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電子書房-3 さまざまな日常を読書する

 どうも、ネットの海を渡って、今日はこの浜辺にやってきました。

 電子書房うみのふねにお立ち寄りいただきありがとうございます。今日も今日とて、好きな本を紹介します。

 本日は三冊です。特に紹介したい本を主軸にして構成した時、一番しっくりきたのは「日常」です。でも、ひとくちに「日常」といってもこの世には様々な「日常」がありますし、「日常」を扱った書物は溢れています。そのうえでたまたま私の本棚にある中で選んだ本をご紹介します。


 一冊目はこちら。

「抱きしめられたい。/糸井重里著」です。

 毎年ほぼ日ブックスから刊行している、糸井重里によるほぼ日イトイ新聞やtwitter一年分から選んだ言葉を本にまとめた「小さいことばシリーズ」、その10冊目にあたる本。

 正直なところこのシリーズで持っているのはこの「抱きしめられたい。」だけなんですが、2015年の言葉を集めたこの本をなぜ私が買って手元に残しているかというと、このツイートが、当時も非常に印象深く、そしてその真っ黒なページを開くたびにつんと心に刺さる感覚を忘れたくないからだと思います。

世界のすべての灯を消せ
真っ暗な夜をつくってくれ
その無力で
ただそれだけをしてくれないか

 ぴんとくる方もおられるかもしれませんね。

 2015年7月11日、任天堂の岩田元社長が永眠された、そのときの言葉です。

 ゲームに育てられ、任天堂には足を向けて眠れない私もこのニュースはとても衝撃的でした。

 その次のページはまっしろけな紙上に言葉が綴られていますが、本屋で手にとって、その暗闇のページに対面したとき、これは手元に置いておかなければならない、と確信したことをよく覚えています。

 そこから、岩田さん(恐縮ながら、親しみをこめて)に関することがしばらく続いて、ページがふられていた部分には、MOTHERシリーズのどせいさんが居続けます。この部分を見返すたび、なんとも筆舌しがたい痛みを伴うのですが、でも何故か同時にとても優しい気持ちになる。それは糸井さん(恐縮ながら、親しみをこめて)の情がこめられているからであり、岩田さんが本当に大切な親友で、そのほんのすこしのかけらを見せてもらっているからで、そのほんのすこしですら、悲しみと同時にあたたかさが濃密に存在しているからなんだろうなあと。

 私は友達が少ないけれど、本当に大事にしたい友達がいる。その人を永遠に喪ったら、一体、どうなってしまうのか。想像がうまくできない。

 人が死んでも、当然ながら、世界が止まるわけじゃなくて、ただその人がいなくなるというだけで、時間はずっと、同じだけ続いていく。

 それは、同じ世界だけれど、違う世界。同じではない日常。

 それでも、日常を歩む。生きる日々、LIFEについて言葉が連ねられる。

 岩田さんの部分にフォーカスしましたが、言葉はどれもすっとしていて、本を開くたびに印象が変わります。そこにある言葉は変わらないけど、受け取り手によって変容し、刺さる言葉と、刺さらない言葉があったりする。それは人それぞれ。でも、カバーの紙の質感だとか、フォントとか、色だとか、手に取ってはじめてわかる良さというのがあって、著者のことが嫌いでなければどこかにはじんとくるものがあると思います。頭から順に読むというより、ぱっと開いたところで楽しんでいくのがちょうどいい感じです。

 私も大体岩田さんのことを思い出したい時に開くんですが、そこから派生して他の文章を読んだり写真を見たりすると、つんと悲しみに触れた心がじんわり溶けて、楽になっていく感じがします。

 しかし、2015年ですか。今年で、あの日から5年が経つんですね……。


 ちょっとしんみりしたところで、二冊目。

「今日の人生/益田ミリ著」です。

 この人ほど、本当に身近で本当に小さくて本当に些細なことをそのまま拾いながら、こまやかで素朴なかたちに出来るというのは、なかなかできない、そんな気がしています。

 たまに文章も出てきますが、ほとんどは漫画。そういう意味でも、気軽に開けるし、おすすめしやすい本です。

 この本の良さは、あまりにも切羽詰まっているときよりも、休日の昼下がりのちょっとだけ自分に余裕があって、でも疲れがたまっていたりなんとなくむなしさを感じているときに実感できると勝手に思っています。

 人生というのは今日の積み重ね。今日という中には、小さな発見や小さな思いつき、なんてことのないものも含めてたくさん詰まっている。それをひとつひとつかたちにしていて、読んでいると心がやわらかにならざるを得ない。というとなんだかかたくなるのだけど、やわらかくなるんですよ。共感できたり、目から鱗だったり、よりどりみどりな感覚を味わえますが、どれも近しく感じるのは、どれも手に届く範囲のことがらだからだろうなあと。

 周りの、聞き逃しがちな会話の中や、内側、自分自身の中に、たいせつなものはある。それは常にそこにあるのだけれど、忘れていたり、逃しているだけで、意識を違ったふうに向けたら、見えてくる世界がある。

 ミクロコスモスだなあと。

 そんなことを思い出させてくれる本です。著者の本を全部読んでるわけではないのですが、これは率直に、好きです。

 これも装丁が素敵なのと内容的に最初からじっと読み進めるより時々ぱらっとめくってほっこりするのがちょうどいいので、電子書籍よりも、紙の本がおすすめです。内容的にそもそも電子書籍あるのだろうか……と思って確認したら無さそう。ですよね。


 三冊目はこちら。

「ビロウな話で恐縮です日記/三浦しをん著」。

 前二冊からしてみるとわりと方向性が違います。これは日常を優しく扱ったこころの処方箋本というより、くすっと笑うための気軽な日記本です。

 いや、狙おうと思えばいわゆるこころの処方箋の類はあるんです。いくらでもあるんです、他に。でも、三冊目を考えてふと手に取ったら、なんだかやっぱり笑ってしまって、なんかこういうのも良いんじゃないかな、いや、良いと思う、となったんです。その方が世界が広がって、良いじゃない。

 同名のブログをまとめた本で、ブログなので文章自体はとても軽快で、著者の小説に比べるとざっくばらんな言葉が並んでいてこの生活からあの小説やこの小説が生まれているんだなあとなにやら驚きを含めて感心するような気分になるんですが、随所で笑ってしまうんですよね。むしろブログ文だからこそ気軽におしゃべりを聞いてる感があるんだと思います。

 日常の切り取り方でこんなにも世界は変わる。擬音だらけで爆笑してたり、過大だったり、自虐的だったり、ぷんぷん(この「ぷんぷん」感が重要)怒っていたり、でも時に考えさせられたり、しんと静かであったり、読んでいるとけっこう心が忙しい。翻弄されてる。引っ張られる。三浦しをんの独特な世界に。

 三浦しをんの瞳から見える世界は楽しい。原稿に追い立てられながら、ふとしたことを膨らませていく。妄想は宇宙を広げる行為だなと思う。特に漫画や小説に興奮してる文章とか本っ当に面白い。めちゃくちゃディープでないにしろ一般人かオタクでいえばどう考えてもオタクな人間なので、著者には妙な親近感を覚えます。つまり楽しい。

 小難しいことを考えすぎずに楽しいことを全力で楽しむ! そんなことが詰まっています。特に人の会話を横で聞いているのが好きな方、オタクの方、楽しんで読書できるのではないでしょうか。

 ちなみに周知の事実ではありますが念のため注意書きしておくと、三浦しをんはBL好きでその話題もたくさん出てくるので(私はその部分も含めてこの本が好きです)その点はご留意を。中村明日美子表紙絵•ちょくちょく出てくるイラストも良いです。


 というわけで、今回の三冊でした。いかがでしたでしょうか。

 日常に関する本って本当に世の中、たくさんありますよね。それが溢れても溢れてもひとつとして同じものがなく、エッセイが絶えないのは、それぞれで人生も価値観も時代も異なるからで、他人の人生に共感したり発見したりしながら、不思議な繋がりを得ていくんですよね……。

 そうして、それぞれの日常を、それぞれで歩いていく。

 日常を彩る本に出会えますように。

 それでは、今日はここらにて。またご縁があれば、来週日曜、どこかの浜辺でお会いしましょう。

たいへん喜びます!本を読んで文にします。