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小説『ヴァルキーザ』 19章(2)

マーガス国の都アルカンバーグは正門に三日月の紋章もんしょうを掲げ、宮殿を取り囲む外壁がいへきと、ドーム状の屋根を持つ寺院と、いくつかの円柱形の塔および王宮などの建物からなる巨大な城市だった。

そして都は至る所に整然せいぜんとした、幾何学的きかがくてき模様もよう装飾そうしょくが施され、静かな威容いようを誇っていた。

マシャールという名の門番(ゲートキーパー)から名前と用件を問いただされたグラファーンたちは、自らの名前と、イリスタリア国から平和のための外交使節がいこうしせつとして親書しんしょたずさえて来たむねを伝えた。

使節長のアム=ガルンと先方の取次との間に幾つかの言葉のやり取りがあり、しかるべき手続きを経たのち、晴れてユニオン・シップの一団は、マーガスの国王タイモスに謁見えっけんすることを許された。

王宮の中の王の部屋に通されると、眼の前の王座に、礼服を身にまとった一人の浅黒い肌の大男が座っていた。

タイモス王だ。

「マーガス国の王タイモス陛下、ここにつつしんで…」
アム=ガルンは跪拝きはいして儀礼の口上こうじょうを始めたが、その言葉が終わらないうちに、

「よくぞ参られました、イリスタリアの客人よ。もう構いません、どうか顔を上げてください」
ゆったりと、タイモス王が声を響かせる。

アム=ガルンは顔を上げた。

王は、顔つきのいかめしい方だったが、やさしげに目を細めて、あごひげに手をやりながらおおせられた。

「ここでは、堅苦かたくるしいお辞儀じぎは不要です。あなた方の本当に言いたいことを言って下されば、その方がよほど礼にかなっているのです」

それに答えてアム=ガルンは、
「私めの口上すべきは、親書にあります通り、イリスタリアの王エルタンファレスが貴国きこくとの平和を保ちたいと願っているという事でございます」

「なるほど。貴国の親書は拝見はいけんしました。私も、同意見です」
タイモス王は仰った。

「案じなさることはありません。私も、貴国にこうをするの意志は全く持っておりません。あなた方が心配されている、国境での過去の事案については、現場の連絡れんらくの手違いから生じたもので、私がじかに命じたことではありません」

そして、タイモス王は述べられた。
「大いなるエルタンファレス王の御家おんけが今より後も代々、貴イリスタリア国に君臨くんりんされることを確認するの光栄にあずかるよろこびを、われタイモスはマーガス国国王家を代表して申し上げます」

タイモス王はまた、イリスタリア国との平和条約を結ぶことについても、前向きな意志をお示しになった。


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