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体臭と相性と遺伝子的吸引力と

彼の汗の匂いが臭い。そう思ったことのある人は少なくないと思う。

忘れもしない、学生時代の恋人は、ずっと憧れていた人だった。付き合えることになって天にも登る心地で、幸せだった。それは世に言う一目惚れで、出会った瞬間に恋に落ちていた。要するに外見がとんでもなく好みだったのだ。

長い長い片思いの末にやっと付き合えた彼なのに、汗をかいた彼が私を抱き寄せた瞬間、「クサッ!!!」と一声漏らしてしまった。

臭かったのだ。それはよくある汗臭。ジムから帰って少し時間がたってしまった汗臭。あまりの匂いに私は衝撃を受けた。そしてもちろん彼は「そんな言い方しなくても、、ひどい、、」とショックを受けていた。


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昔付き合っていたフランス人の彼の体臭がたまらなく好きだった。

こういうことを言うとドン引きされがちなので大きな声では言えないが、彼が汗をかいて帰ってくるとご褒美タイムのようだった。脇に鼻を埋めて胸いっぱい吸い込みたいほどいい匂いに感じるのだ。「汗かいてて臭いからやめてよ」と彼は言うがとんでもない、それこそが癒しの香りだった。


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あなたはHLA遺伝子を知っているだろうか。

ヒトの免疫力に関係しているというHLA遺伝子は、フェロモンとして匂い出る。そしてヒトは自分と近い遺伝子型を持つ相手との配合を避けるため、自分と遠い遺伝子型を持つ相手のフェロモンを良い香りだと認識するのだそうだ。

両親とも日本人でザ・アジアな私が、同じく和顔の学生時代の彼より外国人の彼の体臭をいい香りと認識したのも納得だ。ちなみに同じ理由で、思春期以降の女子は父親の体臭を臭いと感じるらしい。

好みのタイプの話は全世界共通でよくある話題の一つだが、わたしの好みのタイプはなんとも説明がしづらい。たとえば、世間的に塩顔とされるタイプの切れ長一重まぶたの男性も素敵だなと思うし、そうかと思えばソースをじっくりコトコト煮込みました系男子も好きである。

要するに節操がない。

だが前述の科学的事実を知ってからというもの、顔面あっさり塩味側の私が、ソース煮詰めた側の人に惹かれてしまうのは、明らかに自分と違う遺伝子の持ち主だと認識するからなのかと思うと、なんだか自分が「人間という動物の”メス”だ」といちいち認識させられているようで、いや〜な気持ちになる。

そしてもう一つ、ぞっとさせられるのは、自分と似た系統の顔の人を好きになりやすいという話。理由としては、無意識に自分の親の顔の系統を、自分に優しくしてくれる人間の顔の系統として脳にインプットしているからだという。(顔面)似た者夫婦というのはこれが理由だろう。

この2つ目の話により、塩顔男子に惹かれる自分は親の系統からそういう人間を探しているのかと分析しだすことで、なんとなくまたいや〜な気分になる。

いやいや待て、人を好きになるのに大切なのは顔面だけじゃなかろう、内面をきちんと見つめて人を判断できるのが成熟した人間だぞと。もちろんその通りなんですけど、この際はっきり言うと、外見大切です。それは誰もが認めるイケメンであれとか言う意味ではなく、それぞれが生理的に受け付けられるかどうかという意味でです。あのキムタクでさえ「無理!!」と思う女性も世の中にはいるでしょう。(例えが古いのはこの際置いといて)

そしてちょっと悲しい話をすると、私は今でこそ受け入れられるようになったものの、思春期以降、自分の弥生的顔面がコンプレックスだった。先祖代々稲作に打ち込んで参りました顔。戦後ニッポン以降メリケンすごいの洗脳なのか、この国はルッキズムが本当に強く、学生時代などは特に残酷なほどはっきりと二重まぶたでない子はかわいそうという共通認識がありました。自分の子供の瞼が夫に似て奥二重なのを心配してヘアピンでなぞり二重に矯正していると一重の私に話して聞かせる友達。一重に生まれた子供が不憫と一重の私に言う友達。この際だから言うが一体どういう了見だ、てめぇら。日本人女子と話していると納得のいかないことは多々あります。

そんな訳で、将来生まれて来るかもしれない自分の子供に、かわいそうと思われ言われた自分のような思いをして欲しくないから、煮込みソース顔に惹かれてしまうのかもしれないです。減塩おすまし汁に、もう少しのコクをください。混ぜさえすれば、もう少し美味しいって認められるかもしれないから。

そう思ってる時点で、自分自身もまだルッキズムとさようならできていない事を痛烈に実感する。

巡り巡りすぎて抜け出せない思考を凌駕する恋愛をしたい。 

「なんだろう、、、わかんない、、、もう、すき!!!」

っていう感情を取り戻せる日は来るのだろうか。


嗚呼、恋に落ちることの難しさよ。


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