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フランスでバイリンガル育児をしつつ感じる、ハイパーモノリンガルの未来

「ハイパーモノリンガル」とは、アメリカに海外赴任している新聞記者夫婦の友達がいっていた言葉。自分たちは「日本語で文章を書くことを仕事にしているが、英語は苦手であるという」という謙遜な自虐ネタです。バイリンガル、マルチリンガルの反対をいく、モノリンガル(単一言語主義)のハイパー版。ネット検索すると「モノリンガル」はあれど、「ハイパーモノリンガル」は、一般的に使われてる言葉ではないようなので、彼らの造語のようですが語学センスを感じます。そこからずっと脳裏に片隅にあるこの言葉。

衝撃を受けた、熟練翻訳家の若者たちへのアドバイス

話は遡り、以前、フランスで働く日本人と、フランスに留学している日本人学生たちの交流会に、社会人側として呼ばれました。留学以降もフランスで働きながら生活し続けたい学生たちに向けて、フランスでどのように職をみつけて働いているか、社会人が自分たちの経験を話す会でした。

フリートークの時間には、それぞれ気になる人の元に話を聞きに行くのですが、私のところにはだーれも来てくれませんでした。閑古鳥。その会は主に、文系の学生さんが多かったのですが、デザイン系の話を聞いても参考にならないと判断されたようです。

一番の人気を誇っていたのは、在仏歴が半世紀近くという翻訳家の女性。彼女の周りには目を輝かせた女子学生たちがたくさん。誰からも質問を受けずにヒマだった私は、学生に混じって輪に加わりました。すると、その翻訳家の方、開口一番にこうおっしゃったのです。

「悪いことはいわないから、若いあなた達が、今から翻訳家を目指すのはやめてください。もうAIがどんどん進化して、私たちの仕事はあと数年でなくなります。」

取り囲んでいた女子学生たちは、ポカーン。もちろん、今後も専門的な分野に関しては、まだ仕事はあるだろうけれど、それも時間の問題だと。また、今まではフランス在住の翻訳家ということで、特別な信頼を得て仕事ができたけれど、インターネットが普及してからは、世界中にいる翻訳家がライバルになり、仕事の単価が恐ろしく下がっているというお話もされていました。

いずれはAIにその役割を取って代わられるので、翻訳家という職業は、今既に仕事をしている人たちで、もう十分 、これから若い人たちが目指すものは、語学を軸にした職業であっても翻訳家ではない、とも。「今日はこのことを一番に伝えたかったの。私達の代で翻訳家はお終いっ!」とニッコリ微笑んで、学生たちの輪を散り散りに。

今まで何十年と翻訳の仕事をされてきた方が、未来における自分の仕事の存在を否定することの勇気、それを夢見て目指している若い人たちに現実を伝えることへの愛を感じました。

バイリンガルよりモノリンガル…?

私はフランスに住み、日本人の夫との間に生まれた、純日本人の3歳の娘を育てています。生後3ヶ月からフランス人の保育ママさん、今は現地の保育園に通っているので、必然的に外ではフランス語、家庭内では日本語になります。自然にバイリンガルに育つからいいねぇ、とフランス人の友達や、日本に住む友達には言われます。ですが、AIが言語の垣根をなくした後、必要になってくるのは、ひとつの言語でどれだけ深く思考できるか、ということのような気がしてきました。

そういえば、マルチリンガルの友達も、第2、第3の言語が増えていった場合でも、ベースとなる言語の語彙や理解度が、他の言語の習得に影響すると話していました。確かに、日本語で知らない言葉を、フランス語や英語で覚えるのは不可能ではないけれど、概念から理解する必要があるので、なかなか難しそう。第一言語の土台の強度が、その他の言語を積み上げていく上で必要不可欠という彼女の話に、とても共感したのでした。

そんな中、見つけた最近の気になるニュース。

要約すると…勤務時間内に日本人社員が英語を話すこと、外国人社員が日本語を話すことを禁止。独自のシステムで外国語が母国語に自動翻訳されるウェブ上の「言語フリー部屋」を使うことで、言語に縛られずに本来の生産性を発揮できることができるというもの。

グローバル化が進み、TOEICの点数を採用基準に盛り込む企業が増えましたが、ことに専門職に関しては、語学力を問わない方が、その能力に長けた人が採用されて良いような気がします。

未来はモノリンガル化が進み、もう外国語を勉強する意味はないと考えているのか!? いえいえ、そんなことはありません。こんなことをいいつつも、語学学習は私の趣味のひとつなので、私が考える語学学習を続けることの意味について、そのうち書いてみようかと思います。

▼ 「フランス ✕ 語学」をマガジンにまとめています


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