ピレネーで滑った記録 2/11,2/12
Toulouseでの留学生仲間、Laiaがピレネーに別荘を持っていて、スキーに来ないかと誘われた。二泊三日で行くことになった。
Laiaはカタルーニャのバルセロナから二時間離れた町出身で、大のスキー好き。留学前バルセロナの大学に通っていた時は毎週末滑りに行っていたらしい。スキーの教員資格も持っている。そんな彼女と、四年前を最後に滑っていない私が二人で訪れても大丈夫なのかという若干の不安はあったが、ピレネーの山々を拝みながらその地で滑るという誘惑には誰もが勝てないのではないか。
さて、金曜日の4時ごろ、Toulouseから毎週末スキーの教員としてピレネーのスキー場に行っているというLaiaの友人の車に乗せてもらい、別荘のあるSalardúへ。2時間半かけてついたのは、いくつもの堅牢な石造りの立派な家々が立ち並ぶ、こじんまりとした素敵な村だった。Laiaいわく、景観保護条例のようなもので、新しく家を建てるときは石造りにしなければならないので、各家自体は古くないという。しかし景観は奥の教会(もちろん新築ではない)と並んで見事に調和している。
この村のあたりはオクシタニー地方で、カタルーニャ語。カタルーニャの特徴ある赤と黄色の旗や、トゥールーズのキャピトル広場でみられるシンボルもここで見かける。フランスとスペインどちらにもまたがるオクシタニー圏。
そういえば、フランス人の友人はピレネーあたりの出身で、窓にカタルーニャの旗を掲げていた。フランス人ではあるが同時にカタルーニャという意識もあるのだなあ、と漫然と考えていたけれど、彼の出身(多分)のピレネー=オリアンタル県の旗とカタルーニャの旗が同じであった、(もともとこの県はカタルーニャ語が話されていたカタルーニャの地域で、Catalogne française[フランスのカタルーニャ]/Catalogne Nord[北カタルーニャ]と呼ばれている)という話で、意識まではわからない。
Laiaにこの話をすると、カタルーニャはスペインだけどね、と一蹴。スペインのカタルーニャは最近独立運動でがやがやとしていたけれど、スペインの中に内包されるカタルーニャという構図のなかで、独立という風に捉えると、スペインとフランスという国が先にあるという認識は彼らにとってさえ、あまりにも強固なように思える。
私がスペインのこの言語の多様性は独特だよね、という話をしたとき、彼女はフランスのうまく言った統一政策と比べてスペインのものは失敗したからね、と言っていたことを、思い出す。このフランスとスペイン両方にまたがるカタルーニャの地域でも、そこをカタルーニャだと認識するには言語の力が大きく、言語教育の影響の大きさを目のあたりにする。ちなみにバルセロナ含むスペインのカタルーニャ地方では今もカタルーニャ語が公用語として使われている。彼女もカタルーニャ語とスペイン語のバイリンガルである。
さて、金曜日の夜一泊し、朝八時に起きてご両親にご挨拶。Laiaの高校時代のスキーセットすべてが私にぴったりと合ったという幸運のおかげで、一式そろえてチケットを買っただけで、すぐに滑ることになってしまった。別荘のある村から車で10分のところにある、スペイン1大きい、とご両親が感慨を込めて言った後、ピレネーでは2番目の大きさね、とLaiaによって訂正された、スキー場、Baqueira Beret 。
一日63€と、なかなかに値が張るチケットを購入したあとは、入り口すぐ、朝早くから列のできている大きいゴンドラに乗り、一気に上まで上がる。四方に貼られた窓からは、朝の真っ青な空、家の並ぶ村々、雪の降り積もるピレネーの光景。大きな一揺れでゴンドラが上につくと、そこは、青と白に二分された眩しい世界であった。
山、山、山、これぞ山脈、ピレネー山脈。尾根が永遠に続いていく様は全く日本の山とは違うもので、砂漠を拝んだときの気持ちに少し似ている。砂漠を訪れた時、奥に見えるのは風の作る波うつ砂漠の黄と影の黒のみで、いつまでもきりのないように思われたが、こちらも周りを取り囲む山には果てがなく、生命を感じさせない凍てつく白と空と岩肌の青のみ。
少し、日本の緑が恋しくなる。
しかしそんな感傷に浸っているのもつかの間。滑る滑る滑る滑る。久しぶりという恐れは最初の一滑りで吹き飛び、空を飛んでいるかのように、風を身にまといながら、滑る。気づけば12時、あっという間に3時間経っていた。日本なら、ここでそろそろ休憩かねてお昼ご飯…となるが、そうはいかない。ここはスペイン。スペイン人の昼食は基本2時前後である。そこで、彼らはその前まで空腹で耐えているかというと、そんなわけはなく、Laiaのお父さんはチョコレート、クッキー、ミニサンドイッチを私たちにもたせてくれていた。そろそろおなかがすいたよね、という話をリフトでしていると、じゃあ食べよっか、と、リフトの上でもぐもぐ。生粋のスキー狂であるLaiaにとって、リフトは休憩時間。故に軽食タイムはいつもリフトの上、そして、着くと、滑る、滑る、滑る。
時々こちらの人はどうしてあんなに細いのか、と思うことがあるけれど、単純に、消費カロリーが全く違うのだということを改めて実感する。彼らは食べるけれど、その分ノンストップで動き回っており、朝から夜まで授業、それからパーティー、そして次の日も八時から授業、というようなことを軽々とやってのけているのである。といいつつ、休みたいときにはしっかり休んでいる。しっかり勉強して寝て遊ぶ、という何とも健康的な生活・・。
そんなこんなで滑りっぱなし5時間。やっと昼食の時間に。昼食にはマジョルカ島起源のSobraçadaを挟んだサンドイッチ。これはカタルーニャの知人が作っている自家製のものだという。塩味の効いたコクのあるパテ。
さらにもう一つのサンドイッチには、ハムがのっていたのだが、これはLaiaの別荘にあった豚の足を削ったものだという!
さて、散々滑り5時にスキー場を出ると家に帰って夕ご飯…ではない。スペインの夕ご飯、いや晩御飯は午後9時ごろから始まる。それまで家族そろってリビングルームで大きなソファに座り、ブランケットを抱え、皆思い思いに時を過ごすのである。Laiaにお勧めされたスペインのコメディを見ながら疲れすぎて重いからだを癒す。
9時になり、支度が整ってディナーが始まった。カタルーニャ産の赤ワインとともに、肉食ディナーである。
私のお気に入りはMorcilla[モルシージャ]。Bourdin Noir(フランス)のスペイン版で、豚の血で作られるblood sausageの一種。ヨーロッパ各地にはさまざまな種類があるそう。Carrefourというフランスのスーパーで良く買っているBourdin Noirは中には血と肉のみで、オーブンで焼いて切るとほろほろっとその身がこぼれてくるが、こちらは何やらもっちりしていた。食べ応え抜群で、その後調べてみると米入りのよう。
これらのソーセージは半分に割って軽く焼いたパンといっしょに食べるのだが、オリーブオイルだけをつけたものと、トマトペーストをさらにのっけたものとあり、トマトとソーセージの組み合わせが珍しく映った。いずれにせよおいしい。
Laiaのお父さんはお菓子の工場を持っているそうで、彼女の故郷の「郷土菓子」を生産しているそう。様々な種類のお菓子を食後に振舞っていただいた。
食後のお酒としてカタルーニャで作られたという貴腐ワインと、カシスのお酒をいただく。カシスのお酒はジュースの様に甘酸っぱく、貴腐ワインは上品な甘さ。
面白い味だったのは左側のアーモンド色の板で、これはアーモンドと蜂蜜で固めたものであり、少しベトナムの緑豆に似ている。豆に砂糖、アーモンドに蜂蜜、この素朴な素材を生かしたお菓子という点で、なんとなくにているのだろうか。
食事も終わり、次の日に備えてゆっくり寝る。次の日も朝8時から滑り、その後4時半にピレネーを後にした。素敵なご両親と地球の星の子、ピレネー山脈に迎えられ、良い週末であった。余談だが、スキーに行く前に、人に会わない日が続きかなり気分が沈んでいたが、二日間のスポーツで全くその気持ちはなくなった。澄み渡る青空がそっくり心のなかに移植されたようだ。
運動と自然の力を感じる下記の写真を最後に終わろう。
(23.2.15)