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「読める、読めるぞ」は比較的身近に体感できる

それまで、どんな読み方をするのかまったく見当のつかなかった文字体系が読めるようになるときの気分の良さというか、爽快感というものはあるように思います。ていうか、ありますよね。ないことがあろうか。いやない。

昨日、半日を要して書き上げたカラチャイ・バルカル語(もっともその労力の割にはあまりウケなかった件)はじめ、旧ソ連時代のアゼルバイジャン語や、キルギス語、タタール語といったテュルク諸語では、正書法としてキリル文字が使われていることが多いのです。

そんなわけで例の『星の王子さま』蒐集にあたっては、テュルク諸語に翻訳された本が届くたびにキリル文字を目にして心躍るわけです。で、そのとき身近な人などにその文字列を見せると「何書いてるのかぜんぜん見当つかないですね」などと言われた日にはもう。

軽い優越感に浸れること間違いありません。フフンそうかね、私には読めるけどな?的な(しかし我ながら気持ち悪いなこうやって書いてみると)。実際、ロシア語の学習経験などで慣れ親しんだ経験がない場合、キリル文字からはなかなか発音が想像しにくいはずですね。

自分の場合は、運よく大学学部でテュルク諸語についての授業を受けた経験があります。が、これが卒業後にまさかリアルに生きてくるとは思いませんでしたよねえ…何事もひとまずやっておくとあとあと身を助けるということはあるということかもしれません。

同様にして、アラビア文字。これも、やってみないとなかなか親しみを覚えられる文字体系とは言いにくいだろうと思います。実際自分が今までそうでしたからね。

こちらについても、現代トルコ語から入った私はオスマン語の授業を聴講だけしたことはあって、その時におぼろげながら文字とその発音を少しだけ覚えたことはありました。ただ、その後特にオスマン語に傾倒したというわけでもないので、長らくアラビア文字はぼんやりと眺めるだけでやりすごしていたのですが。

やってみるもんですよ。ペルシア語。これのおかげで、ほぼ同様の文字を使うオスマン語がだいぶ近いものに感じられてきました。なんか遠回りしている感もないでもないですが、結果よければすべてよし、です。この世界(どの世界?)

たとえばこの写真。撮影当時は、おお…なんて書いてあるかはよくわからんけど、とりあえずオスマン帝国時代か少なくとも共和国時代以前に作られたものなんだろうな、ということくらいはわかるわけですが、

今になって冷静に読んでみると、あ!となるわけです。右から左に読むわけですが、最初の文字はおそらくBüyükですね。で、次にada「島」だよな、ということがわかっちゃうわけです。

そう、この写真の撮影場所はイスタンブル、マルマラ海に浮かぶプリンスィズ諸島(Adalar)の中でもっとも大きい島、ビュユック島 (Büyükada)のフェリー発着所でした。

で、あれ?"ada"の/d/のところ、この文字(ط)の読みはたしか/t/だよな?と思って、恩師の教科書を参照してみますと、「通常「t」となるが、「d」となる場合も見られる」(p9)とあります。

これかなあ、なるほど、…と言いながら今度は別のトルコ語語源辞典にあたってみますと(そういうのも手元にありますねん…トルコに5年滞在した経験はダテやあらしまへんねんで)、少なくとも古い時代のテュルク語では「島」は"ata"だったと書いてある。ということは、歴史的変遷を経て(おそらく西に進むごとに)語中の子音の有声化が進んだということなのでしょうね。

ついでにもう一枚、往年のハイダルパシャ駅の入り口の写真も見てみましょう。

ハイダルパシャ駅入り口。フェリーでの移動中、船上から撮りました。(2011年9月撮影)

見てください左側。ドアの上に、アラビア文字がありますね。これなんかはもう完璧に読める感じがあります。まんま、駅名で「ハイダルパシャ」(Haydarpaşa)と書いてあります。

母音部分はアラビア文字なので表示されていないというのはあるのですが(文字だけだと/hydrpāšā/みたいな感じなので、母音部分は類推する必要があるということになりましょう)、それでも現代トルコ語の知識もかけあわせていけば、オスマン時代の名残もぐっと身近なものに感じられてくる…といってもよいのではないでしょうか。(しらんけど!)

まあそんなわけで今日もとりとめのない話になってしまいましたが、語学はやってみるものですよね、という趣旨ということで。

私の場合はキリル文字とアラビア文字(+ペルシア文字)にここ最近触れているという経験をしているだけではありますが、それでもこれだけ楽しいことになっていくんですよ、しかもそれって比較的身近に体験できますねんで、という話を書いてみようと思った次第でした。

読める文字が多いにこしたことはない、という結論で今日はひとつ。

昨日、7000字近い文章を書いてぐったりとしたもので、今日はさすがに手を抜いてやる…と思ってエディターを開いたのですがね。なんだかんだ書いていたら、今日も2000字超えてしまったぜ…ほんと損してる性分だな、と思うなどします。

みなさまにおかれましては、どうか安らかな日曜日となりますよう。

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