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米国滞在記ー大都会NYとインフレにおける生活記録

Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) 丹野修宏

本シリーズでは海外留学にあたり為替変動のあおりを受けた人たちの声を特集します。本記事のように学振がなくても所属先からの給料を得る(後に学振を取得)、配偶者の働き先も探す、前回の記事のように所属先からの補填を受ける、為替変動による影響が少ない国への留学を検討する、家族帯同の留学をサポートしている機関を探す、現地でのフェローシップを探すなど、海外留学を支援する仕組みは数多くあります。なお、あくまで個人の一例ですので、個々の事例への対応は国によっても異なりますので、各自治体や所属機関などにお問い合わせください。

2022年1月より米国 ニューヨーク州Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC)でPostdoctoral Research Fellowとして働いております丹野修宏です。インフレやドル高円安から生活は簡単ではない状態にあります。今回、現地の情報をお伝えしたいと思います。留学を検討されている方の参考になりましたら幸いです。

渡米までの流れ

私が考えていた留学先の条件は①がん研究であること、②給与が支払われること、の2点でした。がん研究のトレーニングを積めれば特に研究室にこだわりがなかったことや②も条件にしていたことから、コネクションを介して留学先を探しました。

前職の上司に紹介していただく形で、現職にアプライしました。私以前に2名の日本人研究者の方が在籍し、それぞれ海外学振を獲得されていたため、渡米前に獲得するよう伝えられました。しかしながら、渡米前に申請したものは不採択となってしまいました。

不採択になった旨を連絡したところ、2022年1月よりポスドクとして給与も支払っていただける旨を伝えられました。これは前職の上司と現職上司に信頼関係があったためと考えます。海外学振に関しては留学後に再度挑戦するよう伝えられ、幸い今年度申請したものは先日採択の知らせを受けとりました。

渡米後の生活

渡米後に職種を問わず多くの日本人の方々と出会う機会に恵まれています。色々とお話をする中でMSKCCは福利厚生に恵まれていると実感します。給与の他に健康保険のカバー、アパートもMSKCCが保有しているものがあり、相場よりは減額された家賃で入居できます。

とはいえ、家族の有無で生活の厳しさは大きく変化します。私は家族四人で渡米しており、5歳と2歳の子供がおります。MSKCCからの給与はドル建てで、上司のご厚意からポスドクの最低賃金よりは少し増額された賃金をいただいてはおりますが、NYで4人家族の生活費をカバーすることは困難です。また、海外学振を獲得できたものの、円安の関係から現在の給与よりも低額になってしまうことが予想され、上司からは差額を払っていただく旨を伝えられております。

住居に関しては、我々は日本の1LDKに近いone bed roomにて生活しております。現在、同じ地域の相場は4000-6000ドル/月となっており、MSKCCからの住宅補助がない場合、かなりの遠方からの勤務を強いられると考えます。家賃はあくまで減額であり、これも生活を逼迫させる一因となっておりますが、地域の安全性や契約時の手続きなども考えると、アパートの存在はありがたいものではあります。

アメリカの中でもNYは食費が非常に高く、外食なしでも1ヶ月1000ドルを超えるのはしばしばです。NYでは他の州で比較的高級と考えられるスーパーが低価格帯のスーパーとなります。また、日系スーパーでほとんどの日本の食材は手に入りますが、非常に高価です。

 子供の習い事やアフタースクールなども日本とは比較にならない料金の高さです。夏休み期間が日本に比較して長く2ヶ月半ほどあり、サマーキャンプと呼ばれる習い事や子供をあずかってもらうプログラムがありますが、これらはやはり高額であり、この夏は使用することはできず、妻に苦労をかけました。

安全性に関しては渡米後しばしば銃の事件を聞いておりましたが、自分の生活圏内では、自身や家族が直接危ない場面に遭遇したことはありません。もちろん、日本の安全性とは比較できないと思います。

良い点についても述べさせていただきます。子育てについては日本よりも行いやすく感じております。まず、アメリカは子供に優しい文化だと思います。子供を連れて電車に乗っていると多くの方が席を譲ってくれます。

子供たちは近隣にある公立の小学校に通っています。幸い、二人ともに同じ学校に入学することになりました。先日学校の先生と面談を行いましたが、成長過程の細部までお話しいただきとても驚きました。教師の方々にはとても感謝しております。

NY内は徒歩でアクセスできる公園も多く、また遊具なども充実しており、一部の公園などは、無料で使用できることに驚くほどの設備を要しております。旅行などは行けておりませんが、美術館や博物館も充実しておりNY内で充分に満足できる施設がそろっていると感じております。

今後の計画と私見

妻が前職のつてを使って、来年からNYでの勤務を考えてくれております。雇用先と相談をしている段階でまだ勤務は決定しておりませんが、しかしながら、2歳の子が入学した無料のクラスは枠がとても少なく抽選であり、5歳の子と同じ学校に入学できなければ妻が仕事を検討することはできなかったと考えます。幸運が重なっており、妻にも感謝しております。

NYで生活をする場合、独身であればポスドクの給与で生活していくことは可能であると思います(独身の友人はかなり大変であるとは言っておりました)。家族がいらっしゃる場合は留学に際して検討が必要で、貯金が充分にあるか、配偶者も勤務することができるか、などを考える必要があると思います。

現状から現実的なお話が多くなってしまいましたが、NYに来てからの人脈の広がりには驚いております。経済的には苦しい状況が続いておりますが、子供たちも学校に楽しく通っており、渡米できて良かったと思っております。

また、NYの魅力を述べますとやはり多様性に富んでいるところかと思います。これはアメリカの中でも際立つところだと思います。研究所内だけでなく、様々なアクティビティを通して知り合う友人たちは出身や人種も様々で、多くの文化的背景を学ぶことができます。

最後に

私は幸運も重なっていると思いますが、まず給与を確定し、就職後に奨学金に挑戦するのも一つの方法かと考えております。もちろん、これに関しては留学希望先のラボの状況にもよるかと思いますので、選択次第かと思います。

米国ではアカデミアに残る人材は減り続けており、ポスドクは人気のあるポジションとは言えません。ポスドクを探しているラボは多くあり、これまで得られた技術によってはぜひ雇いたいと考えるPIも多くいるはずです。決してご自身を過小評価されずに交渉を進めていただければと思います。


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