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「男飯コスパ飯」第2話

■タワーマンション・共有スペース

壁が全面窓になっている共有スペース。薫子が窓にへばりついている。
薫子「(窓にはりついて)すごい、すごい。海が見えますよ! 海! ねえ、二人とも!」

飯塚と湊、置いてあるテーブルについている。薫子を無視して、
飯塚「へえ、そんなことが」
湊「俺もびっくりしました」
飯塚「大学の頃から仲良かったの?」
湊「いやあ、そんなに。学校で会ったら話すぐらいでしたね。あ、でも、四年間、うすーい感じでつながってたか」
飯塚「卒業してからやりとりは?」
湊「まったく」
飯塚「へえ」
薫子「(いつの間にか二人に寄って来ていて)ラッキーじゃないですか」
と、椅子に座る。
薫子「家賃は安くなるし、こんなタワマン、一度は住んでみたいな~。無理だろうけど」
飯塚「光熱費もいいって言ってくれてんだろ。シェアハウスとしてはいい条件だよな」
薫子「そうですよ。親友じゃなくても、友達なら、人間関係の心配もないし」
飯塚「仕事もいつ元通りになるかわかんねえし、削れるところは削らないと。はあ、いつまでサバイバル生活が続くことか」
とため息をつく。
湊「ですよね」
薫子「ですよ! 代わってほしいくらい。私なんて、今月からパパ活ですよ」
飯塚、湊「え?」
と驚く。
薫子「そんなに驚かないでくださいよ。イマドキみんなやってます」
飯塚「嘘だろ」
薫子「ほんとです。どの程度までやるかは、まちまちですけど」
湊「どの程度?」
薫子「エッチありとかなしとか」
飯塚、湊「・・・」
薫子「やだ、そんなにひかないでくださいよ。私は、エッチまでしません。茶飯です、茶飯」
湊「茶飯?」
薫子「一緒にお茶したりごはんしたりまでってことです」
飯塚「そんなんで稼げるの?」
薫子「そうですねえ、やっぱりエッチしないと、大きくは稼げませんねえ」
湊「そうなんだ」
薫子「です。でも、そんなにはまりたくないし。毎月3万ぐらいを目標にして、がんばります!」
飯塚「がんばるか。もっと他にがんばり方がないのかねえ」
薫子「あ、出た。親父の説教」
飯塚「・・・」
薫子「じゃあ、他に何があるって言うんですか? 何か紹介してくれます?」
飯塚「それは・・・」
薫子「もう時代は変わってるんです。バイトでも頑張ればある程度のお金を稼げてた飯塚さんたちの時代とは違うんです」
湊「そうかもしれないけど、でも・・・」
薫子「湊さんまで反対するんですかあ」
と泣きそうな顔になる。
湊「そうじゃないけど。危ないなって」
薫子「大丈夫です! 私、逃げ足だけは早いんで。それに、あやしい相手だったら、すぐにひきます」
飯塚「ひきますって、おまえ。ほんとの男の怖さがわかってないだろ」
薫子「男の怖さってなんですか?」
飯塚「ダメだ、こりゃ。ちょっと痛い目みて、すぐに逃げ出すことを願ってるよ」
薫子「嫌なこといいますねえ。私、適度にうまくやってみせますから!」
飯塚「はい、はい。頑張って」
薫子「言われなくても、頑張ります!」
と鼻息が荒い。
湊、はらはらしながら、二人のやりとりを見ている。

■横浜市内・街中

歩道を人々が行き交う街中の風景。
湊、自転車に乗り、”Youber eats”と書かれた宅配用の鞄を背負って車道を走っている。
湊<パパ活に触発されて、とりあえずYouberを始めた。いつになったら通常出社に戻るかもわからないし、いまは倹約しながら、やれることをやらないと>
湊、自転車で走っていく。

■MEGAドン・キホーテ港山下総本店・外観(夜)

照明がついていて夜闇に浮かぶドン・キホーテの外観。

■MEGAドン・キホーテ港山下総本店・キッチン用品売り場(夜)

鍋や皿、まな板などが所狭しと陳列されいる店内。
包丁コーナーに立っている湊。包丁を握りしめ、思い詰めた顔で、持った包丁を睨んでいる。
湊、”Youber eats”と書かれた宅配用の鞄を背負っている。

湊<や、やるぜ。。。俺は、やる>
湊「(目を見開き、ギンギンの状態で手に持った包丁を睨み)やってやるぜ!」

そんな湊を遠まわしに見ている女子高生二人。
「やばいじゃーん。目、とんじゃってるよ」「ぜったいやってるよ、あれ」と怯えている。

■スーパー・外観(夜)

人が出入りしているスーパーの外観。

■スーパー・店内(夜)

湊、宅配用の鞄を背負ったまま、買い物かごを持って、店内を歩いている。
湊<料理作れば食費もタダとか、、、この状況でチャレンジしない手はないでしょ!>
と鼻息が荒い。

湊、肉の売り場で足を止める。湊、瞬太が満面の笑みで飯を食っているところを妄想しながら、
湊<肉じゃが、肉じゃが。おふくろの味っていったら、肉じゃがでしょ。嫌いな男はいないはず。レシピはさっき検索しまくったし。腕はないけど、知識は万全! 榎本君、喜ぶかなあ>

湊「豚肉、豚肉。おいしい豚肉。ぶーた、ぶーた、ぶーたぴょん。デブが食べたら共食いなりー、あははは」
と笑顔でつぶやきながら、並んでいる肉を眺めている。
湊、視線を感じて顔をあげる。幸子が隣に立ち、こっちを見ている。湊を目が合うと、舌打ちする。
湊<やばっ>
とその場を離れる。幸子、湊を睨んでいる。

湊<先に野菜にしよう>
湊、野菜売り場に立ち、きょろきょろと玉ねぎを探す。玉ねぎを一個手に取り、睨む。

湊「こ、これをスライス・・・」
湊<で、できるのか? でも、これぐらいは切れるはず。玉ねぎの皮は手で剥けるし・・・包丁にぎるなんて、一人暮らしを初めたとき以来だ。自炊なんて一か月ももたなかったけど。でも、いまはそんなこと言ってられない緊急事態!>

湊「やったるで」
と玉ねぎをひとつ、買い物かごに入れる。

湊、ジャガイモを睨んで。
湊<おまえとは正面からは戦わない>
湊、冷凍食品売り場に移動。
湊、フライドポテトの袋を買い物かごに入れる。
湊「意外だったな、これでいいなんて」
と言いながら、店内を移動する。

湊、調味料売り場にやってきて、
湊<調味料、まったくなかったな。ひと通り買っていくか>
と、塩や砂糖や胡椒などをかごに入れていく。

湊「これが今日の主役」
とすき焼きのたれをかごに入れる。
湊「これもけっこう名前が出てたな」
とめんつゆもかごに入れる。
湊「これでよし」
と調味料売り場を離れる。

湊、棚の陰に隠れて肉売り場を見て、幸子がいないかチェックしている。
湊<よし、いないな>
と、肉売り場に来て、
湊「豚バラ、殺してバラバラ~」
ずらっと並んでいる豚バラ。半額シールのものもある。

湊、半額シールの張ってあるパックをとりあげ、
湊「賞味期限は今日だけど、でも、今日使うしな。いくら食費が出るって言っても倹約しないと」
と、かごに入れる。湊、ご機嫌でレジに向かう。

■タワーマンション・外観(夜)

照明や各部屋の灯りで輝く夜のタワーマンションの外観。

■タワーマンション・瞬太の家・キッチン(夜)

キッチンで食材と調理器具を並べ、眺めている湊。
湊<フライパンとまな板はあったんだよな。なぜ?>
湊「さて、やりますか」

湊、玉ねぎを剥き、恐る恐るスライスしていく。
湊<よし、できてる、できてる>
湊の切ったスライス、やや厚い。湊、玉ねぎを切り終え、
湊「なんだ、やればできるじゃーん」
とご機嫌。

湊、肉をパックから出し、切っていく。
湊「適当、適当。だって、涙が出ちゃう、男飯だも~ん。ボールが~、うなると~」
と鼻歌を歌いながら、豚バラ肉を適当に切っていく。

湊、フライパンをコンロに置き、火をつける。
湊<フライパンでもいいってあったけど、ほんとかな>
と、フライパンに油をひき、豚バラ肉と玉ねぎを入れる。
湊「投入~。豆乳~。なんちゃって」

湊、炒めながら、
湊<玉ねぎ一個って意外に多いな。ま、いっか~。ネギだくネギだく~。だって、男の子だも~ん>
湊、手を動かしながら、
湊「火が通ったら、ジャガイモ入れて~、タレいれて~、煮込むだけ~。簡単だな。おふくろの味って意外にちょろいのな」

湊、火を消す。
湊「よし、順調。次はタレだ」
湊、すき焼きのたれを持ち上げ、ラベルの説明を見る。
湊「肉じゃがに使うときは・・・ たれ1に水2か」
湊、ボールにすき焼きのタレを入れ、そこに水道水を追加する。湊、菜箸でそれを混ぜ、小指をつけて、味をみる。
湊「うーん、ちょっと薄いかな。でも、煮ると味が濃くなるってあったし」
と首をひねる。
湊「あっ!」
と何かを思いつき、めんつゆを棚から取り出す。

湊「これもレシピによく名前が出てたから、混ぜてみよう」
湊、すき焼きのタレの入ったボールに、めんつゆを少し注ぐ。
湊、ボールの中を混ぜ、小指をつけて、味をみる。
湊「なにか足りないような・・・ ん?」
湊、キッチンの隅に置いてある小さなハチミツの瓶を見つけて、取り上げる。
湊「なぜこんなものが?」
湊、瓶を見つめて、
湊「いいかも」
湊、スプーン一杯のハチミツをすくい、タレのボールの中に入れ、混ぜる。小指をつけて、味をみて、
湊「よしっ! いい感じ」

■タワーマンション・瞬太の家・リビング(夜)

テーブルに湊と瞬太が向かい合っている。テーブルの上には肉じゃがやごはんが出ている。瞬太、茶碗片手に、肉じゃがを口に運ぶ。

湊「(瞬太を見ながら)お、おいしい?」
瞬太「うん。まあまあ。駿河君って料理できたんだね」
湊「え、あ、まあね・・・じゃあ、合格、かな?」
瞬太「合格?」
湊「その、料理作ったら、食費もってやつ・・・」
瞬太「ああ、あれか。うん。合格」
湊「やったっ!」
と立ち上がり、ガッツポーズをとる。
湊「頑張りまっす!」
と鼻息があらい。瞬太、淡々と食事している。

■タワーマンション・瞬太の家・湊の部屋(夜)

ベッドに寝転がった湊、スマホを掲げ、メモに何か打ち込んでいる。

・肉じゃがのポイント
すき焼きのタレ+めんつゆ+ハチミツちょこっと
玉ねぎは多めがGOOD
ジャガイモは冷食のフライドポテトで十分

湊、入力を終え、スマホを枕元に置く。
湊「終了」
と目を閉じ、眠りにつく。

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