理想のアイドル契約書

こんにちは。

#でぃんぷるっというアイドルグループをプロデュースしております、emo-lab.代表の東海林健と申します。

アイドル業界を良くしたいとの思いから再開したアイドル運営。
気づけば初めてから10ヶ月近くが経とうとしております。

本記事では、emo-lab.で実際にアイドルメンバーと契約しているアイドル契約書を公開します。なぜなら、これは私が弁護士とともに検討した、価値ある契約書だと思っているからです。

これを私は「理想のアイドル契約書」(以下、モデル契約書)として世に発信し、アイドル自身が自分を守るため/運営が効率的に立ち上げを行うことに貢献しようと考えています。

※この後より私が用いる"運営"には、事務所も含まれております

"理想のアイドル契約書"が果たせる役割

アイドル自身が自分を守るために…ポイント①:アイドルの「自己決定権」の尊重


公開する契約書の価値は、現在のアイドル業界一般の動向からみれば、比較的タレントファーストであることに尽きます。比較的といっているのは、私の現在の認識でいうと、アイドルよりも運営の決定権が強く、アイドル側の自己決定権が尊重されていないのではないか?との課題意識を持っております。

一例をあげましょう。いわゆる「繋がりによる罰金制度」です。果たして、これは正当な判断なのでしょうか?
私は法律の専門家ではないので判例にあたるしかないのですが、「骨董通り法律事務所」記事によれば、2016年1月における裁判例より以下の通り述べられています。

この判決(注-2016/1 アイドルの恋愛(交際)禁止違反に基づく、マネジメント側からの損害賠償請求訴訟 @東京地方裁判所)では、「(恋愛感情)の具体的現れとしての異性との交際、さらには当該異性と性的な関係を持つことは、自分の人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権そのものであるといえ、異性との合意に基づく交際(性的な関係を持つことも含む。)を妨げられることのない自由は、幸福を追求する自由の一内容をなすものと解される」と述べました。その上で、「少なくとも、損害賠償という制裁をもってこれを禁ずるというのは、いかにアイドルという職業上の特性を考慮したとしても、いささか行き過ぎな感は否め」ないとの理由により、アイドルが異性と性的関係を持ったことを理由に事務所が損害賠償を請求できるのは「(アイドルがマネジメント側に)積極的に損害を生じさせようとの意図を持って殊更これを公にしたなど、(マネジメント側に対する)害意が認められる場合等に限定して解釈すべき」という判断基準を示し、本件はそのような場合にはあたらないとして、損害賠償請求を退けています(ただし、交際禁止条項が一律に無効であるとまでは断定していないようです)。

骨董通り法律事務所「『恋愛禁止違反で損害賠償』!?~最近の二判決から考える~」

繋がりというのは、確かにこれまでタレントに対し多額の投資を行ってきた芸能事務所側からすれば、それによりファンを失ってしまえば損失でしかありません。ですが、繋がり(≒恋愛)とは、上記記事でも指摘されているように、(大きな枠組みから語りますが)憲法上幸福追求権として保障されている権利です。裁判ではこの理由から、損害賠償請求が退けられています。
現在の判例上では、「恋愛禁止条項を設けることは妥当だが、損害賠償が認められるのは、当該アイドルがマネジメント会社に損害を与える目的で故意に公表した場合などに限られる」がどうやら一般的なようです。

最近も話題になったとある事務所では、こうした繋がり事由に対して、数百万程度の請求を行う誓約書を結ばせていたことが話題になりました。業界の一般的な感覚では「やりすぎ」と言われていますが、本当にこれが「ヤバいこと」であるという感覚が共有されているか私は怪しいなと思うことがあります。

本件では、恋愛という自己決定権(幸福追求権)が侵害された事例をあげました。他にも、性的な自己決定権など、アイドル活動で極めてセンシティブな権利はいくつか存在します。これらは守られるべき権利であるにも関わらず、しばしば無視されてしまうケースが見受けられるが故に、モデル契約書を作成/公開することでこうした行き過ぎた事例を防ぐことが、本記事の根本にある課題意識です。

アイドル自身が自分を守るために…ポイント②:ダメな運営を識別する

契約書とは、当然ルールであり、そのルールの決め方に各運営の思想が表現されているはずです。

私が今回示す契約書も、私の「アイドルの自己決定権を尊重したい」という思想が入っております。その意味では、一般的な感覚からいうと書きすぎな契約書であると言われるかもしれません。

ですが大事なのは、モデル契約書の観点を、各運営が理解できるかどうかです。理解した上で自分たちの契約書に重要なポイントが外れていれば修正する、あるいは、外れている理由を説明する、そういったマネジメント観点から至極当然の「説明責任(Accountability)」を果たせる運営かどうかをチェックする材料になります。

例えばこの契約書を運営に見せたとき、「良く分からない」といって有耶無耶にされたり、説明なく一方的に要望を反映しないことがあるとすれば、その運営とは今後もそういった場面に何度も直面するでしょう。

この意味で、本契約書及びこれを介したコミュニケーションは、そういった話の通じない運営の元で稼働するリスクを抑えることに必然的に繋がると考えています。

運営が効率的に立ち上げを行うために…ポイント③:この契約書を締結すれば立ち上げがすぐに出来る

アイドル運営を新しく始めたいという方が悩むポイントの1つに契約書の準備があげられます。
残念ながら、今はGoogle等で検索しても、こうしたモデル契約書はヒットしません。つまり各運営が独自に都度都度契約書を締結していることとなります。
昔から思っているのですが、この業界は知が共有されず本当に非効率です。

従って、本契約書をモデルとすることで、立ち上げにかかるコストを少しでも抑えることが可能となると考えます。
#とはいえ、契約書の中身はよく理解した上で、運営は進めて下さい

"理想のアイドル契約書"の使い方

本記事でご紹介するモデル契約書の使いかたをご紹介します。

まず、これからアイドルになりたい方は、この契約書を事務所の提示する契約書と見比べてみてください。契約書とは大抵小難しいことが書いており、ましてや18歳~20歳のオトナにはなおさら難しいものかと拝察します。なので、以下紹介するモデル契約書の重要ポイントだけでも、比較してその項目の有無とどう規定されているかの違いを確認してください。
ちなみに、契約書を提示してこない事務所は論外ですので、入られるのはやめた方がいいいかと思います。

次に、今アイドルをやっている方も、ぜひ現在かわしている契約書と見比べてみることをお勧めします。契約書には期間が定められており定期的に更新が行われます。従って、確認した結果自分に不利な内容が少しでもあるなと見受けられた場合、更新タイミングで事務所側に指摘をしてみることをお勧めします。

最後に、これからアイドル運営をやりたいと思っている方は、どうぞこの契約書をそのまま用いて下さい。この契約書に書いていることを守っている限りは、比較的良き運営になれると思います。後ほど説明しますが、運営側の故意・過失についても規定をしており、自身の失敗に対しても責任をとる契約書となっています。つまり、この契約書は、ありがちな運営の怠慢・覚悟不足による失敗に対して、牽制球を投げる役割を持っております。

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前置きが長くなりましたが…

本モデル契約書がアイドル/運営の双方にとって有意義に活用されることを願ってやみません。ここに書いていることを双方が守れば、きっと互いに信頼し合えるよきパートナー関係を結べると考えます。

では、早速モデル契約書をご紹介していきます。

※以下、甲乙の定義は、
甲=アイドル運営
乙=所属タレント(アイドルメンバー)

マネジメント契約書第1条:マネジメント業務の委託

第1条(マネジメント業務の委託)
1.乙は、甲に対し、全世界において、独占的に、乙のアーティスト活動に係わる企画・立案業務、広告・プロモーション業務、出演交渉業務、契約書類の作成・締結業務、その他これらに付随する業務を委託するものとし、乙は、本契約期間中、協議の上、甲の指示に従い、甲または甲の指定する第三者のためにアーティスト活動を行うものとします。ただし、乙は、乙又は乙の親族の重度の体調不良、冠婚葬祭、乙の性的自己決定権を侵害し得る仕事(グラビア撮影、アダルトビデオの撮影・出演を含みますが、これらに限られません。)であることその他客観的にみて正当な理由がある場合、甲の指示を拒絶することできるものとします。
2.甲及び乙は、グループの価値を毀損する行動(正当な理由が存在しないにもかかわらず、乙のファンと私的に交流を持ち、又は金銭の授受を行うことを含みます。)を行わない義務を負うとともに、甲の下で前項の業務を行うスタッフ、(グループ名に所属する乙以外のメンバー、ライブ活動を行う劇場等のスタッフその他乙のアーティスト活動において甲及び乙と直接関わりを有する個人又は法人からの信頼を保持する行動(度重なる遅刻、無断欠勤、虚偽の報告をしないことを含みますが、これらに限られません。)をとる義務を負うものとします。
3.乙は、乙のアーティスト活動に関し、甲の事前の書面(電磁的記録による方法を含み、以下同様とします。)による承諾なく、第三者との間で契約その他合意を締結することができないものとします。
4.乙は、第三者より乙のアーティスト活動に関する依頼を受けた場合、甲に速やかに通知するものとします。

ポイント1:基本的な思想はアイドル業務を独占的に、メンバーが運営に委託するという考え方

小難しい言葉が多数なので、解説します。

これは恐らく業界スタンダードな発想だと思われますが、簡単にいえば、「アイドル自身が、自分を世の中に売り込む方法を、基本的に運営に委ねますよ」という考え方に基づいております。これが「マネジメント」(もっというとプロデュースも含まれます)の定義です。

運営の仕事とは、もっと砕けていえばアイドルメンバーを有名にして売れるようにすることです。そのやり方は基本的に運営に一任されているよ、というのが本規定でございます。

とはいえ、全て運営の指示に従えというのは、いささか乱暴だと思いますし、そのスタンスでアイドルと臨む運営というのは、あまり良い未来が訪れないと経験則的に考えます。(プロデューサーがカリスマであれば別ですが…)
従って、直後に、「協議の上」という言葉を追加しています。

ここはバランスもあり難しいところではありますが、、、「基本スタンスは運営が独占的に色々決めるけども、場合によっては協議は行う」ということです。この辺りのバランス感覚は、運営の手腕です。

ポイント2:明確な拒否権条項

本項目は、特にアイドル側にとってかなり重要な項目だと思います。

アイドル業界でたまに見られる「親族の葬式なのに無理やりライブをいれられた」とか「枕営業を強要された」みたいなケースを防ぐために、親族の重度の体調不良/冠婚葬祭/性的自己決定権を守る場合には、運営の指示を明確に拒否できることを示しています。これに関しては、強制力を持った指示は運営側からは不可能です。

ぜひお手元の契約書にこうした規定があるか確認してみてください。

ポイント3:アイドルの守らないといけない義務

本契約書では、アイドル側がやってはいけない行動として、

1.グループの価値を毀損する行動
2.信頼を保持しない行動

の2点を定義しています。1の中で所謂「繋がり行為」を規定しており、従って繋がりは「グループの価値が落ちる」観点から明確に禁止としています。2は遅刻だとか、いわゆる社会人であれば当たり前のことです。

最後に、3項/4項については、これは引き抜き行為や急に他の事務所に所属することを禁止している条項です。
例えば、最近ですとコンカフェ兼業アイドルが増えています。兼業することを禁止してはおらず、兼業する場合は事前に相談して承諾をもらってねと言っております。
世の中には恐らく兼業自体禁止にしている契約書もあると思いますが、個人的な考えとしてはそれは活動の制限としてやりすぎかなと思います。
#この辺りは競業避止義務の観点から理解できなくはないですが…本当に競業?と思ってしまいます。

マネジメント契約書第2条:権利の帰属

第2条(権利の帰属)
1.本契約期間中に乙のアーティスト活動から生じた全ての知的財産権、パブリシティー権および所有権(以下、「権利等」といいます)は、甲に原始的に帰属し、または乙ならびに(グループ名)の業務執行組合員(選任されていない場合は、組合員たる乙が同意を行う義務を負うものとします。)が甲に包括的に譲渡する(著作権法第27条および第28条に規定する権利の譲渡を含みます。)ものとします。
2.乙は、甲または甲が指定する第三者に対し、著作者人格権及び実演家人格権を行使しないものとします。
3.甲は、第三者に対し、第1項に基づいて甲が有している権利の一部または全部を利用許諾または譲渡することができます。

本条項は、ポイント1と同じ考え方です。運営が独占的な以上、権利関係(楽曲など)は運営に帰属するという考え方です。

著作者人格権及び実演家人格権については、ここでは行使しないものと規定しています。
ただし権利を考えるのであれば、アイドルにクリエイティブを任せる場面(チラシ制作、動画制作など)があれば、個別に契約を立てた方が望ましいと考えるのが妥当かと思われます。

3項は、例えばアー写をイベンターさんにお渡しするときなどが分かりやすいでしょう。基本的に運営がアー写等を他人に渡す行為をアイドル側は制限できません。(それをされると運営が回らなくなります)

マネジメント契約書第3条:報酬

甲は、乙および(グループ名)のアーティスト活動により発生する報酬その他第三者から受領する一切の対価は、甲に帰属するものとします。

報酬についてですが、一旦全て運営に帰属するという考え方です。この後、その分配について規定します。

マネジメント契約書第4条:報酬

1.甲は、乙に対し、本契約の基づく報酬として、乙の売上(なお、(グループ名)の売上との区別について疑義が生じたときは、甲及び乙の協議の上、決定するものとします。)の合計金額のXX%の金額を支払うものとします。
2.乙は、本契約に基づく義務の履行のため要する費用として、交通費その他甲が別途定める費用を支払うものとします。
3.甲および乙は、前2項の規定による支払日、支払方法その他必要な事項について、協議の上定めるものとします。

ポイント4:報酬体系については基本バック率が規定されている

アイドルメンバーに対する報酬の考え方は、メンバーが稼いだ売上のうち各事務所規定の割合をバックするという仕組みです。これも業界スタンダードだと思います。
事務所によっては固定給のケースもあるので、その場合は含まれません。

なお交通費をモデル契約書では規定しております。個人的意見としては義務履行のための交通費支給は当然かなと思います。ここも(特にアイドル側は)確認された方がいいかと思います。

マネジメント契約書第5条:氏名等・芸名等の使用

1.甲は、乙の氏名、略称、写真、肖像、筆跡、経歴、手形その他乙に関する一切の事項(以下、「氏名等」といいます)を無償で使用することができるものとし、乙は、甲または甲の指定する者以外に乙の氏名等を利用させてはならないものとします。
2.乙は、氏名等の財産的利用の方法について、甲との協議の上、甲の指示に従ってアーティスト活動を行うものとします。
3.乙の氏名等の財産的利用によって発生する全ての権利は、全世界において甲に独占的に帰属し、甲は、これを自由に処分または利用することができるものとします。
4.乙がアーティスト活動において用いる(メンバー名)との芸名及び(グループ名)とのグループ名(以下、「芸名等」といいます)に関する一切の権利は、甲に帰属するものとします。

こちらも基本的に第1条並びにポイント1で述べた考え方に基づいております。
アイドルの氏名(芸名)、写真をはじめとした肖像は、運営に帰属するというものです。2項では、これらを使って何かを活動するときは相談してね、ということも加えております。

マネジメント契約書第6条:SNS等の取扱い

1.乙は、甲に対し、Instagram、Twitter、YouTube、TikTok、Showroomその他SNSおよび動画配信プラットフォームにおいて、乙ならびに(グループ名)が開設したアカウントにつき、ログインに必要なID、パスワードその他情報(以下、「アカウント情報」といいます。)を開示するものとする。
2.甲は、前項の規定により乙から開示を受けたアカウント情報について、投稿及びダイレクトメッセージその他第三者との間の連絡ならびに金銭の授受の内容の確認の目的で使用し、乙又は(グループ名)のした投稿の削除の目的で使用しないものとします。
3.甲は、本契約終了後第4項に定める全ての支払いが完了したときは、遅滞なくアカウント情報を破棄するものとします。

ポイント5:アイドルの投稿は運営は削除できない/アカウントは辞めてからも使える

様々な運営が様々なやり方を取っているとは思いますが、これはどちらかといえば運営の立場から、SNSは管理した方が良いと思います。管理とは、ID・パスワードを把握し、いつでもログインできる状態とし、書き込み及びDM等のやり取りをチェックしておくということです。

私がよく分からないのはこうした管理を行っておらず、いざSNS経由での繋がりが発生した際に、アイドル側を一方的に責める運営です。管理も運営の立派な仕事だとすると、こうした場合での繋がりの落ち度は、割合はどうであれ多少は運営にあります。

ただし2項で、削除権限まで認めていないことがポイントです。ここは非常に悩んだのですが、アイドル側の立場から、例えば運営にとって都合の悪い情報をツイートされたときにそれを削除するまで権限を与えられないと考え、このような記載をしました。表現の自由の観点からです。それが運営にとって名誉を毀損するようなものであれば、続きは法廷で争えばいいかなと思います。

また3項にある通り、契約解除後はアカウント情報(アカウントそのものではありません要注意)を破棄することを明記しております。これも結構大事なプロセスでして、運営によっては、契約解除のち該当アカウントを継続して使わせない場合があります。これは私からすると「やりすぎ」かなと思います。当然グループの力で増えたフォロワーも多数いると思いますが、そのタレント自身の活動の積み重ねがフォロワー数の大部分を占めているでしょう。それを一方的に運営が使わせないようにするというのは、権限が強すぎると判断しました。

マネジメント契約書第7条:契約期間

第7条(契約期間)
1.本契約の有効期間はXXXX年X月X日よりXXXX年X月X日までのX年間とします。ただし、本契約の期間満了のXか月前までに甲または乙より文書による反対の意思表示のない限り、本契約は自動的にX年間延長し、その後も同様とします。
2.本契約が終了した場合であっても、第3条、第4条、第6条第3項、本項、第9条、第11条、第13条については、なお有効に存続するものとする。

ここは一般的な契約期間の定めです。だいたいですが1年契約のケースが多いと思います。

ポイント6:辞めたあとに他事務所への移籍を制限する項目に要注意

一時期大手事務所で話題になりましたが、アイドルを辞めたのち、他グループや他事務所への移籍を制限する項目がある場合要注意です。

問題になった事務所や私が聞いた範囲では、2年の縛りがある場合が多いです。考えて欲しいのですが、いくらアイドルの育成費用がかかったといえども、2年間も制限されるのは本人にとって致命的な痛手を負います。

従って、こうした項目がないかを確認することを強くお勧めします。

マネジメント契約書第8条:事前の承認

乙は、本契約上の乙の義務の履行に関して、影響を及ぼし、または影響を及ぼすおそれのあると甲が認める契約を乙が第三者と締結する場合は、事前に甲の書面による承諾を得るものとします。

ポイント7:アイドル側の過度なアルバイトや金銭トラブルを防止する

本項目は、運営側目線での規定です。すなわち例えば週5勤務を要求するアルバイトと勝手に雇用契約を結ぶなということを規定しております。当たり前ですが週5日でアルバイトをされたら、アイドル活動が回るわけがありません。

またそれ以外にも、高額な商品を購入し多額の債務を負うようなケースも事前承認が必要と考えます。ましてや月給が十分でないアイドルの場合、高額商品の購入などで自身のお金がなくなった場合、最悪の場合パパ活や風俗店などの稼ぐ手段に走ってしまう場合もあり、それが世の中にバレるとグループの価値が毀損してしまいます。

当然本規定は、どこまで法的拘束力を持つかは曖昧です。契約の自由を、マネジメント契約の中で制限できるかというのはあります。なので、あくまで事前の承諾(相談)という形で規定しております。

マネジメント契約書第9条:秘密保持

甲及び乙は、本契約の遂行により知り得た相手方の技術上または営業上その他業務上の一切の情報(以下、「秘密情報」といいます。)を、相手方の事前の承諾を得ないで第三者に開示又は漏洩してはならないものとします。ただし、以下の各号に定める情報は、秘密情報に含まれないものとします。
(1)開示を受けた際、既に相手方が保有していた情報
(2)開示を受けた際、既に公知となっている情報
(3)開示を受けた後、相手方の責めによらずに公知となった情報
(4)正当な権限を有する第三者から適法に取得した情報
(5)相手方から開示された情報によることなく独自に開発・取得していた情報

ここでは一般的な秘密保持の規定を入れています。

余談ですが、繋がり解雇時に、契約書に繋がり違反を定義していない運営は、しばしばこの秘密保持違反でアイドル側を罰するそうです。

私自身、こちらの方が理にかなっていると思います。例えば繋がったメンバーが他メンバーの悪口を繋がったオタクさんに伝えてしまい、そのオタクさんが周りのオタクさんにバラしてしまうケース…なんていうのも本当によく聞きます。

第1条で規定していた義務違反としての繋がりより、こちらの秘密保持違反の繋がりの方が明確に悪質です。「繋がった」という事実以上の情報を世の中に広めてしまっているからです。

これを読んでいるアイドル(ないし候補)の方は、どうぞ繋がっても自身のグループの情報をオタクさんに伝えないようご注意ください。
#オタクさんはすぐにしゃべります。なのですぐに繋がりもバレます。

マネジメント契約書第10条:反社会的勢力との取引排除

1.甲及び乙は、それぞれ相手方に対し、次に定める事項を表明し、保証します。
(1)自己が、暴力団、暴力団関係企業もしくはこれらに準ずる者またはその構成員(以下、総称して「反社会的勢力」といいます)でないこと
(2)自己が、反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この契約を締結するものでないこと
(3)自己が、反社会的勢力に資金等の提供、便宜の供給等、反社会的勢力の維持運営に協力又は関与しないこと
(4)自己又は第三者を利用して、本契約に関して相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為をしないこと
(5)自己又は第三者を利用して、本契約に関して偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、または信用を毀損する行為をしないこと
2.甲又は乙は、相手方が前項に違反したと認める場合には、通知、催告その他の手続を要しないで、直ちに本契約の全部または一部を解除することができるものとします。
3.前項の規定により本契約が解除された場合、解除された者は、その相手方に対し、相手方に発生したすべての損害を直ちに賠償するものとします。
4.第2項の規定により本契約が解除された場合には、解除された者は、解除により生じる損害について、その相手方に対し一切の請求を行わないものとします。

本条項も、一般的な反社との取引排除条項です。

これは運営側の立場から申し上げることですが、日常的に反社勢力がいないか、彼らと付き合う形になっていないか、注意しながら運営を進めることをお勧めします。
具体的なことを申し上げるつもりはないですが、反社情報というのはかなりの頻度で噂に聞きます。そうしたケースの場合は、該当団体と取引をしないことが自衛のために懸命だと思われます。
ましてや小規模事務所に与信の仕組みなんて存在しません。意識的に避けることが重要だと思います。

マネジメント契約書第11条:契約違反

第11条(契約違反)
1.甲または乙のいずれかが本契約に違反した場合、他方当事者は相当の期間を定めて催告のうえ、それでもなお当該違反が是正されない場合には、本契約を解除することができます。
2.前項の契約違反をした者は、相手方に対し、本契約の違反及び前項による本契約の解除によって生じた損害を賠償する義務を負うものとします。ただし、契約違反をした者が故意または重過失がないことを立証した場合は、乙の売上の過去3か月分の合計金額を損害賠償額の上限とするものとします。
3.甲および乙(ただし、第5号の事由については、甲に限るものとします。)は、相手方に次の各号に定める事由のいずれかが発生したとき、何らの通知催告を要せず、直ちに本契約を解除することができるものとします。
(1)支払停止又は支払不能に陥った場合その他財産状態が悪化しまたはそのおそれがあると認められる相当の理由がある場合
(2)手形交換所の取引停止処分を受けた場合
(3)差押、仮差押、仮処分若しくは競売の申立てまたは公租公課の滞納処分を受けた場合
(4)破産若しくは民事再生手続開始の申立てをされ、または自ら申立てをした場合
(5)相手方に対し、セクシャルハラスメント、パワーハラスメントその他一切のハラスメント行為を行った場合
(6)その他前各号に準じる事由が生じたとき
第12条(権利義務の譲渡)
乙は、甲の書面による事前の承諾を得た場合を除き、本契約上の地位および本契約に基づく権利若しくは義務を第三者に譲渡し、承継し、または担保に供してはならないものとします。

ポイント8:契約違反時であっても治癒期間は設けられるべき

1項にある通り、契約解除に至るまでには、相当の期間における治癒(契約違反状態を解消すること)への努力が認められるべきです。これは運営もアイドルも同様です。

例えば、アイドルの繋がりであれば相手方との関係解消、運営の給与未払いであれば給与の支払いなどがこれにあたります。

ちなみにこの期間とは、状況にもよりますが1ヶ月程度が妥当かなと思います。交渉次第ですが、やはりこれは双方とも認めてあげるべきです。信用回復のために誠実に行動する限りは、どんなことであっても相手を待ってあげていいかなと思います。

ポイント9:契約違反時の賠償上限額は、月売上の3倍まで

本項目は、この契約書の中で一番迷いました。

というのも賠償規定は必要としつつもその上限額を算定する根拠に乏しいからです。

ではなぜ最大3カ月にしたかというと、逆を言えば、「最大3カ月無給で働けば賠償可能だから」です。
例えばオタクさんと繋がってしまったアイドルがいたとしましょう。私の感覚では、秘密保持違反も含まっていたら2カ月、そうでない場合は1カ月ぐらいが賠償の関の山かなと思っています。
この場合、該当アイドルには、1カ月~2カ月、無給で働いてもらいます。それが賠償であり、もっというと、一種の償いだと思っています。

当然ここは匙加減次第です。中には賠償を求めないケースもあると思います。

さらなるポイントとしては、運営が契約違反した場合です。本項目の書き方では、運営が契約違反をした場合、相手方に対して同様に賠償責任を負うということです。
例えば、性的自己決定権の侵害を行った運営がいたとしたら、該当メンバーに対しそのメンバーの最大3カ月売上分の賠償をしなければならないということです。
こうした規定が設けられている契約書は少ないと思います。ただよく考えてみるとアイドルが契約違反したときには罰則が設けられていて、逆のパターンは設けられていないというのは、不平等と言わざるを得ません。

この賠償(あるいは罰則規定)を見る際は、運営側もその対象に含まれているか?というのをしっかりと確認下さい。

ポイント10:ハラスメント時には有無を言わさず契約解除

アイドル側からというのは想像しづらいですが、運営側からハラスメント行為があった場合は、有無を言わさず契約解除可能という規定にしております。
理由は、そういった行為がたびたび散見され問題になるからであり、ここはある種かなり強めの牽制球として運営側の責任を規定しております。

ただし周知のとおり、ハラスメントと認定されるかどうかは、裁判の結果等を待たなければいけない場合もあります。つまり、線引きが難しい問題でもあるのです。

この条項を設けたことで伝えたいことは、「起きやすい環境だから、お互いこの点には気を付けましょう」ということです。

マネジメント契約書第12条:準拠法・裁判管轄

1.本契約の準拠法は日本法とします。
2.本契約に関する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とすることに合意します。

マネジメント契約書第13条:信義則

甲乙は、本契約に定められた各条項を、信義をもって誠実に履行し、本契約に定めなき事項および本契約の各条項の解釈に疑義が生じたときは、法令の定めによるほか、誠意をもって協議し、その解決にあたるものとします。

第12条、13条については、契約書の最後に必ずくっついてくる接尾語のようなものなので、あまり気になさらないで下さい。


以上となります。いかがでしたでしょうか?

今回10個ほどポイントをあげました。前述した通り、今契約書が手元にある方は、ご自身の契約書が10個のポイントを押さえているかどうかを確認することだけでも非常に価値があることだと思います。

"理想のアイドル契約書"がたくさんの方に届き、アイドル業界全体が少しでも良くなることを期待しております。

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