パワーストーン①

 剣城琴美について知っていることといえば、まず彼女が大学でマドンナ的な存在だったということだった。
 マドンナ、なんて表現は古臭いのかもしれないけれど、それでも彼女はマドンナ、という強い言葉くらいしか当てはまらないくらい、脚光を浴びていたと思う。
 何せ、ただ同じ大学だった僕が彼女の名前をはっきりと記憶しているくらいだから。
 まさに彼女が歩いた後は菜の花が咲き乱れるんじゃないか、なんて噂さえされていたくらいだ。
 だけど、僕が彼女に関心を持ったところは、そんなところではなかった。
 大学一年生から特別に研究室に配属になった彼女は、僕が卒業する時、つまり僕が大学院二年生、彼女が大学二年生の時、有名な賞を受賞した。
 研究者になる、という夢とも希望とも違う、ただの憧れを持っていた僕としては、そんな彼女が、途方もなく恐ろしい存在に感じたんだ。
 まさに、自分の存在を嘲笑うかのような存在に。
 そんな彼女が、今僕の目の前にいる。
 容姿は相変わらずだった。
 声も、こんな至近距離で聞いたことはなかったと思う。少しハスキーな、だけど女性らしい声だと思った。そんなところもまた、僕をからかっているみたいだった。
 とはいえ、流石にあの頃のようにただの感情に支配されるほど幼稚でもない。
「えっと・・・」
 僕が裾に視線を向けると、琴美は慌てて裾から手を離した。
「あ、すみません。唐突に」
「いえ・・・」
「あの、多澤さん、ですよね?」
「ああ、はい。そうです。・・・何か?」
「えっと・・・あ、パワーストーン、いかがですか?」
「え?」
 

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