「春狂い」/宮木あや子

 一昨日くらいから読み始めて、今日読了しました。「こういうのが読みたいなあ」という感覚で検索をかけて見つけた作品です。もともと石田衣良さんが好きで「娼年」シリーズを含め、それなりの数を読んできました。石田さんみたいに温かい性描写ももちろん好きなのですが、がっつり濃いというか過激なものも読んでみたいと思って、そのときに出会った本です。とあるサイトで紹介されていました。そのページに載っていた本をAmazonで検索して欲しいものリストにどんどん追加していきました。そして、つい最近ギフトカードの残高を確認したらそれなりに貯まっていたので思い切って購入してみました。あらすじの段階で面白そう!と感じていて、実際に読むのが楽しみでした。

 読み始めて序盤は、表現の生々しさというか痛々しさというか、綺麗な言葉で表現するのが難しいのですがそういった感情を抱きました。主人公である少女の生き方、人生がとても哀しく、切なく、酷いもので、なんとも言えない気持ちになりました。正直、読み始めのころは何度か本を閉じようかと悩みました。それくらい心にグッとくる感じで、苦しかった。でも第一章を読み終えて、気づいたらどんどんページをめくっていて。思わず、無意識のうちに登場人物たちに感情移入をしていたみたいで第五章で泣いてしまいました。悲しくなりました。「どうして…………」これが一番簡略的に、簡潔的に表した感想です。読めば分かります。

 以下、ネタバレを含みます

 美しすぎる少女は幼いころから周囲の男性の性的対象として見られていた。幼稚園に通っていたころは同級生の男の子。中学生になったら次は教師から。女子しかいない安心できる花園と思っていた高校でも、教師から性的対象として見られていた。酷い扱いをずっと少女は受けていた。学校だけにとどまらず、家では父親から性的な目で見られていた。休まる場所がなかったのだ。美しすぎることは、罪なのか。

 わたしが印象に残っているところは、少女が同じような境遇にいる少年と出会う場面です。その少年は同じ中学校に通っていました。校舎は違っていたため学校で会うことはほとんどありませんでした。音楽室の机の上、少女は何気なく「死にたい」と書いた。次の音楽の授業のとき、机上を確認すると返事が書いてあった。顔も知らない、名前も知らない。ただ、机の上の落書きだけで心を通わせていた。少女が風邪を引いて寝込んでいるとき、部屋に父親が入ってきて少女に触れようとした。少女はそれを振り払い、力強く父親を突き放し、家を飛び出た。パジャマのまま電車に乗っていつも通っている図書館へと行った。誰もいないと思い、階段を上り、ギャラリーとなっている階へと向かった。そこに置いてあるソファに倒れ込むように座る。少女の目に入ったのは一枚の絵であった。それを描いたのが、音楽室の机の落書きで会話をしていた少年だった。その絵をきっかけに少女と少年は出会うのだ。

「君か」静寂が破られ、私は声の聞こえたほうを振り返る。そこには、今空から降りてきたばかりの、天使のような少年が制服姿で佇んでいた。ギャラリーの窓から、ひし形の光が床に落ちて揺れる。窓の外を見て。その景色を憶えておいて。一文字違わず憶えているその言葉と、君か、という確信に満ちた問いに、私は涙を堪えながら頷いた。

(改行・空白は略)

 少女に声をかけた少年は、この文章からも分かる通りとても美しい男の子でした。彼も少女と同じように、男性から性的対象として見られていました。他に同じ点として、家族から、少年の場合は兄から性的な目で見られており、性的行為を受けていました。

 境遇が似ている二人は一緒に過ごすことが多くなりました。一緒に街から逃げ出すこともありました。しかし、少年は、とある出来事をきっかけにこの世から去ります。とても悲しかったです。驚きと怒りと悲しみと、とにかくいろんな感情を抱きました。


 このお話は章ごとに別軸なのかと思いきや、主軸にいるのは「少女」です。一貫性を持っていないようで実は繋がっている。とても面白い描きかたをされている本だなあ、と感じました。思わず、ページを遡って「この人はもしかしてこの人なのか?」と確認したくなるほど。

 初めて宮木さんの作品を読みましたが、非常に面白かったです。もう一冊、宮木さんの作品が手元にあるので近々読み始めようと思います。

 面白いお話でしたので興味がある方は是非。おすすめします。


 今年の秋は、読書の秋になりそうです。


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