小説『ヴァルキーザ』 18章(2)
その後、森の小径で一団は、灰色の斑の狼たちに遭遇した。
狼が吠えかかってきたため、これを斬ったところ、木立の間のどこからともなく人の声が聞こえ、灰色のローブをまとった白く長いあごひげの老人が現れた。
「我が名はティムロト。侵入者ども、我が使いを殺した仇を取ってやる!」
ティムロトは怒りに震えていた。
アム=ガルンが弁解しようとしたが功を奏さず、ティムロトは、自ら率いていた8匹の灰色の狼をけしかけてきた。
彼のかけ声によって飛びかかってきた8匹の狼を一団が退治しているうちに、ティムロトは呪文を唱え、「それ」を完成させた。
彼がローブの袖の中から取り出した若木の小枝を地面に放り投げると、それは瞬く間に巨大な神像のようなものとなった。
その全身木製の巨漢は、頑強な体を自ら操り、グラファーンたちに襲いかかってきた。
巨像は丸太のように太い腕と拳で、まず手前にいたイオリィに殴りかかってくる。
そのときイオリィは、まといつく最後の狼を蹴り飛ばしていたが、素早く反応して巨像の攻撃から身をかわす。
「自動巨像(ゴレム)です! 気をつけて!」
ゼラが仲間の皆に向かって叫ぶ。
グラファーンが剣で、ゴレムと呼ばれた巨像に斬りかかり、傷を負わせた。だが、あっという間にその傷は塞がり、なくなってしまった。
頭に小さな芽のついた枝を数本生やしている木の巨漢ゴレムは、体を揺するように動かしている。
「ゼラ、今のは?」
グラファーンが素早く、女魔導士のゼラに問う。
「再生の力を持っているのです」
「なるほど、ハイドロワームと同じか!」
グラファーンは今のがちょうど、木が幹を傷つけられたときに自らの組織を成長させてその傷を塞ぐのと同じだと気づいた。
そのやり取りを脇で聞いていたエルハンストは、
「よし、では!」
と、持っていた大剣を両手斧に持ち替え、自動巨像に打ちかかった。
木を切るのに適した大斧の強い一撃で、ゴレムの片腕は、肘の先からが飛んでいった。だがそれも瞬時に、肘の切り口から新しい木の手が生えて、回復した。
エルハンストは驚いて呆然となる。
「なんて強い再生力だ!」
ゴレムは両眼を光らせ、巨体を震わせ、反撃に、ラフィアに手刀を見舞った。
ラフィアは回避し損じて大けがを負った。
しかし、こちらもアム=ガルンがすぐに、「治癒」の魔法でラフィアの傷を癒した。
ゼラはこの間に、すぐに知恵をめぐらせ、ゴレムに「竜火炎(ドラゴンブレス)」の魔法を放った。
ゴレムの木製の体は、みるみるうちに炎で焼かれてゆき、火だるまになりながら、再生することもできずに灰となって燃え尽きた。
ゼラはゴレムを倒した!
「まいった! 降参しよう」
ティムロトは両手を合わせた。
「ティムロト、あなたは一体…?」
ゼラが問うと、ティムロトは、
「わしも魔術師のはしくれじゃよ。皆の知らない流派の者だがね」
それから、老魔術師ティムロトは、
「ちょっといいかな?」
咳払いし、灰となったゴレムの辺りに手をかざした。
すると、灰の中からゴレムが完全に甦った。
「安心してくれ。何もせんよ」
彼は冒険者たちに言い、今度はその木製の巨像を動かさず、停止させたままにした。
ティムロトは呟く。
「お前さん、ゴレムの足元の、根のところまでは焼き切ってなかったからのう…」
いつもは冷静なゼラも、それには驚いて目を瞠っている。
「何もせん、何もせんよ」
ティムロトは穏やかに言い、ゴレムを元の木の小枝にかえし、ローブの袖の中に戻した。
「わしの大事な護衛(ボディーガード)じゃからのう」
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