君の笑顔が見たいだけだった(超短編小説)

 ただ君の笑顔が見たいだけだった。
 君が一番輝くのは、笑った時だと思ったから。
 だから、君が笑顔でいれば、全て良いと思っていた。僕はそれで満足だと、そう思っていた。
 そして、その笑顔を見ると、僕自身も幸せな気分になれていた。
 けれど、人間はなんとも欲深い生き物だ。
 君が笑顔でいるだけでは、次第に満足できなくなる。
 その笑顔が僕に向いていないと、次第にもやもやするようになっていった。
 そして次第に、その笑顔が、僕だけに向けられれば良いとさえ思うようになっていく。
 それは、君が笑顔にならないことを望んでいるのと同じだ。
 他のところでは、笑顔でいてほしくない。
 僕の前でだけ、笑っていてほしい。
 そんな独りよがりな望みを、持ってしまう。
 そんなこと、僕にいう資格はない。
 君を幸せにすることは、僕にはできない。
 そんな立場ではない。
 だけど、僕だけの君でいてほしい。
 そうなったら、どれほど幸せだろうかと思ってしまう。
 そんな時間があれば、どれほど幸福なのかと想像する。
 けれど、そんな時間は永遠に来ない。
 笑顔があれほど尊かったのに、僕の前で笑顔でないと不安になる。
 僕の方が勝手に必死になる。
 そんな自分がまた嫌いだった。
 けれど、僕ができることは、それくらいしかない。
 それほど矮小な自分で、何も与えることができず、君を笑顔にすることさえ困難な自分が、憎らしくて、情けない。
 それでも、そんな気持ちを噛み殺して、僕は思う。
 
 君が笑顔であればと。
 
 そして、許されるなら、君の幸せを心から願える人間になりたいと思う。

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