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創作

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#小説

【創作】炎

いつも私が休憩室を出た後にだけどっと笑いが起こり、その陰にある喫煙所では職員数名が煙とともに私への陰湿な悪態を漏らしていた。事務所の前を通る時、経理の女は横目で私を睨むし副社長は舐めるような視線をよこす。それらを振り払ってロビーを突っ切り一目散にトイレへと向かう。仕事に戻る前には必ずこうしてトイレに篭って今さっき食べたばかりのものを全部吐き出すことにしている。二本指で下の根っこをグイと押さえつけれ

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淵は僕らの周囲をぐるりと囲むような形でいつでもそこにある。淵までの距離は一定でなく常に伸びたり縮んだりしている。僕らが生活に溺れ肉体ばかりに意識を向けているうちは淵は遠くにあるよう感じられるが、ある時、肉体に注がれていた意識がぷつりと途絶えたその瞬間、淵はもうすぐそこまで迫って来ている。
淵との距離が縮まることにより僕らは否が応でも淵の持つその黒々とした底知れなさを目の当たりにする羽目になる。普段

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【創作】死女神

【創作】死女神

八時五十分のアラームが鳴る三分前に玄関の鍵の開く音がして、そのままガチャガチャガチャバタンガチャンドサッズリズリズリ…って、屍の這う音をぼんやり聞いているうちに目が覚める。すこぶる不愉快な気持ちで枕元をさぐり携帯を手に取ると同時に、大音量のアラームが鳴り出して私の苛立ちはさらに加速。体がカッと熱くなって血圧の上がる感じがする。起き上がってみると一瞬視界が暗くなって、ああ目眩がしているのだと気づく。

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【創作】ごめんね関くん

【創作】ごめんね関くん

 私に初めて彼氏ができたのは十九歳の冬のことだった。相手は一つ年下の高専生で、当時のバイト先の先輩が大学生になっても彼氏のできない私の身の上を案じて紹介してくれたのである。関くんという男の子だった。事前に見せてもらった写真の限りではいかにも「純朴そうな少年」といったような印象で、初めは(年下かぁ)なんて考えてしまってどうにも気乗りがせず、半ば時間潰しみたいな心持ちで連絡を取り合うようになった。
 

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