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IDOL WARS〜モーニング娘。の夜明け〜

壮大なるサーガ、『スター・ウォーズ』が完結した2019年。それは、激動の2010年代の終了も意味していた。リーマンショックとアメリカ初の黒人大統領の誕生で幕を閉じた2000年代。
暗雲と希望を抱いて、始まったこの時代も、日本は東日本大震災、第二次安倍内閣、東京スカイツリー竣工、SMAPの解散、働き方改革、そして、平成から令和への改元。2010〜2020年までたった10年で大きく姿を変えたこの国は、すこし、視点をズラしてみると、アイドル戦国時代の始まりでもあった。

アイドル戦国時代の幕開け。

2010年、6月、『RIVER』『ポニーテールとシュシュ』のヒットを受け、AKB48は大躍進を遂げた。日本中で話題となった選抜総選挙で、大島優子が頂点となり、センターを努めた『ヘビーローテション』の大ヒット、それに続く『Beginner』で、『千の風になって』以来のミリオンヒット。モーニング娘。の衰退から長らく空白だった国民的女性アイドルグループの立ち位置に登りたった瞬間だった。
このアイドルビジネスの成功を見て、各芸能事務所やレコード会社がアイドルグループを大量に結成、群雄割拠のアイドル戦国時代の始まりでもあった。
AKBの前田敦子、大島優子論争はアイドル史に残る名言。「私のことは嫌いでも、AKB48のことは嫌いにならないでください」という、アイドル界の必ず存在するジレンマ、推しとアンチという悲しき性を表した言葉を生み出し、国民的センターポジションを彼女は掴み取った。後に前田敦子、大島優子の卒業、ももいろクローバーZの台頭、指原莉乃の覇権奪取。公式ライバル、坂道シリーズの乃木坂46や欅坂46の結成。夢みるアドレンス、私立恵比寿中学、でんぱ組、清竜人25、BiSHなど、個性豊かな面々の活躍。そんな激動のアイドル戦国時代は、ひとまず、白石麻衣率いる乃木坂46がAKBから取って代わることで、一つの区切りを迎えた。と個人的に思っている。
奇しくも、その時代の裏側で、かつての国民的アイドル、モーニング娘。大きく変化することになる。1999〜2003年の黄金期、2007〜2011年1月までのメディア露出が減った実力あるプラチナ期を終えた2011年1月。鞘師里保という、絶対的エースがモーニング娘。に加入した。

鞘師里保とモーニング娘。

鞘師里保 1998年5月28日 広島県で育った彼女は幼稚園のお遊戯会で『Go Girl 〜恋のヴィクトリー〜』を踊ったとき、モーニング娘。の存在を知り、アクターズスクール広島でダンスの腕を磨いた。このダンススクールは、Perfumeのかしゆか、あ〜ちゃん、のっちの3人、BABYMETALの中元すず香など、世界で活躍することになる彼女たちの始まりの場所でもあった。
鞘師里保に対して、つんく♂は「人形のようなかわいらしさなのに、力強い裏の素顔を持つ」と評価され、EDMを取り入れたモーニング娘。久々のヒット曲。『One・Two・Three』など、彼女は新時代モーニング娘。のエースとなる。

自分も、モーニング娘。なんて、黄金期のころしか知らなかったし、中学生の頃から「RIVER」までのアイドル界をのし上がろうとするAKB48が好きだった。それから先は、特にアイドルに興味を持つこともなく過ごしていた。
鞘師里保という存在を知ったのは大ヒットした、朝ドラでアイドルを描いた物語「あまちゃん」にも出演していた松岡茉優がTVで鞘師里保の凄さを語ったのを見てからだ。そこから自分にプチ、モーニング娘。ブームが到来し、道重さゆみの活躍や、鞘師里保の絶対性に、しびれていたことを覚えている。 
とはいえ、鞘師里保の魅力だけが伝わりすぎて、当時から活躍していた、工藤遥や佐藤優樹、譜久村聖、小田さくらなど、鞘師不在から現在までを支える彼女たちの魅力に気づくことができなかった自分は、モーニング娘。'14での道重さゆみ卒業と機にブームは下火になっていく。いつのまにか、鞘師里保はモーニング娘。去り。絶対的エース不在となったモーニング娘。'16として、「泡沫サタデーナイト!」を発表する。

アイドルは泡沫。

アイドルに卒業は付き物だ。「推しは推せるときに推せ。」この名言は、鞘師里保ばかりに目がいって、今更ながらに工藤遥にハマってしまった自分の心にも痛いほど刺さる。
かつて、黄金期だったモーニング娘。の後藤真希の卒業。アイドルになるべくしてなった嗣永桃子の卒業、引退。AKBグループを頂点へと押し上げた、前田敦子、大島優子。そのAKBの勢いを最大限キープし、自らをも押し上げた指原莉乃。乃木坂46の生駒里奈や、橋本奈々未などグループには欠かせないメンバー、絶対的エースという存在にも、卒業というお別れは必ず訪れる。
そんな人気メンバーの卒業には、卒業ソングという、彼女たちの最後の贈り物をファンにプレゼントしてくれる。その1つがモーニング娘。'16『泡沫サタデーナイト!』だ。

鈴木香音 1998年8月5日  愛称はズッキ、彼女は鞘師里保と同期の9期のメンバーの1人である。その存在感、アイドルとしては規格外の体型など、衝撃度は高い。そんな彼女にぴったりなこの楽曲、つんく♂作詞作曲でもない、ある意味、モーニング娘。としては異質なそして懐かしさを感じるこの歌が大好きだった。いうなれば、かつての『LOVEマシーン』のような歌詞とノリ。初めて聞いたとき、モーニング娘。がブームが再び来る気がした。とはいえ、これはズッキのラスト参加シングルであり、この曲の魅力、特にMCの部分はズッキだから出せる部分も多い。もちろん現行メンバーのMCも良いのだが。
鞘師里保が抜けた後のモーニング娘。の可能性を感じられるこの楽曲はズッキの卒業コンサートで大きく化ける。アゲ歌から泣き歌へ。それは、前田敦子が推しとアンチというジレンマを抱えながら過ごしたアイドル時代と同じように、ズッキも心無い言葉を浴びたに違いない。同期の鞘師里保が努めていたセンターポジションに不釣り合いだった彼女はこの歌の途中でこう叫ぶ。

ズッキ「最後の最後まで笑顔全開。みんな今までありがとう」

彼女は最後までアイドルだった。どうしようもないぐらいアイドルだった。そう、アイドルとは、泡沫なのだ。だからこそ、人々は彼女彼らを推す。
彼女は華々しい世界から、介護福祉の仕事につくための勉強をしたいという理由でモーニング娘。を卒業、芸能界を引退した。 
今もきっとどこかで頑張っている。そう思うと、幾重にも生まれたアイドルグループの存在もそれを応援するファンも皆、日本の主役に違いない。

日々のあれこれ 思い切って後回して
踊りたい!
誰も彼もが日本の主役だ
サタデーナイト!
恋は泡沫 もうどうせなら振り回して
止まらない!
本来の心がうずいてる
Do it ……dance!

by 『泡沫サタデーナイト!』

ふくむらみず期という存在の大きさ

譜久村 聖 1996年10月30日 道重さゆみからバトンを渡され、モーニング娘。9代目リーダー、そして、ハロー!プロジェクトのリーダーも務める彼女のアイドル人生は決して平坦な道のりではなかった。 
ハロプロエッグ(ハロプロ研修生)、出身の彼女は無類のハロプロオタクでハロプロ愛にあふれる少女だった。
そんな、ハロプロが大好きな彼女は、こんな言葉を残している。

人生でハロプロを知らない人は10割損してると思います。

by 譜久村聖

彼女は9期メンバーで、上にも書いていた、鞘師里保、鈴木香音、そして、生田衣梨奈の同期にあたる。この3人は2010年に行われたオーディションで合格。譜久村聖は第3次審査で落選。合格者は3人で終わる予定であった。
お披露目は、ライブ中に行われ、そんな3人を眺める譜久村聖に訪れた軌跡の始まりが、ファンには有名な「譜久村!降りといで」である。
ハロプロエッグ3年目、彼女は、プロデューサーつんく♂にモーニング娘。に必要な「悲しさ」「バランスの中のアンバランスな存在」を持っているという理由で、加入することになる。
譜久村聖の伝説は、道重さゆみも卒業コンサートで行われた「譜久村ダッシュ」など。歴代最年少リーダーから歴代最長リーダーとして、今なお、モーニング娘。を支え続けている。
そんな彼女がリーダーを努めだしてから、同期の鞘師里保、鈴木香音の卒業。次期、リーダー候補だった工藤遥の卒業、尾形春水、飯窪春菜の卒業を経て、本来なら、グループとして、衰退する、もっとも苦しい時期を乗り越え、最高の完成度を築き上げた瞬間こそモーニング娘。'19に違いない。
今まで、楽曲や鞘師里保など、主要メンバーしかわからなかったし、メンバーを勉強しようとも思わなかった自分が、'19に出会って変わった。とにかく、森戸知沙希ちゃんがかわいすぎる。

モーニング娘。'19『青春Night』

モーニング娘。'19『人生Blues』

モーニング娘。史上No.1の完成度だと勝手に思っている。もちろん、その視点はファンそれぞれだし、もっといい時代もあったという意見も受け入れる。けれど自分にとって、'19こそ最高なのだ。少しずつ、モーニング娘。を勉強するなかで、'19に至るまでの栄光、挫折、苦労、すべての歴史が、ぎゅっと詰まっている。そして、こんな素晴らしいグループを、築いてくれた譜久村聖には感謝しかない。
そんなリーダーが譜久村聖になり現在までを、メンバーの羽賀朱音は黄金期やプラチナ期になぞって「ふくむらみず期」と発言した。まさに彼女がリーダーとして、モーニング娘。の歴史において欠かせない存在となっていることがわかる。もっと、前から、追いかけ続ければよかったと後悔もした。とはいえ、自分も彼女たちも、今、この瞬間を生きているわけで、三度、出会った。モーニング娘'19に感謝したい。

モーニング娘。の夜明け

つんく♂が作り出した、国民的アイドル「モーニング娘。」そして、生まれたハロプロアイドルたち。
そんな絶対的存在つんく♂が。ハロプロ総合プロデューサーから退いた。
揺れ動く、泡沫のような存在のアイドルには、一本の絶対的柱が必要な気がしてならない。それでも、彼女たちはこれから先も踊り、歌い続ける。
2019年、大人気アイドルグループを抱える、ジャニーズ事務所を設立したジャニー喜多川も亡くなり。日本中に衝撃を与えた。 
男女問わず、アイドルという存在はもはや日常を支える、生活基盤になっている。そんな存在は人類が続く限り、無くならない、不滅性を感じる。泡沫であるゆえに、人々の記憶に残る限り、アイドルは永遠に生き続ける。
2020年代のアイドルの歴史、そんな新たな第一歩が、2020年1月22日に始まる。
ジャニーズ事務所の新生グループ「SixTONES」と「Snow Man」彼らのデビュー。アイドルの歴史において、忘れられない1日になるに違いない。 
そんな、明日、かつての栄光も、エースの宿命も、すべてを取っ払い、モーニング娘'19からモーニング娘。'20(トゥーゼロ)へ。進化した今しか見ることのできない彼女たちの新曲が発売される。

2020年1月22日発売のモーニング娘。’20 シングル
『KOKORO&KARADA』
作詞:つんく 作曲:つんく 編曲:大久保薫

『LOVEペディア』
作詞:児玉雨子 作曲:オオヤギヒロオ 編曲:平田祥一郎

『人間関係No way way』
作詞:児玉雨子 作曲:オオヤギヒロオ 編曲:鈴木俊介

まさに、現在のモーニング娘も持っている3つの魅力。「セクシー」「かわいい」「かっこいい」が詰まりに詰まった最高な3曲だ。
モーニング娘。を知らない人は『LOVEペディア』で現在のモーニング娘。かわいさを知ってほしい。新しく加入した北川莉央、岡村ほまれ、山﨑愛生、15期の魅力がたっぷり詰まった楽曲だ。
モーニング娘。を知ってても、最近聞いてない人は『人間関係No way way』で再び、モーニング娘。熱を燃やしてほしい。ビジュアルエースとして活躍する牧野真莉愛、そして、諦めず努力し続けた結果モーニング娘。に加入した今や鞘師里保のイメージカラーの赤を引き継いだかっこいい加賀楓の魅力溢れる楽曲だ。
モーニング娘。が大好きな人は『KOKORO&KARADA』を聞けば聞くほど好きになる。誰も、足を見せていない、この歌に溢れ出るセクシー感は佐藤優樹、小田さくら、譜久村聖の歌唱力を活かしてこそだ。
まさに、モーニング娘。史上、最高の楽曲といってもいい、歌。そう、この歌を聞けば、黄金だった過去も絶対的なエースも必要のないような気がする。最大の感謝と愛を込めて、つんく♂さん。本当にありがとうございましたと言いたくなるこの歌の魅力は語りきれない。 
新しい時代の幕開けは、なにかの終わりとともにやってくる。日が沈んで、再び昇るように、PVの冒頭でも彼女たちは少し、眩しそうに手を挙げる。日は昇った。この歌を聞いたとき、モーニング娘。の夜明けを感じた。

君が好きさ そう好きさ
もうKOKORO止められない
未来へ向かう雲に飛び乗って
だから君もMore愛して
Yes KARADA赴くまま
太陽浴びてはためく 帆のように
君が好きさ

by 『KOKORO&KARADA』

名前を出すことのなかったメンバー、石田亜佑美、野中美希、横山玲奈、彼女たちも魅力溢れるメンバーだ。ダンスの上手い石田亜佑美が今のモーニング娘。の礎だし、帰国子女の野中美希ちゃんのイングリッシュは必見、英語の歌詞は彼女が歌うのは、まさに彼女の専売特許だ。ハロプロ研修生、わずか3ヶ月で、モーニング娘。のメンバーに加入した横山玲奈は聞こえだけでは、順風満帆に思えるが、大きな試練を乗り越え、ステージに立ち続けた彼女の背負っているものはとても大きい。

2020年は乃木坂46のエース、白石麻衣の卒業。国民的アイドル嵐の活動休止など、アイドル界は再び大きく揺れ動く。ただ、それは終わりではなく、始まりだ。天下統一なんて、しなくていい、そこに、アイドルたちが存在し続けつけるのであれば。

そして、10年後の2030年に、太陽を浴び、はためく彼女たちのこれまでの歴史と、そして新たな歴史をまた記したい。


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