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探究者のための学校づくり前夜 #3

「レッジョ・エミリア・アプローチ」を知ったのを契機に、教育系の本を読み、イベントにも参加するようになりました。イエナプラン、ドルトンプラン、モンテッソーリ等の興味深い教育手法がいくつもあることを知ります。それぞれに思想・哲学があり、子どもたちを科学的・臨床的に捉え直し特色ある教育を行っています。一方で、日本の学校教育はというと、地方都市の風景のように皆画一的で、際立つところがありません。

こうして、私の中に日本の学校教育への課題意識が生まれはするものの、自分自身が具体的にどう行動してよいかがわかりません。文科省に入ったり、学校の先生になってみてもどうにもならなそうだし、海外の事例をそのまま日本に適用できるとも思えません。一体自分に何ができるのかと思い悩みます。

そこで、アイデアを考えるための環境と時間が必要と考え、小さなビジネススクールに通い始めます。
そのスクールの一番最初の課題は「自分の事業計画を書け」でした。事業計画を考えるためにビジネススクールに入ったのにそれが最初の課題とはこれ如何にと思いつつ、とりあえず本屋さんでそれらしい書棚を見渡してみます。そこで目についたのがラーンネット・グローバルスクール代表の炭谷が著した「ゼロからはじめる社会起業」でした。事業計画の書き方の参考にと手に取ったはずが、そこにはまさに私が日本の学校教育に対して抱いていた課題意識と、実現したいけどできるはずがないと思っていた解決方法が書かれていたのです。それを読んだ時は、同じことを考えている人がいたことへの喜びと、それが15年も前に実現されてしまっていた喪失感という複雑な感情を覚えましたが、とにかくこの道の先に何かありそうだと思えた私は勢いよく事業計画を書き上げます。
その事業計画はそれなりに支持を得て、いくつかのイベントで話す機会もいただけることになります。興味を持ってくださった方々の助言を受けてブラッシュアップを重ね、それを私は「Edgy School構想」と名付けます。

2012年夏に書いた「Edgy School構想」の内容は、要約すれば、既存の学校システムに合わない‟潜在的・積極的不登校”の子を対象に、「STEAM(レゴ/プログラミング、デザイン、アートなど)」と「リベラルアーツ」を学ぶ環境を用意し、クリエイティビティと教養を携えて社会を生きていってもらおう、というものでした。そして、そのようなスクールを複数つくることで教育環境の選択肢を増やし、ひいては学校教育の枠組みを変えようという構想でした。
自分のアイデアに可能性を見出だせなければ、またしばらくサービスデザイン分野に留まろうと安易に考えていましたが、なまじ支持を得たため、もう少し歩みを進めてみようという気になっていました。

そうなると次の課題は、「どうやってはじめるか」です。いきなり全日制のスクールをつくっても人が来るはずもないので、習い事として始めていずれは全日制にしていこうと考えました。コンテンツも当時少しずつ認知が高まり始めたレゴロボット/プログラミングなどのSTEAM系を主軸に据えれば成立すると見込みます。

ただ、私としては“潜在的・積極的不登校”の子に来てほしいし、男女が偏らない方がよいと思っていました。そこで思いついたのが「レゴブロックでストーリーテリング」というアイデアでした。コミュニケーションが苦手な子も、レゴブロックの作品という触媒を介せば自分のことを話せるかも知れないし、ストーリーテリングならプログラミングよりも男女の偏りが起きにくいのではないかと考えました。

しかしこのレゴブロックの使い方、私が世界で最初に思いつくはずがないと思って調べたら、「レゴ・シリアスプレイ」という名でメソッド化されていたのです。日本語の情報がほとんど無かったため、日本支社にメールを送るとすぐに返事があり、「日本で最初のファシリテーター・トレーニングがもうすぐあるから来ないか」とお誘いいただきました。英語オンリーで3泊4日というハードルにおののきつつ、会場に行ってみるとびっくり。講師はレゴマインドストームを開発・普及したロバート・ラスムセン氏と、日本のレゴ・エデュケーションおよびScratch普及の第一人者石原正雄氏という、会いたくても会えるもんじゃない人たちだったのです(ふらっとギター教室に行ったら、先生が高中正義とブライアン・メイだった感じ)。
話はそれで終わりません。受講したメンバーの1人が神戸の一風変わった学校の話をしていて、どこかで聞いたような教育内容だなぁと思ってよくよく尋ねると、それはラーンネットであり、その保護者までがそこに居合わせたのです。
その時の私は正直、「世の中うまくできてるもんだなー、ついてるぅー」程度の認識だったのですが、今振り返ると、あの時こそが何者かに教育の世界へと強く背中を押された瞬間だったのだと思います。(つづく)

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