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「男飯コスパ飯」第3話

■石川町駅・外観(朝)

石川町駅の外観。朝なのに、駅に入っていく会社員の姿は少ない。

■石川町駅・ホーム(朝)

ホームに立つ湊。湊、手に持ったスマホを眺めている。
ホームはガラガラで、電車を待つ人はまばら。

■電車・車内(朝)

座っている湊。湊、車内をきょろきょろと見回す。席がところどころ空いているほど、人は少なく、空いている。
湊<朝なのにガラガラじゃん。コロナって、ほんとすげーな>

■東京・品川駅・外観(朝)

港南口の外観。駅から吐き出されてくる会社員の姿は少ない。

■ドリームミーティング・オフィス(朝)

湊、デスクについて、ノートパソコンを見ている。
飯塚、オフィスに入って来る。
湊「(飯塚に気づいて)おはようございます」
飯塚「おはよーさん」
飯塚、湊の前の席に鞄を置き、ソファセットに移動して、座る。

飯塚「優木は?」
湊「まだです」
飯塚「遅刻だな・・・俺もだけど」
とテレビをつける。
テレビは朝の情報番組をやっている。
飯塚、テレビを見て笑って、ため息をつく。
飯塚「俺たちが何したってのかねえ・・・」
湊「たしかに」
飯塚「出社、三分の一になるらしいぞ。で、当然、給料も三分の一」
湊「ええっ」
と驚いて立ち上がる。
飯塚、テレビを見てへらへら笑っている。
湊「大変じゃないですか!」
飯塚「そうだな」
とへらへらしている。
湊「そうだなって・・・」

薫子がオフィスに飛び込んでくる。
薫子「おはようございます!」
と湊の側に駆け込んでくる。

飯塚「遅刻だぞ」
薫子「(飯塚を無視して、すごい形相で)先輩、ちょっといいですか」
湊「え?」
薫子「いいから、ちょっとこっち!」
と湊を立ち上がらせ、手を引っ張っていく。

飯塚、その様子を見ていて、
飯塚「はあっ」
とため息をついて、視線をテレビに戻す。

■休憩室(朝)

荷物置き場をかねていて雑然とした休憩室。薫子が湊の手をひき、休憩室に入ってくる。
湊「いったいどした?」
薫子「落ち着いて。とにかく座ってください」
とテーブルの前の椅子を示す。
湊「俺は落ち着いてるよ。テンパってるのはおまえのほうだ。飯塚さん無視して」
と席に座る。
薫子「それどころじゃないんです」
と湊の前に腰を下ろす。テーブルをはさんで向かい合う二人。
湊「それどころじゃないって、なにが?」
薫子「私のパパ活です」
湊「ほんとにやってんのか」
薫子「やってますよ。冗談だと思ってたんですか」
湊「うん、まさか本気で・・・」
薫子「それぐらい切羽詰まってるってことです」
と胸を張る。
湊「そんなことで威張られても・・・」
と苦笑。
薫子「それで、先輩、聞いてくださいよー。ひどいんですよ、昨日のジジイ。お茶だけでいいって言ってたのに、会ったら2万でどうだだって」
湊「2万?」
薫子「安すぎません?」
湊「それは・・・(首をひねって)わからない・・・」
薫子「ひどいっ!」
湊「だって、相場がわかんないから」
薫子「私も勉強中ですけど、でも、2万は安いと思います。私、まだ24だし」
湊「そうなの?」
薫子「そうです」
湊「それで・・・やったの?」
薫子「やってません! 侮らないでください!」
湊<穴ドル?>
とじーっと薫子を見る。
薫子「なんですか」
と湊を睨み、はーっとため息をついて、テーブルに突っ伏す。
薫子「こんなことやってる私が悪いって言うんでしょ」
湊「そうは言わないけど・・・」
薫子「2時間お茶して5千から1万。いい人にあたれば、1.5万。一日マックス4人で、2、3万ってところですかね」
湊「4人?」
と驚く。
薫子「(半身を起こしながら)4人は無茶でしたね。でも、3人ならぜんぜん普通です」
湊「そうなんだ。でも、結構稼げるね」
薫子「つらいですよ。どんな人が来るか怖いし。そんなにコミュニケーション能力たかくないのに、初対面の人と長い間一緒にいないといけないし」
湊「・・・」
薫子「だから、いやなことはまとめてやろうって、一日で何人も・・・ま、交通費も浮かせますしね」
湊「大変だね・・・」
薫子「ですよ・・・先輩」
と湊を見る。
湊「うん?」
薫子「生きていくって大変ですね」
湊「え?」
薫子「パパ活って、金持ちばっかりじゃないんですよ」
湊「・・・」
薫子「安い給料で家族を養って、おこずかいをひねり出して、で、私たちの時間を買おうとする親父もいるんです」
湊「そうなんだ・・・」
薫子「ま、だったらやらなきゃいいじゃんってことだし、あんまり同情の余地もないんですけどね。でも、同情の余地がないのは、あんなことして、こんなめにあってるこっちも同じってことだし」
とうなだれる。
湊「合ってないんじゃない?」
薫子「え?」
と顔を上げる。
湊「パパ活」
薫子「でも、お金稼がないと」
湊「それはそうだけど・・・あ、そういえば、さっき飯塚さんが言ってたけど、出社が三分の一になるって」
薫子「え?!」
と驚く。
湊「で、給料も三分の一だって」
薫子「うそ・・・やっぱり、私、がんばらないと」
と思い詰めた表情。
湊「あんま無茶すんなよ」
と心配そうに薫子を見るが、薫子は硬い表情でテーブルの表面を見つめている。

■スーパー・外観(夜)

照明がついているスーパーの外観。

■スーパー・食品売り場(夜)

買い物かごを手に店内を歩く湊。
湊<今日は久々の会社で疲れたし、肉が食いたいな~>
と肉売り場へと向かう。

湊、豚肉・鶏肉・牛肉と肉を眺めていく。
幸子「迷ってんの?」
湊「え?」
と横を向くと、すぐそばに幸子が立っている。幸子は買い物を終えたようで、ぱんぱんに膨らんだエコバッグを提げている。
湊、驚いて後ずさる。
幸子「何作んの?」
湊「え?」
幸子「肉豆腐」
湊「え?」
幸子「意外にどんな肉でもいけっから。肉と豆腐とすき焼きのタレ。これで完璧。はい」
と半額シールのはられたパックを湊のほうへ差し出す。
湊、幸子の差し出したパックを受け取る。
幸子「賞味期限今日までだけど、今夜食べるなら問題ないから」
と湊から離れていく。
湊、呆然と幸子を見送る。
湊、視線を手元に戻し、幸子から渡されたパックを見る。
湊「て、手羽先?」

■タワーマンション・外観(夜)

照明や各部屋の灯りで輝く夜のタワーマンションの外観。

■タワーマンション・瞬太の家・キッチン(夜)

キッチンカウンターに並んでいる、手羽先パック(半額シール付き)、豆腐(×2)、すき焼きのタレ。
それらをキッチンに立ち見下ろしている湊。
湊、顔が変にシリアスになっている。

湊<肉豆腐の肉って、牛とか豚なんじゃないの、確か。ほんとにいけんのか、これで>
湊の脳裏に幸子の後ろ姿が浮かぶ。幸子、こっちを振り向いて、にっと笑う。
湊<踊らされたかも・・・>

湊「とにかく、作ってみるか」
湊、鍋に油を入れ、手羽先を炒める。
湊「次は豆腐」
湊、豆腐をパックから取り出し、6分割して、鍋に入れる。
湊「で、たれだな」
とすき焼きのタレをとりあげ、
湊「肉豆腐は、タレ1対、水1か。でも、豆腐から水が出るから水は少なめで」
とボウルにたれと水をいれ、菜箸で混ぜる。
湊「なんか辛い」
と小首をかしげる。
湊、キッチンカウンターの隅にあるハチミツに目をやる。
湊「隠し味といったら」
湊、ハチミツを少しタレにたらして、混ぜる。
湊、タレを舐めて、
湊「まあ、いいでしょう」
と、タレを鍋に入れる。
湊「あとは、煮るのみ」
湊、鼻歌を歌って、ぐつぐつと煮える鍋の中身を眺めている。

■タワーマンション・瞬太の家・リビング(夜)

テーブルに湊と瞬太が向かい合っている。テーブルの上には肉豆腐。
瞬太、茶碗片手に、豆腐を口に運ぶ。

瞬太「うん、うまい。こーゆー茶色い料理、上手だね」
湊「あ、うん、ありがと」
湊<ベース全部すき焼きのタレだからな。すぐにばれそうだけど>

瞬太「手羽先の肉豆腐なんて初めてだけど、結構いけるね」
と手羽先にかじりついている。
湊「うん、俺も意外だったけど、うまいね。軟骨とか、骨回りも全部いけるし」
瞬太「ほんと。エコ、エコ」
と舐めるように手羽先を食べている。
その様子を見て微笑む湊。

瞬太「会社、どうだった?」
湊「あ、うん、出社が三分の一になった。給料もだって」
瞬太「そっか」
湊「そのぶんYouber頑張るよ」
瞬太「ムリしないでね」
湊「ありがと。俺はここに住まわしてもらって、食費も浮いて、大丈夫なんだけど、でも」
瞬太「ん?」
湊「後輩がね、そのお、パパ活を・・・」
瞬太「パパ活? 女の人が、知らないおじさんと食事したりエッチしたりしてお金もらうやつ?」
湊「あ、うん。それそれ。それをやってる後輩がいるんだけど」
瞬太「危ないよ。リスクしかない。ハイリスクローリターンだよ。すぐ止めさせたほうがいい」
湊「でも・・・」
瞬太「世の中を舐めすぎてるやつらが多すぎる。やけになったら人間なにをするか、わかったもんじゃないんだし」
湊「だよなあ。でも、俺、止めらんない」
瞬太「なんで?」
湊「代わりの仕事を用意してあげらんないから」
瞬太「・・・」
湊「危ないから止めろとか、わりに合わないから止めろとか言っても、他の仕事がない限りは絶対に止めない。隠れてでもやるだろう。だったら、話してもらってるほうが安心だろ」
瞬太「そっか・・・駿河君は大人だね」
湊「え?」
瞬太「僕なんて、自分の知識とか善意を押し付けるだけだ。相手の気持ちやお財布のことなんて考えずに」
湊「そんなことないよ。だって、榎本君は俺を助けてくれたじゃん」
瞬太「・・・」
湊「ありがとう」
瞬太、赤くなり、ごはんをかきこむ。そんな瞬太を湊が笑って見ている。

■歩道(夜)

住宅街の中の歩道を歩いている薫子。薫子、ときどき足を止め、振り向き、キッと鋭い目を後方に投げかける。薫子の後ろには誰もいない。薫子、ほっとして、足早に歩いていく。

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