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小説『ヴァルキーザ』 18章(1)


18. パルマの森

グラファーンたち冒険者は、ある美しい森に行き着いた。木々が少し高く立ち並び、清澄せいちょう雰囲気ふんいきだ。

ここはまるで、妖精フェアリーんでいそうな幻想的な森だ。霧雨きりさめの降るこの木立ちをみて、グラファーンは、故郷ふるさとのマイオープを思い出した。

「これが、パルマの森でしょう」
アム=ガルンが感嘆かんたんする。

ラフィアは地図を見ながら、アムの言うことを裏付けるようにうなずく。

森の空気にいやされながら、一団は森の中を散策さんさくした。歩いているうちに、小さな泉が見えてきた。
「ああ、水だ」
エルハンストが近寄っていく。

すると、彼の目の前をちょうのようなものが横切った。よく見ると、それは一人の、背に羽根のついた女性の小人…フェアリーだった。

グラファーンが共通語で話しかけたが、通じる様子がなく、女性が警戒けいかいしたので、今度はゼラが妖精語で彼女に話しかけた。
「こんにちは、どうか、驚かないで下さい」
すると、今度は通じた様だ。

妖精が質問してきた。
「あなたたちは誰?」

「私はゼラ。私たちは、通りがかりの旅の者です。途中、この森に辿たどり着いたの」
ゼラが答える。

「そう。私はリルム。この森に古くから棲んでいるのよ」

「そうなの。リルム、ここは『パルマの森』なのかしら?」

「ええ、平原人スークたちの間では、そう呼ばれてますわね」
リルムは、やや打ちけた様子になった。

「ありがとう。ここの清水を飲んでもいいかしら?」

リルムは微笑んだ。
「どうぞ、飲んでごらんなさい」

そこで冒険者たちがめいめいに泉の水を飲むと、それは実に良い質の水だった。
「本当においしい水ね」
ゼラが感心する。

するとリルムは、
「よかったわね。私も嬉しいわ。普段は話し相手がいないんですもの。こんなに沢山たくさんの人と会うのは本当にめずらしいの。うちの森にも一応、ティムロトやバジャックがいるんだけどもね。わたし、ティムロトはともかく、バジャックとは話したくないわ」

「ティムロトとバジャックって、どんな人なの?」

「ティムロトは森の呪術師よ。スークだけど、不思議な術を使うの。彼はいろんな事ができるから、怒らせない方がいいわね」

「バジャックはどう?」

「バジャックは妖精よ。意地の悪いやつなの。いたずらをしてくるから気をつけてね」
そしてリルムは、
「もうね、これでいいわね」

ゼラは、リルムが話し好きそうに見えたとしても、妖精たちはおしなべて短気なため、あまり根掘り葉掘り話を聞かない方がいいと知っていたので、ここで会話を切り上げた。

リルムに別れの挨拶あいさつをすると、冒険者たちは、森の奥の方へ歩いて行った。

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