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映画で学ぶ①「Perfect days」を見て、昭和を懐かしみ、新しさを感じた

ネタバレを含みます。ご注意ください。

先日、日独合作映画の「Perfect days」を見た。

これは、あるNoterさんが海外で見て涙した映画として紹介されていた映画だった。
Noterさんの冒頭の文を見て、ピンと来た。
この時点で、既に見に行くことを決めていた。

あらすじはろくに読まず、事前情報はできる限りシャットアウトした。
上映館が近くにあり、「3月28日まで上映」にギリギリ滑り込んだ。
朝早くの一回のみの上映。

早起きが必要なことに一瞬躊躇したが、すぐにチケットをネットで購入し、翌々日映画館に向かった。

シアターに入ると、男女半々。
おそらく年齢は私と同じくらいの中年、老年の人たちが、4分の1くらいの座席を埋めていた。

主役は、役所広司。
場所は、東京。

この映画を一言で言うながら、「ザ・昭和」
「良き昭和」が描かれている。

昭和の考え方ではなく、昭和の生活。
昭和の生き方ではなく、昭和の仕事観。

それが全編にわたって描かれる。
それも、ほとんどセリフはない。
役所広司のセリフは、おそらく全編通しても2、3ページしかないのではないだろうか。

言葉がなくても、コミュニケーションが取れる。
言葉がなくても、理解してくれる人がいる。

そんな理想的な時代。それが昭和だったのかもしれない。

主人公は、インターネットにつながっていない。
携帯はガラケー。
カメラは、フィルムカメラ。

仕事で使う軽自動車に乗れば、聴く音楽は「カセットテープ」から流れている。

部屋は畳に布団だけ。
掃除機はない。
古新聞を濡らして畳の部屋に撒き、ほうきで掃いてホコリを吸い取らせる。

洗濯機はない。
1週間に1度、自転車でコインランドリーに向かう。

洗濯物が出来上がるまでの間に、写真現像屋で現像に出していた写真を受け取り、新たにフィルムを渡す。
その後古本屋に行き、一冊100円のコーナーから選んだ本は、部屋に作り付けの棚にずらっと並んだ文庫本の仲間入りをする。

行きつけのスナックのママからは、気に入られ、美味しいつまみを他の客より多めに出してもらえる。
至福の時。
1日が終わる。

早朝に起きあがりながら、布団をたたみ、一階の台所で歯を磨き、作業服に着替える。
木造アパートのドアを開け、毎日空を見上げる。
晴れ、曇り、雨に関わらず。

目の前の砂利が敷かれた駐車場に停めている軽自動車に乗り込む前に、すぐそばにある自販機で一本の缶コーヒーを買う。
さて、出勤だ。

お昼は、いつもお気に入りの、友達と呼んでいいほどの御神木がある、神社の近くのベンチで、サンドイッチを食べる。
その間に、御神木から漏れてくる「木漏れ日」を、フィルムカメラに収める。
現像に出すフィルムは、季節ごとの木漏れ日が映っている。

ランチの飲み物は、コーヒー、ジュース、牛乳と日替わりになるが、サンドイッチと、この場所は変わらない。
隣のベンチには、いつも同じ人たちが、同じくランチを食べている。

仕事が終われば、また自転車で都内を散歩がてら、行きつけの居酒屋に行く。
「おつかれさーん」と言われ、せんべろらしきものを口にして1日が終わる。

風呂はない。
銭湯に行き、大きな風呂にゆっくり浸かっている姿を見ると、「ああ、銭湯もいいな」と思う。

そんなルーテインのような毎日の至る所に、幸せなポイントが隠れている。
見ているだけで、「こんな生活いいな」と思わせてくれる。

それでも、天気と同じように毎日いろんなことが起きる。
大抵は他人によって引き起こされ、巻き込まれる。

主人公は、いつもの生活を望んでいるだけなのに。

この映画から、わかったことがある。

「地球はいつも、誰にも平等である」
すなわち、陽は上り、陽は沈むことにおいて、誰にでも平等だ。

「誰でも生き方を選ぶことができる」

主人公は、通常の「普通」と言われる生き方から、あえてドロップアウトした人のようだ。
しかし、それは最初は違ったかもしれないが、その生き方にやがて小さな幸せを見出し、実際に幸せそうに見える。

この生き方を変えることが、できるかどうかはわからない。
それでも写真や、本、仕事への真摯な取り組み方など、自分の「こだわり」を持ち続ける主人公。
彼と私の共通点は、年齢くらいかもしれないが、わかる。

わかるのだ、こんな生活を心のどこかで望んでいることが。

人と付き合わず、人と話さず、自分のこだわりポイントを大事にした仕事をし、好きな芸術に身を浸し、見上げる日々の空に感動する。

そんな日々を望んでいることに。

映画では、若い人も登場する。
カセットテープの音を「いいね、これ」と言って借りて帰ったり、何も言わず、ただ受け入れるだけのおじさんのところに家出をしてくる姪っ子。

三浦友和さんも出演しているが、「永遠の青年」って言う感じもいい。

主人公はミニマリストなのか、と部屋を見て思うが、実はそうではないことに、やがて気付かされる。

カセットテープは、今の若者は見たことがないから、「新しく」て、高値で売れるらしい。
古さが新しい、と言うメッセージをちゃんと組み込んでいる。
これも海外との合作の視点だ、と思った。

この映画は、海外で評価が高い。

・カンヌ映画祭 男優賞 役所 広司
・日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞 役所 広司
・アジア・フィルム。アワード主演男優賞 役所 広司
・日本アカデミー賞 最優秀監督賞 ヴィム・ヴェンダース

アメリカのアカデミー賞は惜しくも逃しているが、ノミネートはされたようだ。

ただ、日本ではあまり評価されていないようなのが、残念だ。

映画好きを自認しているが、こんなにセリフが少ない映画は多分見たことがない。
セリフなしで演じる役者さんは、きっと大変だろうと思うが、見事に演じている役所広司さんはさすがだ、としか言いようがない。

ハリウッド映画とは、全く違う、良い作品を見せてもらった。
日本の映画は、こんな風に作っていけば、いいものはかなり作れると思わせてくれた作品だった。
異文化との共作は、日本人だけでは気づかない、日本の良さが、引き出されるらしい。

上映終了している映画館が増えているので、もし見たいなと思った人はお早めがおすすめです。

Perfect Days上映館


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