ダライ・ラマ法王に会いに行った話

そうです。ダライ・ラマ14世。ノーベル平和賞を受賞したあの御方でございます。僕がダライ・ラマ法王に会いに行ったのは、かなり昔の話でありますが。

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きっかけは、大学生のときの1人旅です。当時の僕は、ひたすら遠くへ行きたくて、気がついたら、チベットの古都「ラサ」にたどり着いておりました。

ラサには、「ポタラ宮」という歴代ダライ・ラマが住んでいた宮殿があります。その宮殿の圧倒的な迫力、美しさ、荘厳な佇まいに、僕は心を奪われまして、それ以降、チベットの歴史や文化に興味を持つようになったのです。

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社会人になってから、インドのラダック地方を旅しました。ラダックは、インドの最北部に位置する地域です。ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に囲まれた山岳地帯で、チベット文化が色濃く残り、「小チベット」とも称されます。学生のときにチベット文化に興味を持った僕は、是非、ラダックに行ってみたいと思っていました。

ラダックには、ダライ・ラマ法王の別荘がありました。現地の人に聞いたら、つい最近まで、ダライ・ラマ法王がこの別荘に滞在していたとのことでした。法王の滞在中は、法王の説法を聴くために、それはそれは多くの人が集まり、大変な賑わいだったとのことでした。

このとき、僕は、妙にダライ・ラマ法王のことを身近に感じて、法王に会いたい、謁見したいという気持ちになりました。

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ラダックのレーという街で1人の旅人に出会いました。ダライ・ラマ法王に会いたいという話をしたところ、

「ダライ・ラマに会いたければ、インドのダラムサラに行け!」

と、力強く言われました。

なるほど、インドのダラムサラに行けば会えるのか。

まるでロールプレイングゲームのような旅人のお告げを受けて、僕は、ダラムサラ、ダラムサラ・・・と呪文のように唱えながら、日本に帰国しました。

次は、ダライ・ラマ法王に会いに、インドの「ダラムサラ」に行こう。そう決めました。

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しかし、日本に帰れば仕事という現実があり、まとまった休暇がとれません。ダラムサラに行くことは、現実には難しく、年月ばかりが経ちました。

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ある日、夢を見ました。チベットの大地を駆け抜ける夢です。どこまでも広がる青い空、果てしなく続く荒涼とした大地、遙か彼方にそびえ立つ雄大な山々が見えました。

そして、「ダラムサラに行け!」と確かな声が聞こえて目が覚めました。

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夢のお告げを受け、僕は、即行動しました。仕事と休暇のことは後回しです。

インターネットで、ダラムサラへの行き方、往復の航空機のタイムテーブルなどを調べました。

ダライ・ラマ法王がラダックの別荘へ行っていては会えないので、法王の居場所も調べました。

ダライ・ラマ法王はどこにいるんだろう?ネットで懸命に調べました。

そこで、驚愕の事実が発覚しました。

YOKOHAMA?

ん?

YOKOHAMA?JAPAN?

ん?

マジか、法王、横浜に来るのか!?

・・・・・。

つーか、よく調べたら、結構な頻度で来日してるじゃねーか!

チベットのラサでもない、ラダックのレーでもない、インドのダラムサラでもない、法王に会うなら、神奈川県の横浜でした。

それは、法王がちょうど来日する直前のタイミングでした。僕は、夢のお告げのおかげでこの機会を逃さずに済んだのです。

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その日、僕は1人で横浜にいました。

法王に会う手続きは簡単でした。

インターネットで公演日を選び、チケットの必要枚数を入力します。氏名や電話番号等の必須項目を入力し、決済方法は、たしか、クレジットカードのほか、コンビニ決済も選べたと思います。

そうです。ライヴ・コンサートと同じです。それは、ダライ・ラマ法王の「講演会」でしたので。

会場はパシフィコ横浜でした。

チケットをもぎられて入ると、巨大なホールにパイプ椅子が騒然とならんでいました。前方に舞台があり、一目見て法王が座られるのだろうなという椅子がありました。

開演までの間、場内をうろつくと、売店にダライ・ラマ法王グッズが売っていました。僕は、興奮して、本を何冊も買ってしまいました。

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そしてついにそのときが訪れました。

ダライ・ラマ法王の登場です。

法王は、いつものエンジ色の袈裟を身にまとい、なぜか、サンバイザーを被っていました。

ただ、法王が、聴衆の我々にやさしく微笑みかけ、そして語りかけてくれたとき、まるで幸せの雨が降り注いだかのように、満たされた気持ちになるから不思議です。

やっぱり違いますよ本物は。オーラが違います。

ずっと想い焦がれていたからこそ、同じ空間にいられるだけで感激でした。本当に今日は来て良かった。有り難いお話もたくさんいただきました。

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会場には、大変多くの僧侶の方がおりました。みなさま、袈裟をまとっているのですぐにわかります。しかも、いろいろな国から来ているようでした。(日本、韓国、モンゴル、台湾、チベットなどの僧侶がいたようです。)

途中、サプライズで、世界的ジャスサックスプレイヤーの渡辺貞夫が現れました。

そして、サックスの演奏が始まりました。

「ダライ・ラマ」と「ナベサダのジャス」と「観衆の僧侶たち」。

いいえ、違和感はありません。一流はすべてを凌駕するのです。

そうなんです。渾然一体としたこの空間こそ、まさに仏教ワールド。マジですげぇって感じでした。

そして、般若心経の大合唱が始まりました。低音がずしりと響き、リズムが心地良いのです。空間に響きわたる、僧侶たちのお経の声は徐々に一体となり、その場にいる全員が、ひとつの何か包み込まれるような高揚感。

途中から、完全に僕は、トランス状態になりました。

六本木のクラブでの4つ打ちもいいと思いますが、横浜のパシフィコでの般若心経も最高ですYO。

「色即是空、空即是色(しきそくぜくう、くうそくぜしき)」

色は有形、空は無形、それで有が無で、無が有だ。(※注:参考文献:東洋的な見方:鈴木大拙)

うーむ。僕には修行が足りないようです。

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法王のお話はとてもわかりやすいものでした。

法王が説くのは「思いやり」でした。

必ずしも仏教を信じなさいとは言いませんでした。

なぜなら、世界中のどんな宗教でも「思いやり」を説かないものはないからだそうです。

したがって、世界中の人々が「思いやり」を発揮すれば、世界は必ず平和になると、法王は説くのでした。

なんて寛大なんでしょう。

僕はこのとき以降、「思いやり」の心を大切にして、生きているつもりです。

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それから何年も経ちました。ふと先日、ダライ・ラマ法王はどこにいるんだろうと、久しぶりにインターネットで調べました。

すると、ダライ・ラマ法王は、インドのダラムサラから、説法の動画をライブ配信していました。

法王は、空間を超えて、世界中の人々とリアルタイムでつながり、思いやりを説いていました。もう、いつでも会えるのです。便利な時代だと思いました。

それでもやっぱり思いました。僕は、いつか行きたいのです。インドのダラムサラへ。



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