『ストレンジ・デイズ』大野松雄特集より関連ディスク紹介(再録)

 本稿は雑誌『ストレンジ・デイズ No.109』(音楽出版社)の特集「アトムと音楽」用に書かれた大野松雄関連ディスク紹介記事の再録である。導入部となる本文は先に紹介した『アトムの足音が聞こえる』パンフレットと内容が重複するため割愛。関連ディスクがまとめて紹介されるのは珍しいと思い、ここに再録することにした。実際の音は各自であらためていただきたい。

大野松雄『鉄腕アトム/音の世界』
コジマ録音
ALP-204/1976年(1963〜1966年 )

大野の事務所に出入りしていた、アトム世代の若手プロデューサーが商品化。現代音楽のコジマから発売された、日本初のアニメ効果音レコード。マリンバの録音テープを手動でスクラブして「ピョコ、ピョコ」というアトムの足音が作られたなど、誕生秘話も公開。自らの声を電子変調した擬態音(オノマトペ)は、マンガを音響化する大胆な試み。後にビクター、ワーナー、キング(抜粋)で復刻され、今でもDJ世代に重用される古典的名盤。

大野松雄「鳥獣戯楽」
ニュー・エンタープライズ
(レコード番号なし)/1970年

鳥羽僧正の作として知られるマンガのルーツ『鳥獣戯画』の試みを音楽で実現。動物の声を素材に用い、ミュージック・コンクレートの技術を使って「世界の国から今日は」「フニクリ・フニクラ」などのメロディーを歌わせている。フォノシート制作は綜合社。すでに劇音楽から音響プロデュースに活動の場を移していた大野だが、70年の大阪万博で空間音楽の企画書を出したものの実現せず、会場で販売するために作ったのが本作とのこと。

『児童レコード・ライブラリー シートンどうぶつき』
東芝音楽工業
TC-6313/1969年

同年の芸術祭参加作品として、内田賢次訳のアーネスト・シートンの原作を、橋本一郎の脚色、岩代浩一・星子忍の音楽でオーディオ・ドラマ化したもの。大山のぶ代、永井一郎、砂川啓介ら人気声優が出演。音響構成で大野松雄が参加しているが、現実音は一切使わず、森の鳥のさえずりなどもすべてオシレーターで制作。おおかみ王ロボーの鳴き声も『禁断の惑星』のクリーチャーのようで、全編『鉄腕アトム』のような電子サウンドに仰け反る。

津島利明『惑星大戦争』
東宝レコード
DX-4005/1977年

同年の『スター・ウォーズ』のヒットに便乗して、シリーズ休止中だった東宝特撮スタッフが急遽招集されて作られた、東宝SF映画のサウンドトラック。本編の効果音は老舗・東宝効果団が務めているが、サントラは作品未完成中に先行して作られたもので、音楽の津島利明が「電子音を使いたい」と希望して、友人の大野がレコードのみ参加している。オーケストラに被さる電子音響のほか、1曲のみ「宇宙」という独立した大野作品も収録。

大野松雄『そこに宇宙の果てを見た!?』
東宝レコード
YX-8049/1978年

『惑星大戦争』サントラへの参加が縁で、四人囃子を発掘したことで知られる同社のディレクター、ひのきしんじが制作。一部、AKS(EMS)が使われているほかは、ビート・オシレーターを素材にしたテープ変調という、『鉄腕アトム』時代のテクニックを結集して作られている。いわゆる旋律のある曲と呼べるものはなく、サウンド・スケープ主体。大野いわく『鉄腕アトム/音の世界』の「エレクトロニック・ブルース」の変奏曲とか。

宇野誠一郎『悟空の大冒険』
東芝EMI
TOCT-9891/1997年(1967年)

大野同様に、野心的な若者集団だった虫プロの面々。脱手塚調のハチャメチャを狙い、原作(『ぼくのそんごくう』)を大幅に改ざんした監督の杉井ギサブローは、国産電子音楽第1号「7のバリエーション」で著名な諸井誠にパイロット版の音楽を依頼したほど。宇野もその狙いを受け、日本では珍しいスコット・ブラッドリー型の音楽に挑戦。電子楽器オンド・マルトノやテープ逆回転などを使って、アナーキーな音の実験を展開している。

『21世紀のこどもの歌』
ビクター
CDSOL-1093(ウルトラ・ヴァイブ)/1970年

冨田勲に先駆けて、70年に上陸したばかりの黎明期のシンセサイザー、アープ2600を、虫プロ作品の音楽を手掛けていた宇野誠一郎が購入していた事実。小松左京が万博開催年に制作した芸術祭参加作品に、宇野は主要作家としていち早くシンセを携えて参加している。「アンタレス聖人のうた」のS&Hによる宇宙ノイズ、人声を電子変調したコーラスなど、研究肌の冨田に比べて、宇野のシンセ・ワークは直感的でかなりサイケデリック。

『エレキ・ギター100アンプの祭典』
JASS
JPC-2N35/1970年

ギタリストの浜坂福夫が主宰した、101ストリングスの向こうを張る、100台のエレキ・ギターが共演する『全日本ギター・フェスティバル』の実況録音カセット。前田憲男、冨田勲、宇野誠一郎の3人がオリジナル曲を書き、宇野はミニ・モーグを使った「エルゴノミックス」という第2期キング・クリムゾンのような前衛ジャズを提供している。曲間でモーグに関するインタビューが交わされるが、冨田が一切関知してないのがシュール。

『懐かしの人形劇テーマ大全』
東芝EMI
TOCT-9355/1996年

宇野誠一郎『チロリン村とくるみの木』に始まり、冨田勲、細野晴臣など、電子音楽ゆかりの作家を起用していた、NHKや民放局の人形劇のテーマ曲を集めたオムニバス。シンセ導入前の記録として、冨田がテープ2台を使ったフランジングを駆使した中山千夏『空中都市008』、笑い声をコンクレート風にコラージュした宇野作品『ネコジャラ市の11人』などを収録。宇野によれば、同番組で初めてミニ・モーグが使われたんだとか。

『音楽って楽しいな』
TBSブリタニカ
(レコード番号なし)/1972年

71年秋、日本人初のモーグIIIーPシンセサイザーのオーナーとなった冨田勲。じっくりと楽器的意味を探求するため、『月の光』(74年)まで3年を要した冨田だが、その間にモーグを使ったいくつかの習作を残している。うつみ宮土里がナレーションを務める2枚組ピクチャー盤の本作も、随所でモーグが活躍。怪獣を模倣したコントのほか、冨田のシンセ処女作「こどものための交響詩『銀河鉄道の夜』」をまるまる収録している。

三枝成章『鉄腕アトム』
フォーライフ
25K-1/1980年

東映動画によるフジテレビでのリメイクが未遂に終わり(『ジェッターマルス』に変更)、手塚プロ主導で日本テレビ版として復活。『ロック四季』などで知られていた新進気鋭の三枝成章が音楽を務めた。無記名だが演奏はビーイングの面々が参加しており、アトラスのテーマを歌っているのは若き日の氷室京介。時流のディスコ・サウンドを取り入れた主題歌では、難波弘之の絶品のソロが聞ける。本編の音楽もジャーマン・ロック風で先鋭的。

黛敏郎『リズムくんメロディーちゃんこども音楽教室10』
講談社
NAK-70A/1971年

欧州留学時の体験をヒントに、国産初の「ミュージック・コンクレートのためのXYZ」(53年)を発表した、日本の前衛音楽のパイオニア。東京五輪の「オリンピック・カンパノロジー」(69年)ほか、黎明期に重要な作品を残した。本作は自らがナレーションを務める知育レコードの1枚で、子供向けの電子音楽「ダイス・ファンタジー」を収録。「子供が電子音に反応する」という分析は、『ひらけ!ポンキッキ』などにも継承された。

武満徹『武満徹の音楽②』
ビクター
VX-21/1966年

黛と並ぶ実験音楽の始祖、武満の初の全集の電子音楽/ミュージック・コンクレート編。2人の俳優の声を組み合わせてテープ変調した「ヴォーカリズムA・I」ほか収録。欧州に技術を学んだ諸井誠、黛敏郎と異なり、ロマン主義の発露として我流の実験音楽に取り組んだ武満作品は、ときに笑い、風刺の塊となって聴く者の心を揺さぶる。3時間全編を現実音のモンタージュで構成した映画『怪談』の劇音楽は、ジョン・ケージも絶賛したほど。

タージ・マハル旅行団『AUGUST1974』
日本コロムビア
OP-7147〜8・N/1974年

68年に小杉武久が、東京芸大の同窓だった小池龍らと始めたフリー・ジャズ・セッションが母体。電子楽器を使い、インド音楽に触発された非プロによる演奏家集団として、当時の若者風俗を体現していたのがタージ・マハル旅行団である。一夜を通して行われるライヴ体験こそが本懐で、2枚組の本盤はダイジェストに過ぎない。インドを終点とした世界演奏旅行は『旅について』という記録映画にまとめられ、大野松雄が構成を務めている。

坂本龍一+土取利行『ディスアポイントメント・ハテルマ』
コジマ録音
AL-7/1975年

『鉄腕アトム/音の世界』のプロデューサー、元めんたんぴんの吉田秀樹が電子音響を担当している、坂本龍一の初の署名アルバム。プロデュースは音楽評論家の竹田賢一で、阿部薫とフリー・ミュージックに取り組んでいたころの坂本の貴重な記録。ピーター・ブルックの音楽監督で有名な打楽器奏者、土取とはこの録音日に初めて会ったのだとか。坂本はEMSとピアノのクレジットだが、特に担当の線引きをせずにお互いノイズを発している。

Tod Dockstader and James Reichert『Omniphony 1』
Owl
ORLP-11/1966年

ニューヨークで映画編集、効果マンを務めていた時代に『トムとジェリー』に参加。後に電子音楽作家となったトッド・ドッグステイダーはさしずめ「米国の大野松雄」か。カナダ万博(67年)のエール航空パビリオンなどに作品を提供。ウォルター・カーロスが在籍したことで知られるNYのゴッサム・スタジオのエンジニアに就任し、CBSで劇音楽を書いていたレイシャートと制作したのが本作。ダダ的な響きはアニメ音楽に通じる世界。

Raymond Scott『Manhattan Research Inc.』
Basta
Basta 90782/2001年

ジュリアード音楽院を卒業後、自身のクインテットを結成。元々の工学知識から40年代より多重録音に取り憑かれ、自らのスタジオ設立を決意。資金集めのためにストック曲の出版権をワーナーに売却するが、これが『バックス・バニー』などアニメ音楽に使われて注目された。本作は電子音楽作家時代にCM、劇音楽のために書かれた3枚組の未発表音源集。エレクトロニウムなどの自作楽器を使った、ハッピーな作品群に魅了されること必至。

『Cartoon Sound SX』
KID RHINO
R2 71828/1994年

MGMのアニメーション部門の監督だったウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラという、『トムとジェリー』の創造者2人が57年に独立。『原子家族フリントストーン』『クマゴロー』などのテレビシリーズをヒットさせるが、その効果音をキッド・ライノが商品化したもの。ディズニー作品よりワイルドで野蛮な同社の作品が、パンチのあるサウンドに支えられていたことがわかる。ボックスセット『Pic-A-Nic Basket』には第2集も収録。

『Crash! Bang! Boom!:Best Of WB Sound FX』
KID RHINO
R2 79866/2000年

ワーナー・ブラーザズのアニメーション部門は30年に創業し、『ルーニー・チューンズ』シリーズで一躍有名に。日本ではバックス・バニー、トゥイーティーなどのキャラが有名だが、あの狂気の笑い声やロードランナーの「ミンミン!」といったクレイジーなサウンドをキッド・ライノが再び商品化。爆音系のサンプルが多く、ワーナー・アニメがいかに暴力的だったかがよくわかる。衝撃音で彩られたコンクレート・サウンドは今なお新鮮。

『スター・トレック サウンド・エフェクト集』
キングレコード
K30Y2139/1965年

『禁断の惑星』(56年)と並ぶSF作品の古典で、当時『宇宙大作戦』『宇宙パトロール』などの題名で放送されていた、MGM制作の連続SFドラマ。J・フィンレー、D・グリッドスタッフ、J・ソロキンの3人の音響技師が、コンクレート技術や電子的モディファイによって創造した、宇宙船内の環境音やクリーチャーの鳴き声は、SF音響の雛形となった。余談だが、カークの甥ピーター役のハックスレイはなんと後に電子音楽作家に。

『The Fantasy Worlds Of Irwin Allen』
GNP/Crecendo
GNPD-8049/1996年

アーウィン・アレンが制作した、20世紀フォックスのテレビシリーズ『宇宙家族ロビンソン』『原子力潜水艦シービュー号』『巨人の惑星』『タイムトンネル』のサントラがCD化された際に、特典付録としてボックス梱包された4番組の効果音集。今でも使われる、宇宙を浮遊する典型的な「ピヨ〜ン、ポヨ〜ン」という描写音は、おそらくアレン番組のライブラリが発祥ではないか。ほか、光線銃、コンピュータ室の環境ノイズなどを収録。

『ザ・ストーリー・オブ・スター・ウォーズ』
20世紀フォックス
(レコード番号なし)/1977年

ジョン・ウィリアムス指揮のロンドン交響楽団の勇ましい音楽と見事なコラボを聞かせたのが、鍵盤奏者ベン・バートによるR2−D2などのメカニカルな効果音。ステレオ音響で再構成されたドラマ・レコードの本作で、そのスリルが堪能できる。ミニ・モーグ、アープ2600、イーブンタイドのハーモナイザーなどが機材として使われており、そのうちアープは『地獄の黙示録』の制作準備にコッポラが購入したものの借用品なんだとか。

『BBC Radiophonic Workshop』
BBC Records
REC 25M/1968年

ドイツ、イタリアなど、欧州では放送局を舞台に現代音楽の一ジャンルとして電子音楽は歴史を開始したが、イギリスだけは例外。ユニオンの権限で放送に既成曲が使えないため、BGMなどをすべて自前でまかなうために、58年に局内スタジオが設立されたのが発端。D・ミルズらジャズ作曲家の手による曲は、ポップで過激な電子音楽。『ドクター・フー』のD・ダービシャーはなんと、ホワイト・ノイズの第1作のカットアップを担当している。

John Baker『THE JOHN BAKER TAPES』
Trunk Records
JBH028CD/2008年

40年にわたる『ドクター・フー』の音楽を支えた、BBCラジフォニック・ワークショップは97年に閉鎖。残されたライブラリは膨大な数にわたるが、その第1弾として今年、初期の功労者、故ジョン・ベイカーの初の作品集が編まれた。ドキュメンタリー『The Alchemist Of Sound』で筆者も初めて聴いた未発表曲も初公開。ジャズとコンクレート・サウンドの見事な混淆。ビートルズ、ピンク・フロイドの実験性は同所の影響が大である。

『サウンド・エフェクト・オブ・ゴジラ』
東芝EMI
TOCT-8789・90/1995年

東宝映画の効果音を一手に引き受けていたのが東宝効果団。同社のSF映画第1作『ゴジラ』(54年)に始まる、怪獣/SF作品のライブラリから効果音のみを集めたのが2枚組の本作。監修者の三縄一郎が弾いたコントラバスの音と動物の声を組み合わせ、電子変調して有名なゴジラの声が生まれたなど、裏話も楽しい。クラヴィオリンほか初期の電子楽器をトレモロ変調した、キングギドラの声やビーム音は、SF黎明期らしい迫力の音響。

渡辺宙明『人造人間キカイダー/キカイダー01』
日本コロムビア
56CC-2578〜9/1988年(1972年)

東京大学在学中から音響心理学を学び、オーディオに精通していた渡辺は、72年にミニ・モーグを購入。直後に関わった同番組で、初めて劇伴仕事にシンセ・サウンドを取り入れた。悪玉プロフェッサー・ギルが奏でる、主人公の良心回路を狂わせる冷たい笛の音の場面などで、電子楽器が本領発揮。変身シーンのバックでかかるモジュレーション音も、『仮面ライダー』と並ぶ名シーンとなった。同年秋の『マジンガーZ』でもモーグを駆使。

菊池俊輔『仮面ライダーEternal Edition File No.1,2,3』
日本コロムビア
COCX-31908/2002年(1971年)

渡辺宙明と並ぶヒーロー音楽の開拓者、菊池が手掛けた『仮面ライダー』も、実験的劇伴の先駆け。元ハープ奏者で楽器発明家でもあった渡辺順が、自作のテルミンなどの創作楽器を持ち込んで、スリラー風だった初期の番組のムード作りに一役買っている。ファズを通したギターの耳障りな音などは、モリコーネの西部劇音楽を思わせるタッチ。ちなみに渡辺は『ウルトラQ』のコンクレート風のオープニング音を作った人でもある。

石田秀憲『サウンド・オブ・アニメ』
日本コロムビア
CX-7018/1981年

東映動画、タツノコプロ、日本サンライズなどのテレビアニメの効果音を一手に引き受ける音響デザイン会社、石田サウンドが制作したライブラリー集。大野松雄時代から受け継がれた6㎜テープ技術に、同社の武器アープ2600を掛け合わせた強烈なリング・モジュレーター音など、SFアニメの典型的な効果音を集めている。インナーにチラッと映っている通り、『機動戦士ガンダム』などの音が入っているが、権利のため未クレジット。

松田昭彦『機動戦士ガンダム効果音集』
アテネレコード
E-5607/1981年

石田サウンドが同年フィズサウンド・クリエイションに社名変更。『アルプスの少女ハイジ』でデビューした同社の効果マンのホープ、松田昭彦が手掛けた同番組の効果音を集めている貴重なフォノシート。モビルスーツの「ギーン」という鈍い軋む音、ベルトコンベアの移動音など、硬質なアープ2600の電子変調による音は、富野由悠季監督の独特のSF感と相まって、新時代のSFサウンドを確立。ほか21種類の効果音を収録している。

『必殺シリーズサウンドコレクション』
アポロン
BY30-5135/1987年

撮影所黄金時代の映画は、音楽録音などポスト・プロダクションもすべて自前で行っていたが、京都太秦で作られる時代劇は今でも、所内で音付けが行われている。特殊時代劇として独自の進化を遂げた、72年『必殺仕掛人』でスタートした同シリーズも、京都映画録音部による個性的な殺陣サウンドで有名に。『必殺商売人』までの12作品の効果音を収録。梅安の針の音、念仏の鉄の骨外しの音など、聴くだけで痛みが伝わる衝撃音に慄然。


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