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崖っぷちスタートアップがターンアラウンドを遂げるまで 〜4年越しの資金調達の軌跡〜

本日2023年5月24日、私たちスカイディスクは約8億円の資金調達を発表させていただきました!

実に、前回ラウンドから4年、私が代表に就任してからは3年半となります。

スカイディスクは2019年4月にシリーズCラウンドで総額8.6億円の資金調達を実施。しかしながら、思い描いていた事業展開はうまくいかず、急激な人員拡大も相まって半年足らずで窮地に陥りました。2019年12月の経営体制刷新を機に、組織再構築・事業再編に取り掛かることとなります。

プレスリリース本文
2019年11月度 取締役会資料

スカイディスクは2013年10月創業。就任時は7期目に入ってすぐのタイミング。
バーンレートは急速に上がっており、手を打たなければ2020年8月にはキャッシュアウトしてしまう。
プロダクトは何もなく、実態としては、シリーズCどころか限りなくゼロに近いバリュエーションと言える。
まさにタイトル通り"崖っぷち"からのスタート。

にも関わらず、年が明けてからすぐ新型コロナの感染拡大という予期せぬ事態に見舞われ、資金調達に動き始めるタイミングでは、SaaSバブル崩壊・スタートアップ「冬の時代」が到来。
そんな外部環境も相まって、最悪の結末が何度も頭を過りましたが、結果的にはダウンラウンドすることなく、資金調達を実施することができました。

私たちスカイディスクを信じてくれた投資家・金融機関の皆様には心の底から感謝しています。
これまでよりも一層身を引き締めて事業拡大に邁進していくところではありますが、せっかくの機会なので、私がスカイディスクに関わってからのことを少し振り返りたいと思います。

なお、代表を引き受けた理由については、以前noteに書いております。ぜひご覧ください。

就任直前のスカイディスク(2019年10月〜)

就任2ヶ月前の2019年10月中旬、福岡在住メンバーも含めて全員が東京に集まり第7期のキックオフを開催するとのことで、私も参加させてもらうことになった。

当時のスカイディスクは、受託開発によるフロー型収益モデルのみだった。
このモデルで売上を伸ばしていくには、それに比例して開発人員も増やしていかなければならない。
その一方、AIの活用シーンが広がり、市場にAIエンジニアが増えれば増えるほど、人月単価相場が逓減していくことは容易に想像できる。
先のことを考えると、受託開発モデルからの脱却=プロダクト開発によるストック型収益モデルへの移行、はスカイディスクにとって至上命題。

プロダクト化に向けては8つもの部署横断プロジェクトが進行しており、当下半期からそれなりに大きな売上が見込まれていた。
しかし、各プロジェクトオーナーからの発表を聞く限りは、半年後からの売上はおろか、「ターゲットは誰なのか」「いつまでに何をするのか」さえ明確にはなっていないように感じた。

そんな発表が続く中、ある社員から「資金が厳しくなったら、また経営陣に動いてもらいましょう」という発言があり、さすがに耳を疑い、周りに目を向けた。会場には乾いた笑いが起きていた。
たしかに資金調達は経営陣の重要なミッションのひとつだが、そのための事業進捗は社員全員の努力があってこそ。
しかも、スカイディスクはシリーズCだ。

ちなみに、その会の後半で全社員に向けて挨拶をさせてもらったのだが、後から聞いたところによると「DeNAにいたらしいけど、中の人に聞いたら大した実績はないらしい。どうやら期待できそうもない」などと陰で言われていたらしい。
それを聞いた時には「8年も前に辞めてるんだから、そもそも知らない人も多いし。だいたい中の人って誰やねん」と少々腹が立ち、家に帰ってから同じく元Dの妻に愚痴ったところ、「(DeNAで)何か目立ったことしたっけ? 笑」と軽くあしらわれた。
いやまあ、、たしかにそう言われると、、大したことはやってないかも、、腹を立てるのは筋違いだったかなあ、、と思い直すことにした。一応。

まあ何にせよ、組織が非常に良くない状態であることは間違いなかった。

まず最初に取り組んだこと(2019年12月〜)

キャッシュは残り8ヶ月。
バーンレートを改善するには、売上を上げるか、コストを下げるしかないが、後者が圧倒的に早い。
とにかく立て直すための時間をできるだけ稼ぎたい。
まずは全てのコストを見直すところから始めた。
受託開発のみにも関わらず広告宣伝費は年5千万円以上投下されていた。且つ、費用対効果の検証はきちんとされていないようだった。
また、驚くことに接待交際費と会議費だけで年1千万円近くの支出があった。止められるものは全て止めた。
が、やはり最も大きな人件費にも手をつけざるを得なかった。
やむなく、翌月には希望退職者募集を実施。
最終的に、月間の販管費は最大時から76%減まで圧縮。これでプラス数ヶ月の猶予を作ることができた。

コストは限界まで下げた。次は売上だ。
詳しく調べてみると、受注した案件の約3割は赤字だった。
プロダクト化への知見を得るため、「戦略投資案件」として赤字覚悟で獲りに行くという判断があったのは分かるが、提示金額はセールスとエンジニアのメンバー間で決められており、そもそも収益を管理する体制がなかった。
プロダクトを立ち上げるのは簡単な話ではないし、収益化までは相応の時間を覚悟しなくてはならない。
そう考えると、現在の受託開発事業だけでも収益化を目指さなければならないし、何よりもまず受注しても赤字が膨らむ現状を変えなきゃいけない。
ひとまず、私と各部門のマネージャーが集まる「案件会議」なるものを設置、全ての提案内容/見積をBiz・開発双方の観点からチェックするようにした。
これ以降の第7期受注案件で直接利益が赤字となったものは「提案段階から把握していた1件のみ」というところまで改善した。

8つの部署横断プロジェクトについても、継続かストップか判断しなければならない。
とはいっても、その粒度はバラバラで、プロダクト化と言えないものも含まれていたため、最も可能性がありそうなひとつを取り上げ、テストマーケを実施した。が、残念ながら反応はほとんど得られなかった。
もちろん、更に深掘りすれば何か見えてくる可能性はあっただろう。
しかし、このまま中途半端にリソースをかけ続けることは得策でないと判断し、他の7つも含め全てストップすることに決めた。

ちなみに、スカイディスクにジョインした初月、DeNA時代一緒に働いていた畑村(SaaS事業部長)が拠点を福岡に移したことを知っていたので、オフィスからほど近い天神の喫茶店でお茶に誘った。
近況報告のつもりだったのだが、ちょうど新しいチャレンジをしようか考えていたらしく、「だったら一緒にやりませんか?」といういきなりの誘いを快諾してくれた。
同じ組織文化を経験しているメンバーがいるのは心強い。そして、就任直後のこの巡り合わせはとても幸運なことだった。
畑村が加わってくれたことによって、上記テストマーケや、それ以降の市場調査など、大幅にスピードアップできたのは間違いない。

課題の発見(2020年4月〜)

なぜこれまでプロダクト開発が進まなかったのか。社員数名に率直な意見を聞いて回った。
「そもそもデータを持っている(製造業の)企業が少ない。持っていたとしても、質・量に問題がある場合が多い」
「見ているポイント・判定基準が企業・工場によって違うため、結局スクラッチ開発にならざるを得ない」
中には、「スカイディスクがうまくいかなかった理由は製造業をターゲットにしたからだ」といった意見まであった。

それまでの受託開発事業で、各企業・工場からの様々な課題を聞いてきた。
プロダクト化においては、その課題が「プロダクト化に足る市場を持つ(共通の課題を持つ企業・工場が一定規模存在する)」ことと、それに対する「ソリューション方法を共通化できる」ことが必要だ。
社員の声をシンプルに捉えると、「インプットデータとアウトプットの共通化」ができないから、ソリューション方法を共通化できず、スクラッチ開発にならざるを得ない、ということだろう。
それからというもの、受注済みから商談中・問い合わせ段階まで、ヒマさえあれば案件情報を眺めて「この案件はインプットが何で、アウトプットが何で・・・」と頭を巡らせていた。
そんな時に目に留まったのが「生産計画のシステム化」に関する問い合わせだった。

中小製造業A社の工場長から送られてきたメールには、
・工場長である自分が毎日生産計画を立てている
・別の担当者に(計画立案を)任せると、生産量が落ちたり残業が発生したりしてしまうので、休みが取れない
・用意できる予算としては500万円が精一杯
といったことが書かれていた。
生産計画をシステム化する場合、設備やスタッフの稼働条件、そして「この製品を・何個・いつまでに作らなければならない」といったオーダー情報がインプットデータに、最も生産性の高い(≒製造リードタイムが短くなる)計画がアウトプットになる。
「インプットデータとアウトプットが共通化できるのでは?」
四六時中"プロダクト開発条件"を反芻していた私はそう感じ、担当セールスに「この案件は絶対に落としたくないから、進捗は逐次教えてほしい」と伝え、すぐに調査を始めた。

生産計画を立案するソフトウェアは「生産スケジューラ」と呼ばれており、30年ほど前からいくつかのパッケージソフトが市場に出ているようだ。
しかし、それらは初期投資として少なくとも2千万円程度必要になるため、大手製造業の一部でしか導入が進んでおらず、中堅・中小はブルーオーシャン。
高額になる原因はソフト自体の価格だけでなく、多機能・複雑化によってエンドユーザー企業だけでは導入を進めることができず、別途SIerに作業を依頼する必要が生じるため。

A社の要件を見る限りは、比較的容易に対応できそうだ。
既存製品の中から予算に合うものを見つけられなかったから、スカイディスクに相談が来ている。
価格帯から考えると、既存製品のターゲットは大手向け。中小製造業にとっては高スペック過ぎる。
ということは、「中小製造業向け生産スケジューラをSaaS型で安価に提供」すれば、このブルーオーシャンを獲りに行けるんじゃないか。
プロダクト化、狙えるかもしれない。
しかも、A社から受注できればリスクなくその検証ができる。この上ないチャンスだ。
(後々、この仮説は間違いであったことが判明するのだが・・・)

プロトタイプ開発着手(2020年8月〜)

オープンソースのソルバーを使った一番最初のプロトタイプは、それほど多くないデータ量にも関わらず、アウトプットが出るまで数時間かかった。
担当エンジニアは「スクラッチで書けばもっと早くなるとは思います」とは言ったが、ユーザー目線での限度には収まらないように感じた。
AIと一括りに言っても、こういったスケジューリング最適化問題を解決する推論・探索分野に強いエンジニアは、残念なことに当時のスカイディスクにはいなかった。
正社員じゃなくてもいい。業務委託や副業ででも、打開できそうな人を外から連れて来なければ。
また、これまではPoC(実証実験)が中心でシステム実装に至るケースが少なかったこともあり、Webエンジニアも社内にはほとんどいなかった。

・生産計画のシステム化は国内だけでも数千億規模の市場があるにも関わらず、30年ほど前から大きなイノベーションが起きていない
・日本には「2025年の崖」という大きな課題があり、製造業界も同様
・DXは予算を持つ大企業しか取り組めていないが、国内の99%は中小企業
・この生産計画のプロダクトアイデアは、社会的意義も事業可能性も大きいはず
・スカイディスクはこれまで紆余曲折あった会社だが、過去のマーケティング活動により、最初の顧客を掴むための製造業のハウスリストを持っている
そんな謳い文句でリファラルを中心にリクルーティングを重ねていった。

就任当時は、福岡に所縁のある人以外への誘い文句は何も持ち合わせてなかった。
「なんでやることにしたんですか?」と逆に聞かれても「なんででしょうねえ?」と返すしかなかったし、ジョインして欲しくても心の底から誘うことができなかった。「いやー」と言われると「ですよねえ」と苦笑いしてそれ以上誘えない、という感じ。
そう考えると、誘い文句ができただけでも大きな進歩だったし、純粋に嬉しかった。

9月に近藤(AIエンジン開発チーム Mgr)と市川(フロントエンジニア)が、12月には徳丸(Web開発チーム Mgr)が。
その後も、DeNAの時の同僚だった藤井(CS)や、小林(PdM)などなど。
今のスカイディスクを支えているメンバーの多くが、このタイミングから少しずつジョインしてくれることになる。

そんな中、推論・探索分野のAIエンジニアとして最初にジョインしてくれた劉が、数時間かかっていたプロトタイプの処理時間を、15分程度になるように作り替えてきたのだ。しかも、たった2日間で。一気に目の前が明るくなった。

2020年10月に「新規事業開発室」という準備部署を立ち上げ、2021年3月から「SaaS事業部」名で本格的に開発をスタートさせた。
なお、プロダクトの名前は「最適ワークス」とした。
カッコイイ横文字名のアイデアは色々と出たが、分かりやすいのが一番だろう、という結論になった。
このあたりは、畑村がnoteに書いてくれている。

不思議なもので、ロゴができるとモチベーションも上がるし、愛着も湧く。
チーム(と言っても、当時はまだフルコミットは少なく、業務委託中心の構成だったが)の結束も固まった気がした。

そしてこの頃、就任後1回目の資金調達活動を行っている。
コストカット、受託開発事業の収益管理によってバーンレートは大きく改善したものの、心もとない状況であることに変わりない。
それに加えて、最適ワークスへの投資が続けば、数ヶ月先には一気に苦しくなるのは明らかだった。
最適ワークスはプロダクト化への唯一の希望であり、ここへの投資をストップしたくない。
しかし、この開発段階と事業可能性の説明だけではシリーズCのバリエーションを維持できるわけもなく、CE(コンバーティブル・エクイティ)などの様々な手法も検討・提案してみたものの、けんもほろろに断られた。

ただ、神様には見捨てられなかったようで、令和元年度補正予算「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金〔ビジネスモデル構築型〕」に採択されたのだ。
補助上限は1億円。これで何とか勝負を継続できる。

開発本格化、真の課題の発見(2021年3月〜)

"最初の顧客を掴むための製造業のハウスリストを持っている"という強みを活かし、プロトタイプを作る段階から、A社だけでなく複数のクライアントの協力を得ることができた。
比較的楽な交渉でテストクライアントを集められたことは、生産スケジューラへのニーズの強さを物語る。
一方で、「なぜ30年間、大きなイノベーションが起きていなかったのか」についても思い知らされることになった。

当時、クライアント候補となる製造業だけでなく、製造業と取引のあるSIerやパッケージ開発会社にもヒアリングをして回った。
ある会社からは「うちでも(生産スケジューラの)開発を検討したけど、担当者から上がってきた工数見積が300人月以上。断念しました」と言われ、別の会社からは「何社にも販売してきたけど、うまくいった試しがない。おそらく9割のお客さんは運用に乗ってないのでは?」と言われた。
そして、「一番難しいところに手を出すんですね」とも。

「中小製造業向け生産スケジューラをSaaS型で安価に提供」というコンセプトでスタートした最適ワークス。
しかし、テストクライアントと打ち合わせをする度に、これまで聞いていなかった新たな要件が続々と出てくる。
A社においても、"比較的容易に対応できそう"という当初の目論見は外れ、要件が増え続けていく。
それだけでも対応に頭を悩ませているのに、更には各社から上がってくる要件がまるで違うのだ。
インプットデータを共通化しようにも、"人の顔"のように一つとして同じものはなく、千差万別。
意気揚々とスタートしたプロダクト開発には、「プロダクト化なんて無理なんじゃないの?」という不穏な空気が流れ始めた。

市場調査や製造業各社へのヒアリング、そしてテストクライアント獲得を踏まえると、ニーズは間違いなくある。
そして、興味を示したのは中堅・中小だけでなく、大手もだ。
「少なくとも大手であれば、すでに市場にあるパッケージソフトの導入費用と同程度でも提案の土俵には乗るはず。どうしてもプロダクト化が難しそうであれば、最悪受託開発に切り替えよう」
メンバーにはそんな話をした。
話しながら、「受託開発ということになれば、せっかくリクルーティングしたメンバーたちが残ることはないかもしれない」と考えていた。
せっかく集まってくれたこのチームでもっと戦っていくために、何とか突破口を見つけたい。そう簡単に諦めるわけにはいかない。
こうしている間にも、残された時間は刻一刻と減っていく。

絶望とピボット(2021年10月〜)

そうした問題が噴出するかのように、テストクライアントB社の対応が、顧客と約束した期日に間に合わない、という問題が生じた。
プロダクト化への不安・焦りで、社内は一気に険悪なムードになった。
MTGでは、Bizサイドと開発サイドでお互い声を荒げるような場面もあった。
ただ、社内だけで議論していても、何も始まらない。
B社には率直に話し、改めて要件定義を整理させてもらいたい、とお願いした。
Bizサイドと開発サイド、双方から生産計画・サービス仕様に最も詳しい2名が現地に赴き、数日間工場に泊まり込み(と言っても実際は近くのホテルに宿泊)で製造現場を直に見ながら確認させていただくことになった。
生産計画の担当者はどの会社も忙しく、且つ現場に入らせてもらうのは嫌がられる可能性も当然あったが、B社にとっても生産計画のシステム化はそれだけ重要な課題であり、何とか必死に解決しようとしている私たちの姿を好意的に受け止めていただき、快諾いただいた。
かくして、数日間の合宿(?)を経て明確にした要件をベースに、改めてスケジュールを引き直し、開発を再開した。

しかし、多大な工数をかけて取り組んだそのアウトプットを見たB社の回答は、「以前のアウトプットの方が良かった」という驚くべきものだった。
また、合わせて「こういう制約条件を足してみて欲しい」という新しい要件が飛び出したのだ。
最も理解の深い2名があれだけの時間をかけて要件定義をしたにも関わらず、それでも完了していなかった、というわけだ。
たった一社の対応にこれだけ工数がかかっていては、もはやSaaSとしては無理ではないのか。
いや、SaaSどころではない、受託開発としても、だ。
私たちはまた、"崖っぷち"に立たされた。

現状、100・200の顧客どころか、数社、いや、たった一社の生産計画にさえまともに対応できていない。
ただ、問題は「アルゴリズムの実装」ではない。どんなアルゴリズムが必要なのか、そのための「要件定義」が異常に難しいのだ。

ある大手メーカーの地方工場の方と打ち合わせした時のことだ。
200名近い従業員が働くその工場からは、以下の相談をされた。
・生産計画立案業務を自動化したい
・現状は再雇用された一人で行っている
・その唯一の担当者が今年いっぱいで退職することが決まっている
・後任がおらず、生産計画立案のノウハウが共有されていない

"唯一の担当者"で"ノウハウが共有されていない"ということは、要件が正しいかどうか、その担当者以外誰も判断できない、ということだ。まさに「職人技」のように。
要件はどこにも明文化されていないし、簡単に共有できないということは、担当者自身もすぐに言葉にできるわけではない。
今回のB社のように、アウトプットを見て初めて「この要件ではなかった」「こういう制約条件が必要だった」といったことに気づく。

また、クライアントが受託開発的な感覚を持ってしまうと、絶対に満たさなきゃいけない"Must"な要件だけでなく、それを全て満たした上で可能であれば加えたい"Want"の要件も含めて、できるだけ多くの要件を最初に詰め込もうとしがちになる。
後から要件を足してしまうと、「追加費用を請求されるかもしれない」という心理が働きやすいからだ。
理論上は、制約条件が増えれば増えるほど選択肢は減るので、生産性は落ちる。
そのため、"Want"要件も"Must"のように追加した結果、人が立てている生産計画と比べて生産性は落ち、使えないものになってしまう。

では、例えば、このような進め方だとどうか。
1. 最もミニマムな計画からスタートする。例えば、設備・スタッフのシフト(稼働可能時間)のみで、制約条件を一切付加しない状態から。
2. そのミニマムな計画に、"Must"要件を付加していく。"Must"を設定し終わったら、今度は優先度の高い"Want"から順次追加していく。
3. "Want"を追加していく過程で、人が立てた生産計画と比較して生産性が同等のところまで来たらストップ。
こうすれば、「最適な計画」に辿り着けるのではないか。

実際にテストクライアントとやり取りしてきたチームメンバーからは、「そこまでシンプルに整理できるものではない」という意見もあった。
ただ、この「スモールスタート」でのプロジェクトの進め方については、全員が同意してくれた。
プロダクト化を諦めたくないのは、自分一人ではなかった。
そのコンセプトを、そして生産計画の真の課題をクリアするために、それぞれがフィージビリティを検証しながら、プロダクトに組み込んでいった。

最適化をアウトプットするAIエンジンには、様々な制約条件を設定する着脱可能なプラグインの仕組みを実装した。
そして、それらを製造現場の担当者がシステムエンジニアの手を借りずに自身で設定を進めていけるUI/UXを構築した。
徐々に徐々に、一社だけではなく、複数のクライアントの要望に対応できるようになっていった。

「生産スケジューラを開発する」ということは一貫して変わっていないが、その中身は、コンセプト含めて何度も何度もピボットを繰り返してきた。

そしてターンアラウンドへ(2022年4月〜)

2022年4月、最適ワークスは正式リリース。
限られた時間しかなかった私たちは、開発と並行し、市場調査に近い形から営業活動をスタートしてきた。
この正式リリースまでにNDAを締結した企業は200社以上に上る。
まるで"人の顔"のように同じものが存在しないという事実に一度は絶望したが、200社以上の情報から「典型的な人の顔には"目"や"鼻"があり、そこに眼鏡をかける/かけないという選択肢がある」というところまで、解像度を上げて考えられるようになった。
そして、正式リリースから8ヶ月目となる2022年12月、導入社数は70社を超え、ARRは1億円に乗り、今日現在も更に成長し続けている。

正直、シリーズCとしては、物足りない水準かもしれない。
ただ、課題の解像度、市場ニーズ、成長速度、そして"崖っぷち"でも決して諦めない組織を評価していただき、今回の資金調達に至ることができた。

実はこの過程で、私たちはもうひとつ"崖っぷち"を経験している。
ここまでのターンアラウンドは事業サイド最優先で取り組んできたが、そうできるのは、それは支えてくれる管理サイドあってこそだ。
しかし、限界までコストを圧縮して取り組む中で、気づけば負担を強いてしまっていた。
一人、また一人と退社が続き、資金調達にも動き始めなければならないタイミングで、崩壊寸前のギリギリの状態まで追い込まれた。

だが、ここでジョインしてくれたのが後藤(取締役CSO)であり、岡田(取締役CFO)だ。
今回の資金調達が実施できたのは、間違いなく彼らがいたからだ。
スカイディスクに関わって以降、つくづく人に恵まれていると思う。
大した能力のない私がなんとかここまで来れたのは、「運があったから」に他ならない。

最後に

「ターンアラウンドを遂げた」というタイトルを付けていながらなんですが、私たちはまだ何も成し遂げてはいません。
そして、優秀な方々から見れば、この4年間の軌跡は「時間がかかり過ぎ」と思うかもしれない。
ただ、「日本の製造業とともに、世界へ。」という、数年前には口に出せなかったような言葉を、こうして堂々と言えるようにはなった。
ようやくスタートラインに立てた、そんな気持ちでいます。

今回の資金調達で最も嬉しいのは、資金繰りの恐怖から当面解放されるということもありますが(苦笑)、何よりも事業拡大に向けて全力でアクセルを踏める状態になったことです。
私たちスカイディスクが目指すのは、まだまだ先。
最適ワークスに続く新しいプロダクトにも、早々に着手していきたいと思っています。
ということで、当然のことながら採用にはこれまでよりも積極的に取り組んでいきますので、このnoteを見て興味を持った方はお気軽にご連絡ください!

今回のプレスリリースに合わせて採用サイトを新設しました!

YOUTRUSTでカジュアル面談の募集も始めてます!

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