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小説『ヴァルキーザ』 18章(3)

ティムロトと別れて、ユニオン・シップ団は、森の小径こみちをさらに奥へと進んだ。やがて森の出口が見えてくると、皆は先に出会った妖精ようせいリルムの言っていたことを思い出した。

案の定、一人の、また別の妖精が現れた。妖精はちょうのように小さく、紺色こんいろの服を着た黒髪の男性の姿だった。

おそらく、これが、バジャックだ。

彼は冒険者たちに、魔法で悪戯いたずらをしかけてきた。身体を強くくすぐられるような感覚が走る。しかし冒険者たちは、リルムに教わり、想定していたことだったので、全然バジャックの悪戯にあわてなかった。表情ひとつすら変えなかった。

そんな反応にバジャックは驚いた様子で、ぽかんとする。すかさずゼラが、催眠ヒプノシスの呪文をかける。彼はすんなりと眠った。

イオリィが自分が持っていた小さなかごをバックパックから取り出し、バジャックをそっとつかまえ、その籠の中に入れ、閉じこめた。

バジャックはやがて目が覚め、キーキー言いながら、籠の中で暴れ回った。が、ふたがしっかり閉まっていて、籠の中から出られないことを知ると、

「わかった、わかったよ! おいらがいけなかった!」と観念した。

バジャックはリルムより利口りこうで、共通語を話せた。

エルハンストが何か質問しようとしたが、妖精バジャックは、彼の威容いようふるえ上がって歯をカタカタ鳴らしちぢこまってしまう。

そこでイオリィが優しい声で、
「なにもしないから、安心して」
と話しかけると、妖精はほっとしたのか、自分から色々なことをしゃべりだした。

彼の話のなかでユニオン・シップの一団の役に立ったのは、森を出た後の路(ルート)のことだった。森を出て西へ半日ほど歩くと、ラフルーン河という名の大河に行き着き、岸に、マルナーという名の河の渡し守が舟をつけているという。

舟で河を渡ると、別の国(おそらくマーガス国だろう)へ着くそうだ。

一団はバジャックを解放してやると、彼に礼を言い、パルマの森を出て、ラフルーン河へ向かって行った。

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