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連載小説「メイドちゃん9さい! おとこのこ!」2話「市場」Moonlight.

 倫敦のちいさなお屋敷で暮らす、メイド(ショタ)と奥様(武器商人のおばあちゃん)の、穏やかな(メイドちゃん視点でのみ)穏やかな日常。

謎解き編、奥様のターンです。

メイドちゃんのターン、おひさま! はこちら

「はい。これが現品よ」
 日焼けした男が袋を開ける。
「確かに。間違いない」
 ローザは土産の葉巻を取り出す。男にもすすめる。男は受け取りかけ、やめる。
「医者に止められててな……。アンタが羨ましい」
 微笑を漏らし、葉巻を置く。
 ヴィクトリア朝を思わせるワンピースが、小さく衣擦れの音を立てる。
 二人の間にローテーブル。照らす照明はLEDに変わった。
「不健康なことしかしていない自覚はあるのだけれど……。80にもなると死神も手抜きを始めるみたいね」
 男はため息で返す。
「死神ですら手抜きができるのに。俺はいつまでも手も気も抜けない」
「いいことよ。年寄りがぐうたらを覚えたら、取り戻すには寿命が足りない。若者の愚行をたしなめる役は必要よ」
 男は大きくため息を吐く。
「まったくだ。最近の若造は市場の意味を取り違えてやがる。ネットでコカインの買い手をつのる? それはいい。手軽に買えるものが売れる。パン屋で取り寄せ品の小麦粉に偽装して売る? それはいい。袋一杯の粉を買って帰っても怪しまれない。だが」
「何も知らないパン屋を仲介にするのは、なってない」
「そうだ。コカインはどこでも市場がある。だからこそ、どこでも市場にするもんじゃあねえ。パン屋の親父がつまみ食いしてパンを焼いちまったらどうする? 「食中毒だ!」病院に担ぎ込まれる。それでおじゃんだ」
 ローザはウィスキーの瓶を取る。
「あなたは昔から変わらないわね。どうしても、「仁義にもとる」と率直に言えない」
「アンタこそ昔から変わらんな。「麻薬カルテル」なんて文字列が肩書きに入るヤツに、仁義なんてモンはありゃしねえ」
 グラスを手でふさぐ。
「俺は変わった。酒も医者に止められちまったよ」
 代わりに自分のグラスに継ぎ足す。
「地獄への一本道ですもの。長いに超したことはないわ」

 おしごと おしごと 奥様はおしごと
 メイドちゃんはちっちゃいから もうねんね

 
 2020/05/26

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表紙は花兎*様(Twitter:@hanausagitohosi pixivID:3198439)より。ありがとうございました。

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