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子どもだけでなく、大人も学べて、楽しめて、癒やされる!秋の夜長に読みたい、絵本選びのプロがおすすめする海にまつわる絵本5選

すっかり秋を感じる季節になりましたね。今回は、読書の秋ということで、海にまつわる絵本を5冊ご紹介します。絵本を選んでくださったのは、東京新聞で連載中の〈えほん〉コーナーを担当している、東京新聞 編集局生活部 長壁 綾子さん。お子さんはもちろん、大人も学べて楽しめる作品ばかりなので、長壁さんのおすすめポイントを参考にぜひ読んでみてくださいね。

(プロフィール)

長壁 綾子
2018年より東京新聞の〈えほん〉コーナーで、絵本のセレクトと執筆、撮影を担当。子育て・育児に関する同紙のWEBサイト「東京すくすく」でも読むことができる。
「東京すくすく〈えほん〉」
https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/tag/%e6%9c%ac%e3%83%bb%e7%b5%b5%e6%9c%ac/

水辺に行くすべての子どもと大人に読んでもらいたい!水辺のリスクを知り、楽しく学ぶのにベストな一冊『かっぱのふうちゃん』

『かっぱのふうちゃん』
文:森重裕二 絵:市居みか
出版社:子どもの未来社

本noteでも取材させていただいた、ライジャケサンタこと森重裕二さんが著作の絵本。泳ぎが苦手な主人公のふうちゃんが、ライジャケサンタと出会い、ライフジャケットの使い方や水辺の危険を教えてもらい、川や海で遊ぶ際の大切なことを学んでいくお話。

長壁さんのおすすめポイント!
歌や標語などがあり、子どもが本の水辺で遊ぶ際の約束ごとを覚えられるように工夫されているので、楽しみながら水辺での危険について学ぶことができます。作者であり、ライフジャケット着用を推進するライジャケサンタとして活動する森重さんの保護者に向けたメッセージも掲載されており、大人もしっかりライフジャケットの必要性を知ることができます。

夏になると海にまつわる絵本が刊行されます。海の楽しさや魅力を伝える作品は多くある中、水辺のリスクについて啓発したり、安全性に言及したりする内容のものは私も初めて出合いました。海のそなえを学ぶのにぴったりの作品です。

海の街出身の作者が描く、何気げなくも尊い海辺の一日にすべての人が癒やされる『なみのいちにち』

『なみのいちにち』
作・絵:阿部 結
出版社: ほるぷ出版

波が主役の絵本。太陽が昇り、沈むまでの海辺での一日を波目線で追った物語。朝はかもめたちを起こし、漁師を海へ送り出す。昼間は浜辺にいる子どもたちと鬼ごっこ…。そんな波の一日を、美しく、丁寧に描いた作品。

長壁さんのおすすめポイント!
何か大きなできごとが起きるわけではない、ありふれた一日が淡々と描かれた、でもロマンチックなお話です。映画を観ているような感覚になります。作者の阿部さんは宮城県・気仙沼の海の近くで育った方で、海を愛していることが絵本を通して伝わってきます。海で育った人だからこそ描ける絵本なのだろうなと思います。
 
絵も使われている言葉もやさしくて、大人も癒やされる作品です。美しい海を見ると、夏になって海に行きたくなります。実際に海に行かなくても、海に行った気持ちにさせてくれる一冊です。

子どもの頃のあのワクワク感をもう一度!海へ行く楽しみを子ども目線で素直に表現『うみまだかな』

『うみまだかな』
作・絵:うちむら たかし
出版社:クレヨンハウス

海へ行くのを楽しみにしている主人公の「ぼく」が、お父さんとお母さんと車に乗って海へ向かう話。途中で雨が降ってきてなかなか海に辿り着かず、「ぼく」が機嫌を損ねる様子をはじめ、子どもならではの素直な言動にほっこりする絵本。

長壁さんのおすすめポイント!
海に着くまでの道中、「ぼく」がいろいろなものに出合いながらやっと海に着くと、海が穏やかに「ぼく」を迎えてくれます。ファーストブックの一歩先、2,3歳のお子さんにおすすめの一冊です。私も子どもの頃、海へ行く時は「まだ海に着かないの?」と主人公と同じように親によく聞いていました。そんなワクワクした気持ちを懐かしく思い出しながら楽しく読めます。

自然の大切さを学び、海女(あま)として生きる女性の意志に感銘を受ける『ママとうみのやくそく』

『ママとうみのやくそく』
作:コ・ヒヨン
絵:エヴァ・アルミセン
訳:おおたけ きよみ
出版社:主婦の友社

韓国のチェジュ島で暮らす海女さんのお話。海から離れたことがない祖母、かつて海を離れたけれど戻って来た母。海女である二人から主人公の「私」が教えてもらう、海との美しい約束。自然の豊かさを学べる一冊。

長壁さんのおすすめポイント!
海の生き物を獲る暮らしの中には、海との約束があります。主人公は、海に対して少し恐怖心を持っている女の子なのですが、おばあちゃんとお母さんが豊かなだけではない自然、生きているからこその怖さなどもちゃんと教えてくれます。物語を通して、SDGsにもつながる学びも得られます。自然の大切さだけではなく、海女として生きる女性の強い意志も感じられる絵本です。

大人になってもきっと何度も読み返したくなる、生きていく上で大切なものが詰まった、宝物のような絵本『海のアトリエ』

『海のアトリエ』
作・絵:堀川 理万子
出版社:偕成社

おばあちゃんの部屋の壁には、一人の女の子の絵が飾られている。「この子はだれ?」と聞いたわたしに、「この子は、あたしよ」と答えたおばあちゃん。閉じこもりがちだった子ども時代、海辺にある絵描きさんのアトリエで過ごした特別な思い出を語りはじめる。のびのびと心を解放することができた宝物のような日々を、細部まで美しく描いた作品。

長壁さんのおすすめポイント!
一枚一枚の絵が生き生きとしていて、とても豊かな絵本です。愛読書の『パパ・ユアクレイジー』(マリブ海で新しい生活をはじめる父と息子を描いた作品)の雰囲気に憧れていた作者の堀川さん。ふさぎがちな女の子の気持ちをすっきりさせるのにはと考え、舞台を海にしました。目が覚めるような鮮やかな海を描くのに使った絵の具には特にこだわったのだそうです。絵描きのお姉さんは、堀川さんが子どもの頃に出会った絵画教室の先生がモデルです。自分を子ども扱いせず、対等に扱ってくれた人で、今でも何かの時には助言をもらったりされるのだとか。昨年、絵本で初めてBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞し、第53回「講談社絵本賞」にも選ばれました。大人は絵描きさんのような人になりたいなぁと憧れますし、自分の居場所がない子どもたちへ、学校や家だけではない世界があることを教えてくれる作品です。

絵本は、自分の人生に寄り添ってくれる“かけがえのないお守りのような存在”

最後に、素敵な5冊の絵本を紹介してくださった長壁さんに、絵本の魅力について伺いました!
 
絵本は子どもが初めて出合う文学です。わかりやすくやさしい言葉、美しく、愛らしい絵も魅力の一つですが、一冊の本を通じて、親から子へと受け継がれていくということも大きな魅力だと思います。幼い頃に親のひざに座り、読んでもらった絵本を子どもへ読み聞かせる時間は、子ども、そして親にとっても忘れられない大切な記憶でありつづけるのではないでしょうか。
 
私自身、幼い頃から絵本が大好きで、両親によく読み聞かせをしてもらいました。大学生になって親元を離れて生活し、自身の進路を決める際に壁にぶつかった時に、母から『生まれてきてくれてありがとう』という一冊の絵本が送られてきました。この本のおかげで、私は自分が存在する価値、この世に生まれ、生きていることへの希望を見いだすことができました。それ以降、落ち込んだりすると絵本屋さんに立ち寄るようになり、大好きだった作品と再会すると子どもの頃に絵本を読んでもらった時のワクワクした気持ちを思い出し、癒やされたり、新たな発見を得たりしています。絵本は私にとって、かけがえのないお守りのような存在です。 

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長壁さんが紹介してくれた5冊の絵本、どれも魅力的な一冊ですよね。私(事務局の河田)も早速読んでみたのですが、絵柄も内容も個性があって楽しめましたし、それぞれから新しい気づきや学びを得ることができました。そして、読んでいる時は登場人物の気持ちや物語の中で起きるできごとを素直に受け止め、本当に童心に返るというか、心が透明になっていく自分がいたように思います。お子さんと一緒に楽しむだけではなく、大人がありのままの自分と向き合うために読むのもよいかもしれません。ご紹介した5冊、みなさんもぜひ読んでみてくださいね。