女の敵はやはり自分だった
「じゃああなた女性だから広報で!」
とある社外研修を受けていて、ロールプレイングをした。5人集まって、社長、副社長、財務担当、技術担当などを役割分担し、相手先と交渉するワーク。
課題は、会社の事業実績と計画を渡され、相手先と交渉し会社にとって有利な条件にするというもの。交渉に使う数字を事前に考えてきて研修に参加するよう指示されていた。私は最近この業界に転職してきたばかりで、一応数字を考えてきたが、全然自信がなかった。
グループに分かれ、まず事前に考えてきた数字を出し合う。私のはハズレ値のように他の人と違った。
私は自信ないし、他の人は業界経験あるし、どうせ私の数字が間違ってるのだろう、という暗黙の共通認識がグループ内にできた。
次に役割分担をする段になり、仕切り屋っぽいおじさんが決めていった。一番強気の数字を作った人が社長役。金融機関の人が財務担当。メーカーの人が技術担当。自分は営業担当。そして私は……?
「じゃああなた女性だから広報で!」
女性だから広報。まじで?
たしかに私の数字はおそらく間違ってるけど、そのことと広報担当は全然関係ない。女性と広報も関係ない。世の中にいる男性の広報担当の立場はどうしたらいいのか。
そっか、女性だから広報……。
女性だから広報……。
女性だから広報……。
その言葉が引っかかり、頭が働かなくなってしまった。広報担当なら、せめて広報がこのケーススタディでどのような意味があるかなど考えようとしたが、うまくまとまらなかった。相手先との交渉の場面でも、結局発言することは一度もなかった。そりゃあそうだ。この交渉の場面に広報が出てくることはない。
実は、私の今いる業界は多様性のなさが内外から指摘されている。簡単に言うと、エリート男性しかいない。エリート男性を前提とした仕事のスタイルになっており、女性が入ってこようとしても入れない状況がずっと続いていた。
女性が何か新しいアイデアを出しても男性に理解されず潰れていったり、業務時間外の夜や休日に業界の人と会うことが成功の要件となっており、母親業との両立はまず無理な職種だった。日本だけでなく、アメリカの方がえげつなく白人エリート男性のみの業界として知られている。
最近多様性の少なさが原因で業界内に問題が起こり、内部から整えていこうという機運ができ始めている矢先だった。そんななかで、まじで「女性だから広報」とか言う人おるんや。
研修のシーンに話を戻そう。交渉のロールプレイが終わり、講師がポイントを解説する。このロールプレイは実際の事例をベースとしており、実際に交渉で使われた数字は何だったのか、その他に交渉した条件など。そこで明らかになったことはなんと……
私の作ってきた数字が一番現実に近かった!
ロールプレイの時に社長役をやった人は一番強気で非現実的な数字を作っていて、それはなくない……? と思っていたが、私は発言できなかった。広報だから。自分に自信がなかったから。でも、私の方法はあながち間違っていなかったらしい。なんであの時言い返せなかったのか。
復職直前に『LEAN IN』という本を読み、記事にまとめた。
ここで書かれているのは女の敵は自分ということだった。自分の意見に自信がなかった。自分はきっと間違っていて周りが正しいのだろうと思い込んでいた。
私がこの業界に転職したてという背景もあった。でも周りの研修生も皆ここ1〜3年で業界に来た人だった。エリート男性たちは自分の数字が間違ってるなんて思わない。それがぶっ飛んだ大間違いだったとしても、講義の後で「全然間違ってましたね、すみません」と言うこともない(私が逆の立場だったら絶対言ってる)。
人々の多様性を認める活動のことを最近DE&I(ディーイーアンドアイ)と呼ぶのが流行っている。今回の経験を通じて2つの気づきを得た。
・この業界のDE&Iはまじで低レベル
・私はもう少し自信を持って振る舞ってもいい
DE&Iの観点では最悪だが、私は今の会社に転職して本当に良かったなと思っている。仕事内容はまさにこんな仕事がしたかった! と思いながら日々取り組んでいる。これからきっとキリキリするようなシチュエーションがあるけど、それも楽しみな部分がある。
遠い未来、私が登壇し同業の若い人向けに話す機会があればこう話したい。
「私がこの業界に入りたての頃、『女性だから〇〇』と言うような人が本当にいました。でも今は撲滅されていると信じています。女性が良いアイデアを持っていても、男性に理解されず潰れていったシーズが山ほどあります。
でも今はこの業界の男女比が半々になりました。生物学上の性別だけでなく、様々な多様性が実現し、業界としてより成熟し、成長も保っています」
未来のイメージを具体的に持つのは大事。いつかこう言えるように、自分に自信を持てるように、日々研鑽するしかない。
来週も前を向いて、仕事頑張ろう!
≪終わり≫
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