🌏1：ケンカしてる場合じゃない

　先月、序: 結局国も人だから を書いてはみたものの、さてどこからどう始めようかとしばらく悩んでおりました。

　ここ最近「今は戦前の状態によく似ている」という話をよく耳にするようになってきたのではないかと思います。それで具体的にどんな点が似ていると思うのか自分なりの考えを歴史を振り返りながら書いていこうかと。

　こういうテーマになると大体「君は右か？左か？」という論争に巻き込まれるんですが、私は自分を「真ん中」だと思っています。はっきりしろって思う人もいるかもしれませんが、しょうがないよ、どっちにも同意できる点とできない点があるんだもん…。でも右や左の意見を声高に叫ぶ人たちは多いけど、案外真ん中の主張ってあまり聞こえてこないですよね。一応中道派ってのもあるけど、結局どっちつかずではっきりしないだけだったり。なので、この機会に自分が思う「真ん中」を吐き出してみることにしました。

戦前っていつ？

　大体「戦前」というと思い浮かぶのは第二次世界大戦前だと思いますが、私としては、日本が世界史に出てくる日清戦争ぐらいから辿って見ていかないといけないんじゃないかなと考えています。

　序の記事で、ものすご〜く乱暴にこういう例え方をしました。

これは私の持論なので、色々な見方があると思うが、ざっくり言うと、日本はいじめの被害者でも加害者でもあった世界でも特殊な立ち位置の国だと思う。

　いじめっ子グループから目をつけられる前に上手く彼らに取り入って筋トレを重ねてイメチェンをはかり、保身のために自ら率先して虐める側に回った。やがてグループを抜け、元いじめられっ子たちを従えて独自にグループを結成、いじめっ子に対抗しようとした。それが自分が生き残る最善で唯一の道だと信じていたからだ。だが、ワンマンなやり方でグループ内から反発が起き、それが更にワンマンを助長し、結局そこを突っ込まれて、先にいじめてたはずの人たちから“正義の鉄槌”を下されることになった。

　この「いじめっ子グループから目をつけられる前に上手く彼らに取り入って筋トレを重ねてイメチェンをはかり…」の部分が明治政府の富国強兵を指していました。陸軍はフランスやドイツ、海軍はイギリスに倣い、他のアジア諸国のように欧米諸国の植民地にされてしまう前に自分が強くなって生き残ろうと考えたのでした。

　そうすると列強の仲間入りを果たすために自分も子分が欲しくなってしまう。
　まずは1879年に清国の属国だった琉球王国（沖縄）をゲット。次に目をつけたのが、まだ鎖国を続けていたもうひとつの清の属国、朝鮮国（李氏朝鮮）でした。

　日本は自分がアメリカに開国を迫られたように、朝鮮に開国を迫って不平等条約を締結。そこからどんどん二国の関係が悪化していきます。

　日清戦争と日中戦争を混同してる人ってたまにいるんですが、日清戦争は1894年から日本と清国（当時の中国）が朝鮮半島で戦った戦争です。

　当時の朝鮮は内政がガタガタで国民が困窮、各地で農民の反乱が起きていました。それが「東学」という宗教と結びついて、外国人排除の動きにつながりました（甲午農民戦争／東学党の乱）。

　自力で鎮められなかった朝鮮政府は清にヘルプを求めます。そこに日本があくまで「朝鮮に住んでいる日本人を救出するため」という名目で出兵を開始。気付けば日本VS清国の戦争になっていたというオチです。

　結果は日本の勝利。日本は狙いの朝鮮は今回手に入れられませんでしたが、代わりに台湾・澎湖諸島(台湾と中国本土の間にある小さい島々)・遼東半島（今の北朝鮮の隣）を獲得しました（下関条約）。

Wikipediaより

　でもその後、フランスとドイツを両脇に引き連れて、ロシアがにっこり圧力をかけてきた（三国干渉）。
　「弱いものイジメしちゃダメでしょ〜。清くんに遼東半島だけでも返してあげた方がいいんじゃない？」
　日本は今この三国を相手にするのはまずいと、その要求を受け入れました。狙いの朝鮮は逆に日本を退けてくれた（ように見えた）ロシア寄りになってしまった。こうして日本の次のターゲットが決まり、日露戦争につながります。

呼んでないのになんか来た

　今、巷では憲法改正議論が起きていますが、中でも大切な争点が「海外派兵」だと私は思っています。自宅に誰かが入ってきた時に武器で応戦していいかと、武器を持って別の人の家に行っていいかの違い。
　日本ではなぜこれが大きく揉めてしまうかというと、この日清戦争の前科があるからでしょう。日本に限らず、今のロシアのウクライナ侵攻も、過去のドイツのポーランド侵攻も全て「自国民を助けに行きます」という名目で始まっています。

　なぜかあまり知られていないですが、自衛隊の存在は現行の憲法でも解釈内だと言われています。だから「全ての武力を放棄しよう！自衛隊は違憲！」というのも極端だと私は思います（最終的に武器のない世界を目指すのは賛成だけど）。こういう意見が目立つから、かえって反戦を訴える人を非現実的だと敬遠する人が多いんじゃないでしょうか。

　例えば永世中立国として平和のイメージが強いスイスですが、あそこはバリバリ徴兵制ですし、領空を飛べば容赦無く撃ち落とすと言ってくる武装中立国。「この線越えたらタダじゃ置かないぞ！」と示すために、また災害の多い日本だからこそ、自衛隊の存在は大事だと私は思っています。(でもそれなら海上保安庁と特別救助隊を強化すればいいんじゃないの？と思うので誰か教えてエラい人)

　ただ、国外に出て戦うのは流石に今の憲法をどう解釈しても無理がある。それでもこれまで無理やりこじつけて「派兵」でなく「派遣」がされてきました。でもやっぱり海外で武器を扱えない制限があるから、丸腰で治安の安定しないところに送られる自衛隊員も気の毒だし、同盟国なのにそっちだけ後方で楽な仕事するなとアメリカに愚痴られてしまいます。これが憲法を変えたい最大の理由でしょう。名目は「国際的地位の向上」。

　あれ？ そもそも日本に軍隊放棄させたのアメリカじゃなかったっけ？？？
　このあたりについてはまた後々第二次世界大戦後の話で書きたいですが、とにかく、日本の憲法９条を一番厄介だと思ってるのが現代のアメリカなのは、なんとも皮肉な話だと思います。

番犬は家の外で機能する

　一方の米軍（連邦軍）は滅多に米国内で活動しません。映画では大体エイリアンとかゾンビが出てきて活躍してるように見えるけど、自然災害などで派遣されるのは州兵（National Guard）で、連携はしますが別の組織です。

　トランプ前大統領がなぜやたら国内で危険視されていたかというと、彼が自分を支持しない者たちに軍事力を使おうとする傾向があったからだと言われています。2020年6月のBlack Lives Matterの抗議運動、2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件などでのトランプの対応に反発したのはむしろ退役軍人や軍を統率する制服組でした。強い力を持つからこそ、米軍はできる限り国内政治に関与しない原則が重要視されています。軍部が権力者と結びついて国民に銃口を向け、独裁やクーデターに繋がる例が世界中にあるからです。

　つまり私たちが良く知る米軍は、自国に危険が及ばないように国外(他国)で色々やる組織。そして自国が攻撃されたら相手の所に出向いてボコボコにする組織。アメリカがこれまで直接攻撃を受けたのは真珠湾攻撃と9.11同時多発テロ事件の２回。確かに回数で見ると他国に比べて圧倒的に少なく、国民に評価されてるとすれば、その実績なのでしょう。だから元凶になった日本とアルカイダは軍のメンツを保つために徹底的に潰される必要がありました。

日本はどうなりたいの？

　そういうわけで憲法改正議論に戻ると、日本がどこを目指したいかですよね。米軍みたいな "国際貢献” を本気で考えるなら改憲もひとつの道ですが、どれだけの国民がそこまで覚悟してるんでしょう。改憲後に「そこまですると思わなかったけど？」と言っても、もう遅い。

　当の米軍はベトナム戦争以降「逆にあなたたちのせいで国民が危険に晒されてない？！」と批判が相次ぐようになったので、できるだけリスクを減らしていきたいと考えているようです。自国の予算と国民の命を削らずに自国を守るには、自国と中国・ロシアの間にある日本が軍備を強化してくれば万々歳。だからこそ「今の君なら過去みたいな過ちはきっと起こさないよ！もうアジアの治安を守れるのは君しかいないよ！サポートはしっかりするから大丈夫！」という立場なんだろうなと思われます。

　詳しくは日露戦争の時に回そうと思いますが、当時の日本がどんどん戦争する国になっていくのもイギリスの影響が大きいと思ってるので、今回はそれがアメリカに変わってるだけじゃない？とちょっと思っています。改憲派はそこまで想定しているのかな。理性的な改憲派のご意見もちゃんと聞いてみたいです。

　「まさか同じ流れにはならないよ！考えすぎだよ！」という人もいるかもしれません。でも仮に今の政治家にそんなつもりがなかったとしても、次に「やられる前にやろうぜ」思考の人が当選しないと言い切れるでしょうか。

　憲法を変えたら抜け道ができる。憲法は権力者から国民を守る法律なので、権力者側に有利な変更をしてしまうと、そこから少しずつ崩れていく可能性があります。しかも「AがBをします」と書くと批判が出そうなら、「Bの詳細はCに書いてあります」「Cに書かれていることはDと言えます」「EがDをするのが基本ですが緊急時はAがやります」と全部違う所に書き、ぱっと見「何言ってんの？？」と思わせるのが常套手段です。契約書とかもそうですもんね。良くわかんねーけどまぁいいかとサインしたら、多額の借金を背負ってしまったりする。だからかなり慎重になる必要があるんじゃないかと思います。

　「護憲派は人を信用しすぎ」という意見をよく聞きますが、私から言わせれば、改憲派が人を信用しすぎだと思う。一度交わした契約書の変更を相手に任せるなんて恐ろしすぎです。

崩すなら内側から

　もうひとつ、日清戦争の例から学ぶべきだと思っているポイントがあります。

　もしも仮に多くの人が心配しているように現代の中国が日本への侵略を考えているとしたら、突然軍事攻撃を仕掛けてくるほど彼らはバカじゃありません。もし本気で侵略するなら日本が韓国を併合していった流れが理想的です。

　日清戦争の韓国を現代の日本に置き換えてみるとどうでしょう。

人々が困窮し、外に不満を向けるようになる。反中感情が高まる。
→ 一部の極右が暴走し、在日中国人が危険に晒される
→ 国内混乱
→ 中国「我が国民を守るために出兵します」
VS
アメリカ「お前は来んじゃねーよ」
→ 日本を戦場にして米中戦争勃発

　なんだかんだでアメリカはアウェイ。本当に守らなきゃいけないのは本土なので全力は出せない。中国にも勝機があると思います。

　では、警戒すべきは右派だけですか？

人々が困窮し、一部の極左が打倒政府に動き出す
→ 内戦勃発
→ 中国「隣人として助けましょう」
VS
アメリカ「お前は来んじゃねーよ」
→ 日本を戦場にして米中戦争勃発

　つまり、右左関係なく過激な“愛国者”の行動が国を崩壊させるきっかけに繋がるのではないかと。だから思想を統一しろという意味ではなく、本当に中国を脅威に感じてるなら、右も左もどこまでなら妥協できるか冷静に意見を出し合って国内の問題解決を急ぐべきではないだろうか。この局面での「妥協」は悪いことじゃないと思う。

　日清戦争では、２国が自分の国で争いだしてから、焦って民衆と朝鮮政府が和解したそうですが、その時にはもう後の祭りでした。

今、車買うの？？？

　そもそも日本崩壊のパターンが国内の混乱から起きやすいんだとしたら、やっぱり今は軍拡じゃなくてもっと優先すべきことがあるんじゃない？ 教育やら子育て支援やら経済復興はいずれ国の収入に繋がるけど、軍拡はどこかを侵略しない限りずっと経費だ。

　それって、どこかの社長が「会社は全然うまくいってないけど、他の社長に馬鹿にされないよう俺も経費で高級車買うわ」って言ってるのと同じレベルでは？（もちろん、人を殺す武器を車に例えるのは間違ってるのですが、非人道的かどうかの前におかしくない？？ってことを強調したい）

　それに加えて社長の運転が下手なら事故も起こすし、性格が悪ければ煽り運転とかしだすのよ。社長が仮に良い人でも、車を譲り受けた息子が馬鹿だったら悲劇が起こるのよ。相変わらず業績が変わらなければ借金はかさんでいくだろう。車検を怠れば、次はそういう事故が起こるだろう。ガソリン代さえなくなれば結局車も動かせなくなる。

　追い詰められた社長は次に何を考えるのか。闇金に手を出して自分の臓器を売るんだろうか。なんとか金を作ってこいと社員を圧迫するんだろうか。それとも会社の経営方針自体を変えて犯罪で儲ける道を探すんだろうか。

大事なのは現在

　暗い話になってしまいましたが、私はやっぱり日清戦争とは違うパターンの未来が見たい。戦争に勝った日本の立場にも、負けた清の立場にも、ただ戦場になるしかなかった朝鮮の立場にもなりたくない。

　そのためには、ちょうど今が踏ん張りどころじゃないかなと。外からの脅威を恐れすぎると、余計に外から脅威を呼び込むかもしれない。自分で自分の首を絞めるかもしれない。そこまで覚悟した上で皆がその道を選ぶならもう止められないけど、もしよく分からなくて流れについて行ってるだけの人がいるのであれば、しっかり説得して引き留めたいところです。

　この記事を書き出したときは狙うつもりではなかったのですが、奇しくも日本は５月３日、憲法記念日ですね。GW真っ只中だと思いますが、この記事が今一度日本の未来を考えるきっかけになれればな、と思います。

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　日清戦争の勝敗は、欧米にも大きな影響を及ぼしました。そこからずるずると世界大戦につながっていくわけですが、それはまた次の機会に書いていきたいです。

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第二回はこちらです。