変異種が見つかった南アフリカ、コロナ感染状況とワクチン
(アフリカにおけるコロナ状況その10)
世界各国でコロナウイルス感染がまた緊迫した状況を迎えています。南アフリカでは、感染力が強い疑いがある変異種が見つかりました。
「感染力が強い」という点が重要で、変異種自体はすでに各国で多種見つかっていますが、ウイルスの生き残りをかけた戦いで抜きん出た?優秀な種が生まれてしまったということでしょう。
この変異種にワクチンが効くのか、ということが日本語でも報道されています。たとえばテレビ朝日、「イギリスの専門家から南アフリカで見つかった変異種について、ワクチンが効かない恐れがあるという見方が出ています。」
根拠としている原文(こちら。制限がかかっていますが、引用してまとめているのがこちら)を読むと、このオックスフォード大学のジョン・ベル教授は、南アの変異種は「タンパク質の構造が本質的に違う」ので、「既存ワクチンで『無力化/無効化』できるかどうかは疑わしい」とし、「もしワクチンが効かなかった場合はワクチンを微調整することで対応できる、それにかかる時間は1年程度」としています。
ウイルスは生存のためにつねに少しずつ変異する存在ですから、いきなりこれまでとはまったく違う、ワクチンがまったく効かない変異を起こすのは難しいです。その前提で、南アの変異種は変異の度合いが大きく、無効化できるような効果が高いワクチンとなると、いまあるワクチンを微調整しなければいけない可能性がある、ということかと思います。
「南ア変異種にワクチンが効かない」と言われると、世界を滅ぼすような恐ろしいものへと突然変異してしまったようにセンセーショナルに聞こえますが、ウイルスとワクチンの関係からすると想定の範囲なのだとは思います。
以下の記事は、このジョン・ベル教授と同じ想定・懸念を共有しているとした上で、「変異はある程度影響を及ぼす可能性があるものの、ワクチンの効果を完全に打ち消す可能性は非常に低いと考える」としています。
つまり、ワクチンがやっと開発されて一安心したいところですが、これからも、他の感染症と同様、ウイルスとワクチン(人類)の追いかけごっこが続くということですね。ひとつのワクチンで一度にウイルスを撲滅できるわけではなく、一方でウイルスの方も、一度の突然変異ですべての免疫反応を回避(=ワクチンが全く効かない状態に)できるわけではないということでしょう。
1月8日追記: ファイザーの未査読の実験結果によると、英国と南アで見つかった変異種にもワクチンは効果が示されたというニュースが上がっています。
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南アの変異種は、いまのところ、いままでよりより症状が重症化するだとか、症状自体が違うといったことは見つかっていないようです。ただし、感染力が強い疑いがあるこの変異種のせいかどうか、明確な因果は証拠付けられていないものの、12月に入って坂を駆け上がるように感染者が急増しているのは事実です。
詳細はこちら。
12月31日がもっとも新規感染者が多く、1日で1.8万人が見つかりました。南アではクリスマスが帰省・イベントのシーズンなので、25日からその週末あたりに感染した人が31日頃に確定したという感じでしょうか。一方、31日以降は今日に至るまで減少しており、1~1.4万人/1日程度となっています。
現時点の南アの百万人あたりの感染者数は1.8万人。日本は1,900人で、英国は3.8万人です。
致死率については、累積死亡者数/累積感染者数で出した数値は2.4%のままで、変異種発見以前とそう変わりません。ただし、直近の数値として、たとえば「この1週間の死亡者数」/「2週間前の1週間の新規感染者数」(仮に「直近致死率」と呼びます)で算出すると、4.5%となります。低くない数値です。
ただ、この数値も、12月13日-19日の週に5.7%となって以来、下降し続けています。
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クリスマスから年末年始の帰省・イベントシーズン、アフリカの他の国でも感染者は増えているんですよね。。行動のせいでしょうか、変異種のせいでしょうか。それとも両方か。。
人口2億人を抱えるナイジェリア。百万人あたりの感染者数はいまでも455人と非常に少ないですが、12月以降、新規感染者は激増しています。
基本クリスマスは関係ないエジプトでも、なぜか増えています。エジプトの直近致死率は10.2%に上っており、アフリカで最も高いです。
でも、ケニアは激減し、第2波が終了しました。ケニアもクリスマスが一大休暇シーズンなのですが。。むしろケニアのこの減少の方が不思議な現象です。
アフリカ大陸全体での新規感染者の推移は以下のグラフをみてください。最初に感染者が見つかった2月のDAY 1から今年1月2日までの推移です。第2波の感染者数が、7月の第1波をすでに超えています。
大陸全体での直近致死率は3.3%。累積の致死率は2.4%ですから、致死率はいま、これまでより高くなっていると言えそうです。
なお、日本の直近致死率は1.4%、英国は2.4%です。うぉっ、アフリカ、英国より高いぞ。。ただ、アフリカ全体の1週間の死亡者数の6割以上を南アフリカ1カ国が占めていますので、南アの数値の高さで説明できそうです。
こちらの(6)感染状況の国別基礎データにあるように、他の国の直近致死率はとても低いです。アフリカが高いのではなく、南アが高いといえます。
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南アフリカの人口はアフリカ全体の5%しか占めていませんが、累積感染者数、累積死亡者数は約4割を占めます。つまり、「アフリカのコロナ感染」として見る数値の4割は、南アの数値なのです。
なぜ南アだけでこのように感染者数・死亡者数が多いかについては、肥満が多いことやこれまでのワクチン接種歴など、さまざまな説があります。
実は、医療と研究機関の水準が高く整っていることもひとつの理由かもしれません。南アは世界で最初に心臓手術が行われたことで有名ですが、私立病院の医療水準は先進国並みではないでしょうか。南アの私立病院には、英国でも病院を展開しているところもあります。感染対応の経験も蓄積がある国です。
だからこそ、感染者を捕捉できており、変異種も発見できたという仮説です。南ア以外では、ナイジェリア(こちらも感染症の研究については比較的先を行く国)で変異種発見が報告されましたが、他ではまだ見つかっていません。
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感染者の増加に伴い、アフリカ各国は規制の強化を進めています。南アには独自に設定している「警戒レベル」があります。警戒レベル1まで緩められていたものが、12月29日から3へと引き上げられました。外出時間や集会、アルコールの販売などについて制限が加えられます。
ただやはり、感染拡大当初に行ったような「昼夜ともに外出禁止・自宅待機で、都市間の移動も禁止」という非常に厳しいロックダウンには、もう戻れません。日本と同じく、非常事態が日常事態になったいまでは、何度もロックダウンをやるのは社会が許さないでしょう。
人口5,800万人の国で、1日1.8万人の感染者がでて500人近い人が亡くなるというのは、深刻な事態と言えます。南アの交通事故死がたしか年間1万人ほど。コロナの死亡者はすでに累積2.9万人となりました。
それでも、これからは、日常活動や経済活動を維持して体力を蓄えながら、必要最小限の規制を行っていくことになるでしょう。文頭に書いたように、ウイルスと人類(ワクチンや感染防止策)で追いかけごっこをしながら、少しずつましな状況に近づいていくというのが現実的なシナリオです。長期戦です。
感染が拡大するのを恐れ、南アからのフライトの着陸を禁止したり、南アからの入国には検査や隔離など条件をつける国がでています。ただこの規制も、それほど長くは続かないでしょう。オランダなど、すでに解除した国も見られます。
アフリカのコロナウイルスの感染状況および行動規制・入国規制については、こちらで毎週発表しています。
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ワクチン接種は、世界29カ国で開始されたとのことですが、アフリカでは進められているのでしょうか。まだどの国も開始はされていません。南ア政府は2021年末までに国民の67%に接種を行うと発表していますが、製薬会社との契約は完了していません。南アには有力ジェネリック医薬品メーカーがあるため、アストラゼネカとジョンソン&ジョンソンについては現地工場でワクチンを製造する準備が進められています。
追記(1月20日): 南アが、ワクチンのあてをつけたことを明らかにしました。
ファイザーは、アフリカの医療従事者向けへの5,000万のワクチン供給を3月から開始します。エジプトは中国Sinopharmのワクチンを承認しました。アフリカ疾病予防管理センター(Africa CDC)は各国に公平にワクチンを分配するための仕組みづくりを進めています。ケニアでは1月末からワクチン接種を開始するとメディアが報じています。
追記(1月11日): セーシェルで、アフリカで初めてコロナのワクチン接種が開始しました。以下をご覧ください。
ところで、実際にワクチン接種が始まったとして、あなたなら接種するかという質問を含む世論調査が世界で行われました。南アの「接種する」の比率は、53%と低いです。
ただ、日本も60%と、低い部類に入っています。また、どの国も、10月(グレー)から12月(青)で接種意向の低下が見られます。
接種をしたくない理由についてはこちら。日本は「副作用が心配だから」が76%、南アも65%あります。南アでは、「もともとワクチンには反対」が23%と他の国より高めです。
まだワクチン接種は始まったばかりなので、周囲に接種した人がいるわけでもなく、半信半疑/よくわからないという感覚だからかもしれません。私もいま接種するかといきなり聞かれたら、もうちょっと後にするというかも。
ワクチンが国に割り当てられて、購買するための費用が用意できて、配送や供給の仕組みが作られ、人々に説明と説得がなされ、接種の仕組みができて。。と、ワクチン接種が進むための道のりは長いです。
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最後に、いま、アフリカで人々は、コロナに対してどんな受け止め方をしているのでしょうか。都市部の多くの人はマスクをし、以前より手洗いに気をつけて暮らしているものの、当初の恐れや非日常の感覚は薄れ、それより日常生活のことがが頭を占めるといった状況かと思います。
先日、乗車したタクシーのドライバーさんと、南アで変異種が見つかったという話をしていました。心配だね、ほんと心配だよ、と言い合ったのですが、私の心配は「感染しないか」どうかだったのに対し、彼の心配は「経済が悪化しないかどうか」でした。
ケニアにおいては、8月頃から経済が動き、10月頃から外国人が戻りはじめて、ようやく元の8割程度には経済活動が戻ってきたところなのです。1月からは学校も始まります。
なお、日本からの駐在員の人たちは、3月末~4月に一斉に日本に戻ったあと、10月頃からじょじょにケニアに戻ってきました。ケニアはPCR検査を乗降前に受けていれば入国後隔離の必要がないこともあり、10月以降は企業の出張者の方もぼちぼち見られました。
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南アで、感染者や致死率が下がる傾向が見られているのは嬉しいことです。しばらくは、こうやって減ったり増えたりするのを把握しながら、都度対応をとっていくしかできることはありません。今後もアフリカのコロナの感染状況をこちらのサイトでお知らせしていきます。