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アフリカと貿易(2)貿易相手国とアフリカ大陸自由貿易圏協定

今年2020年は、アフリカの通商貿易上、重要な案件が多く控えています。前回とりあげた英国のEU離脱はそのひとつ。

EUのみならずアフリカも、英国と貿易協定を結び直します。米国との間では、AGOAの2025年の失効に向けた動きが始まっています。これについては後日また書きたいと思います。

さらに、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA:読み方はエーエフシーエフティーエー)協定の運用が控えます。アフリカは全部で55の国・地域がありますが、そのうちエリトリアを除く54カ国・地域がすでに署名を終え、AfCFTAは昨年7月に「正式に実行段階へと入った」ことが宣言されています。いまは実行機関が具体的な内容を詰めており、今年2020年7月1日から、「アフリカ版EU」と言われるAfCFTAの元での貿易が開始されることになっています。

追記(2021年1月25日):
アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定がとうとう運用を開始しました。コロナの影響により、7月から1月に運用が開始されたあと、無事1月1日に開始されたものです。

運用が開始されたとはどのような状態か、今後何が変わりそうか、また、日本企業にとってどんなメリットがありそうか、こちらにまとめました。


このAfCFTAは、アフリカ域内での関税を段階的になくして、域内で貿易・サプライチェーンを成立させて(一次産品でなく)付加価値を高めた製品を輸出できるようになることで、グローバル経済におけるアフリカのポジションを向上させ、貿易不均衡を是正することを目的にしています。米国や英国、EUといった外部に対して交渉力を持とうとするものであるともいえます。

ただ、このAfCFTAが、すぐに運用され、7月から関税なしでアフリカ内で輸出入ができるようになるとは、実は誰も思っていません。なぜなら、アフリカにはすでに地域別に多くの経済共同体が存在していますが、その多くがあまり機能していないからです。

機能していると言えるのは、南部アフリカのSADC、東アフリカのEAC(のケニアとウガンダ間)、通貨を共有している西アフリカのUEMOAの一部、またCOMESAの一部くらいでしょう。よくアフリカには経済共同体があるからマーケットサイズは大きい、というスライドを目にしますが、経済共同体が運用されるためには、物流が可能なインフラ(つまり道路)があり、片方の国の欲しい物をもう片方が供給できる関係(つまり需給・産業の違いと経済格差)があり、国家間が政治的にうまく行っている、という3条件が揃うことが必要なのです。

現時点のアフリカの域内貿易比率は15%とされています。残りの75%はアフリカ大陸以外の国との貿易です。

では、具体的にどこの国との貿易が多いのでしょうか。輸出・輸入におけるアフリカそれぞれの国の最大相手国をみてみましょう。

アフリカ各国における輸入相手トップ国(2019年版)

輸入map

赤色は、中国からの輸入が最も大きい金額を占める国です。中国は強い、とても強いです。また、この赤く塗られた国は、アフリカの主要な経済国とイコールである点が、また強いです。

2017年にも同じ地図を作っているのですが、そのときはこんな感じでした。ケニア、ウガンダ、タンザニア、コートジボワールといった国でトップが中国に入れ替わっています。港を持つ沿岸の経済国(角)を取られて、オセロならばもう勝負がついているといってよいところです。

アフリカ各国における輸入相手トップ国(2017年版)

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さきほど書いたアフリカ内の経済共同体が、どこで成立しているかも見ることができます。南アフリカの周辺国(ナミビア、ボツワナ、モザンビーク、ジンバブエ、ザンビア、マラウイ、レソト、エスワティニ)はどこも南アフリカからの輸入がトップです。いずれもSADC加盟国です。

輸出についてはこんな感じです。

アフリカ各国における輸出相手トップ国(2019年版)

輸出map

輸出の場合は中国一辺倒というわけではなく、それぞれの国の強い輸出品に応じた相手国となっています。ナイジェリアやガーナといった産油国の最大輸出先はインドです。

域内貿易の様相も見られ、ケニアの輸出先はウガンダで、ウガンダの輸出先はケニア、タンザニアの輸出先はルワンダで、セネガルの輸出先はマリ、トーゴの輸出先はブルキナファソです。ただ、地図でみてもらうとわかるように、これらはほぼ、港がある国からの内陸輸送ですね。

いわゆる旧宗主国といわれる国のうち、フランスは西アフリカの主要国でトップの貿易相手ではなくなっており、イギリスをトップとする国は輸入・輸出両方でゼロとなっています。

米国も、輸入で1カ国、輸出で3カ国で登場するのみです。

アフリカにとって、主要な貿易国はすでに、フランスでもイギリスでも米国でもなく、中国となっています。英国のEU離脱やAGOAの失効よりも、昨今の新型コロナウイルスの方がアフリカの経済に大きな影響を与えるかもしれません。実際、現在アフリカのほとんどの国では中国とのダイレクトフライトを中止しているため、中国との輸入・輸出が滞っているものもあるようです。

とはいえ、この地図は最大相手国のみをピックアップしたものであり、2位以下にはフランスも英国もアメリカも登場します。

英国のEU離脱により、花卉や野菜を輸出し英国が5位の輸出先であるケニア、ビジネス上の関係が強く英国が輸出4位、輸入8位の相手先である南アフリカ、英国が輸出相手として6位であるエジプトなどでは、新たな貿易協定をどう有利に安定的に結ぶかが課題となります。

今月、ケニアが米国との二国間貿易協定締結に向けた協議の開始を発表していましたが、米国もケニアにとっては輸出先第3位の重要な相手です。

なお、このケニアの動きは、当初はAfCFTAとしてアフリカが一体となって米国と交渉しようと言っていたのにケニアが抜け駆けしてしまったもので、いまアフリカ内でちょっと揉めています。54カ国もある政治も経済構造も人口規模も地理も歴史も宗教も気候もカルチャーも違う国々の間には、さまざまな思惑があり、なかなか一枚板というわけにはいかないのです。AfCFTAが実行段階に入ったとはいえ、実際に実行するまでは時間がかかるだろうと予想されているゆえんです。

以下のリンク先では、地図の元となっている数値をまとめています。アフリカ54カ国で、輸出・輸入の最大相手国と輸出・輸入額およびその占有率を一覧にしていますので、もう少し詳しく知ることができます。

2017年版についてはこちらからご覧になれます。


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