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【小説】ヴァルキーザ(ルビ付き版)

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小説『ヴァルキーザ』本文にルビを振った版のマガジンです。(本文の内容を少し改変しています)
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2022年7月の記事一覧

小説『ヴァルキーザ』 19章(3)

小説『ヴァルキーザ』 19章(3)

だが、それから難が生じた。マーガスの宮廷の、王に仕える宮臣たちの多くが、平和条約の締結に反対したのだ。

「ハルツ、コーラット、シムティ、マノン、それにカンターとシャレムまで…お前たちは皆、条約の締結に反対なのか?」

タイモス王は目を瞠った。

「陛下、おそれながら、この6人の使者たちのことは、風体などからして、私どもは信用致しかねます。たとえ親書が紛い物でないものとしても、その親書を届けるのに

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小説『ヴァルキーザ』 19章(2)

小説『ヴァルキーザ』 19章(2)

マーガス国の都アルカンバーグは正門に三日月の紋章を掲げ、宮殿を取り囲む外壁と、ドーム状の屋根を持つ寺院と、幾つかの円柱形の塔および王宮などの建物からなる巨大な城市だった。

そして都は至る所に整然とした、幾何学的な模様の装飾が施され、静かな威容を誇っていた。

マシャールという名の門番(ゲートキーパー)から名前と用件を問いただされたグラファーンたちは、自らの名前と、イリスタリア国から平和のための外

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小説『ヴァルキーザ』 19章(1)

小説『ヴァルキーザ』 19章(1)

19. アルカンバーグ

ユニオン・シップ団の冒険者たちは、マルナー氏の渡し舟に乗ってラフルーン河を渡り、対岸のマーガス国の領域に入った。そして冒険者たちは、しばらくの間、歩いた。

歩いていくうちに、行く手の道を8つの人影が塞いだ。黒い甲冑に身を包む、黒騎士たちだ。

「マーガスの人か、私たちは…」
グラファーンが話しかけると、それを遮るように黒騎士の一人が言い放った。

「我が名はロデック。エ

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小説『ヴァルキーザ』 18章(3)

小説『ヴァルキーザ』 18章(3)

ティムロトと別れて、ユニオン・シップ団は、森の小径をさらに奥へと進んだ。やがて森の出口が見えてくると、皆は先に出会った妖精リルムの言っていたことを思い出した。

案の定、一人の、また別の妖精が現れた。妖精は蝶のように小さく、紺色の服を着た黒髪の男性の姿だった。

おそらく、これが、バジャックだ。

彼は冒険者たちに、魔法で悪戯をしかけてきた。身体を強くくすぐられるような感覚が走る。しかし冒険者たち

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小説『ヴァルキーザ』 18章(2)

小説『ヴァルキーザ』 18章(2)

その後、森の小径で一団は、灰色の斑の狼たちに遭遇した。

狼が吠えかかってきたため、これを斬ったところ、木立の間のどこからともなく人の声が聞こえ、灰色のローブをまとった白く長いあごひげの老人が現れた。

「我が名はティムロト。侵入者ども、我が使いを殺した仇を取ってやる!」
ティムロトは怒りに震えていた。

アム=ガルンが弁解しようとしたが功を奏さず、ティムロトは、自ら率いていた8匹の灰色の狼をけし

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小説『ヴァルキーザ』 18章(1)

小説『ヴァルキーザ』 18章(1)

18. パルマの森グラファーンたち冒険者は、ある美しい森に行き着いた。木々が少し高く立ち並び、清澄な雰囲気だ。

ここはまるで、妖精の棲んでいそうな幻想的な森だ。霧雨の降るこの木立ちをみて、グラファーンは、故郷のマイオープを思い出した。

「これが、パルマの森でしょう」
アム=ガルンが感嘆する。

ラフィアは地図を見ながら、アムの言うことを裏付けるように頷く。

森の空気に癒されながら、一団は森の

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