者です。1,700万ユーザーを獲得、2020年には23億ドル相当のトランザクション(取引)を処理しておりOpayを凌ぐ規模を有します。今後エチオピア、メキシコへ進出する計画です。

また約2万7千人のエージェントを有しており、エージェント拡大に積極的です。地方の人々を積極的の採用することで、雇用を生み出し、同時の金融包摂を進めます。特に女性のステータスアップに積極的で、エージェントの30%が女性です。加えて、Paga Girl Child Scholarshipという女学生向けの奨学金制度も始めました。企業としても従業員の約半数が女性、役員の60%が女性です。

3.Brass

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Brassは中小企業向けのデジタルバンキングサービスです。ナイジェリアの中小企業を悩ませる既存銀行の高額な手数料や非効率ともいえるサービスレベルを解消します。
わずか10分でアカウントを作成可能で、取引手数料や口座維持手数料は一切かからず、基本料金は無料です。既存の銀行が提供していない、資産管理ツールを提供することで人気を博しています。2020年に創業したばかりですが、既に2,000以上の企業が利用しています。

完全中小企業向けのチャレンジャーバンクはまだ少数ですが、経済成長をけん引する中小企業向けサービスの発展が期待されます。

4.Seampay

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SeamPayは2021年8月にローンチしたばかりのスタートアップです。特徴は主要な現地語に完全対応していることです。
ナイジェリアは英語が公用語ですが、ローカルな現地語も話されています。主にハウサ語、ラボ語、ヨルバ語の3つがありますが、地方農村部などでは公教育が行き届いておらず、これら現地語しか話せない、読めない人口が少なくない数で存在しています。
これまで登場してきたチャレンジャーバンクやその他のFintechのほとんどは公用語である英語ベースのサービスであり、英語の分からないローカルな低所得者層は利用することが困難でした。SeamPayは主要現地語に対応することで、彼らをも包摂しようと考えているそうです。

おわりに

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。これでチャレンジャーバンク考察シリーズは一旦終了です。

次回は、アフリカにおけるレンディング(ローン)事業についてご紹介したいと思います。実はアフリカでは何らかの形で「レンディング」を提供しているスタートアップが相当数存在ます。日本では聞いたこともないような形でレンディングを行っているスタートアップもいるので、興味深い分野です。お楽しみに!


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■#3 チャレンジャーバンク急増の背景(インド/南米/アフリカ編)
■#4 世界各国チャレンジャーバンクの戦略を外観
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UNCOVERED FUNDについて
UNCOVERED FUNDはアフリカ大陸はじめ新興国の産業創りをリードするベンチャーキャピタルです。2050年に向けて新興国の人口増加と経済成長はここから急加速し、世界経済の中で重要な役割を担っていくことは間違いありません。特にその中でもラストフロンティアと呼ばれるアフリカ大陸は、2050年には世界人口の25%を占める25億人の巨大市場になります。その成長を牽引する最先端のデジタル技術を活用し、既存の枠組みに捉われることなく産業・社会基盤を一から構築していく新興国には、 日本が学ぶべきイノベーションの発想が多く存在します。UNCOVERED FUNDは、まだ十分な起業家支援が行き届いていない『アンカバード(un covered)』な世界で 未開の才能を発掘し、事業を作り、雇用を生み出し、世界100億人が共存する未来へ大きな価値を共創します。
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